サイエンス

遺伝子はどのようにしてトランスジェンダーを形作るのか?

by Mahrael Boutros

生物学的に判断される性と自身の性認識が違う人々はトランスジェンダーと呼ばれており、かつては差別の対象にもなっていました。それも近年ではLGBTの権利を主張する運動がさかんになり、Appleのティム・クックCEOがゲイであることを明らかにしたり、一部の国や州では同性婚が法的に認められたりトランスジェンダーへの理解は深まりつつあります。オーストラリアの遺伝学者であるJenny Graves氏が、「トランスジェンダーは環境によって形作られるものではなく、遺伝によって受け継がれてきたものである可能性が高い」と説明しています。

How genes and evolution shape gender – and transgender – identity
https://theconversation.com/how-genes-and-evolution-shape-gender-and-transgender-identity-108911

幼児期であれば男の子がかわいい服を着たり女の子のように振る舞ったり、女の子が男の子っぽい遊びに熱中することもそれほど珍しくありません。しかし、成長していくに従って男の子は男の子らしく、女の子は女の子らしくなければクラスメイトからいじめを受けたり、家族から「そんなことはやめなさい」と拒絶されたりするようになります。


子どもたちにとって自身が好きなように振る舞えないのは大きなストレスと苦痛をもたらし、トランスジェンダーの子どもたちにおける自殺率は非常に高いとのこと。大人になっても多くの人が「自分は生まれる性を間違えたのだ」と感じており、中にはホルモン治療や性別適合手術を受けることによって性別を変更する人もいます。近年では男性から女性へ、あるいは女性から男性へと性を変更した人が自らの体験を語ることも少なくありませんが、依然として差別が完全になくなったわけではなく、トランスジェンダーの人々への拒絶感を根強く持っている人も少なくありません。

トランスジェンダーの人々は古くから世界中のあらゆる文化の中に存在していますが、ほとんどの社会においてトランスジェンダーの人々は拒絶や差別の対象でした。この差別は多くが「トランスジェンダーは後天的な理由によってなるものであり、そのような人々は何かがおかしいのだ」という意識に基づいているとのこと。しかし、Graves氏によるとここ数十年でトランスジェンダーについての研究が進み、トランスジェンダーは精神的な要因よりも生物学的な要因によって発生するものだという証拠が数多く発見されているそうです。

by sasint

1988年、Graves氏の研究室を精神科医のHerbert Bower氏が訪れました。Bower氏は当時物議を醸していた性別適合手術を承認する人物であり、同性愛者のコミュニティからは尊敬を集める人物であったとのこと。そんなBower氏は「トランスジェンダーは生物学的な要因で引き起こされるのではないか」とも考えており、その可能性を探るために遺伝学者であるGraves氏のもとを訪れたそうです。

Bower氏は、男性の発育を制御するY染色体上の遺伝子である「SRY遺伝子」に目を付けました。SRY遺伝子は未分化の生殖腺を精巣へと誘導する働きを持っており、精巣で作られたホルモンが男性への性分化を促します。Bower氏はトランスジェンダーの男性においてSRY遺伝子が正常に働かない可能性を考えていましたが、残念ながらSRY遺伝子がトランスジェンダーに直接関与しているわけではなかったとのこと。

確かにSRY遺伝子がうまく働かない突然変異はありますが、SRY遺伝子が働かなかった場合、Y染色体を持っていてもその人物は生物学的には女性ということになるそうです。その後の研究でも性決定に関わる遺伝子の変異がトランスジェンダーを生み出すということは立証されませんでしたが、一連の動きによって「トランスジェンダーは環境的要因ではなく、何らかの遺伝子の働きによって作られるのではないか」という考えが広まったとGraves氏は述べています。

by Jonas Mohamadi

あらゆる遺伝子に関する研究は、多くの場合双子を研究することによって始まります。2011年の研究によると、基本的に同一の遺伝情報を持つ一卵性双生児においては、2人ともトランスジェンダーであるか2人とも生物学的性と精神的性が一致する確率が、通常の兄弟や二卵性双生児よりも高いことが明らかになりました。この結果は、遺伝子がトランスジェンダーに影響を与えていることを示唆しています。

2018年の研究では、性別適合手術を受けたか計画している380人のトランスジェンダー女性380人をサンプルに、ホルモン経路に関わる遺伝子を詳細に調べました。すると、トランスジェンダーの女性は高い頻度で、子宮内で発達している途中のホルモン経路に関わる特定の遺伝子タイプを持っていることが明らかになったとのこと。

Graves氏はこの研究で明らかになった遺伝子だけでなく、他にも多くの遺伝子が男性や女性の性自認に影響を与えていると考えています。もしかすると数百もの遺伝子が働き、幅広いトランスジェンダーを生み出しているのかもしれないとGraves氏は述べました。

by Quintin Gellar

また、これまでの研究からトランスジェンダーに関する遺伝子は性染色体上に存在する必要はなく、トランスジェンダーは生物学的性と関連なしに発生する、分離可能なものである可能性が高まっています。

生物学的性と精神的性が関係ないということは、生物学的男女の中でそれぞれに「男性的な性自認」および「女性的な性自認」が広がっていることを示唆します。つまり、男性の中には「男性的な男性」から「女性的な男性」までが幅広く存在し、女性の中にも「男性的な女性」から「女性的な女性」が存在するということ。

Graves氏はこの種の異なるアイデンティティを「身長など同じ」であると考えています。男性は平均して女性よりも十数cm身長が高い傾向にありますが、女性の中にも身長が高い人は存在し、当然ながら男性の中にも身長が低い人が存在します。トランスジェンダーの問題もこれと同様であるとGraves氏は考えています。

by Kaique Rocha

トランスジェンダーが遺伝的要因に基づくという議論の中で話題になるのが、「もしもトランスジェンダーが遺伝するものならば、生物学的な性と精神的な性が一致しないトランスジェンダーの人々は生殖活動において不利であるため、世代を重ねるうちにいなくなってしまうのではないか」という反論です。

この点についてGraves氏は、「トランスジェンダーに影響を与える遺伝子は、他の性別においてはポジティブな影響を持つ可能性がある」と考えています。つまり、「女性らしい女性」と「男性らしい男性」はより多くの子どもを残す可能性がありますが、女性らしくなる遺伝子が男性に影響した場合にトランスジェンダーになるという仮説です。

ゲイの男性は「男性を愛する遺伝子」を持っており、その親戚の女性も同じ「男性を愛する遺伝子」を持っているはずだとGraves氏は考えています。実際に過去の(PDFファイル)研究では、ゲイの男性を親戚に持つ女性が多くの女性を産む傾向にあるということが明らかになりました。

Graves氏は多くのセクシャルアインデンティティに関する遺伝子変異体が性的拮抗作用と呼ばれるものであり、遺伝子変異が男性と女性において異なる価値を有していると指摘。トランスジェンダーは決して特異で奇妙な現象ではなく、身長が高かったり低かったりするような多様性の一種に過ぎないとGraves氏は述べています。

by Marcelo Chagas

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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