サイエンス

人間社会で「温度によって生まれてくる子どもの性別が変わる」場合に何が起こり得るのか?


一部のワニやカメでは、卵の周囲の環境温度によって子どもの性別が変化する温度依存性決定(TSD)という現象が見られ、温度によって生まれてくる子どもの性別が変化します。科学系メディアのLive Scienceが、「もし人間でも温度によって生まれてくる子どもの性別が変わる場合、何が起こり得るのか?」という疑問についてまとめています。

What if temperature determined a baby's sex? | Live Science
https://www.livescience.com/what-if-temperature-determined-human-sex.html

人間の性別はXとYの性染色体によって左右されていますが、ワニやカメなどの一部のは虫類においては、卵発生中の環境温度が子どもの性別を決定しています。この現象は1960年代から知られており、近年では「地球温暖化の影響で新たに生まれてくるウミガメにおけるメスの比率が高まっている」という問題も浮上しています。

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by deeje

アリゾナ州立大学の生物学者であるKarla Moeller氏によると、温度依存型性決定の動物では暑さや寒さが性ホルモンの分泌に影響を与えるため、性別が温度によって変化する可能性があるとのこと。特にミシシッピアカミミガメなどでは、環境温度が上がると男性の性ホルモンを女性の性ホルモンに変換する「アロマターゼ」という酵素の量が上昇するため、温度が高いほど多くのメスが生まれると考えられています。

は虫類で温度依存型性決定が発達した理由については、「卵の温度が温かいほど胚の発達が加速する」ことが関連しているとの指摘もあります。環境温度が高い卵ほど早くふ化することから、「先に生まれた方が種の生存上有利な性別」が高い環境温度で生まれ、より低い温度で別の性別が生まれる可能性があるとのこと。たとえば、成熟時に一方の性別の個体がもう一方より大きい方が都合がいい場合、より大きく成長させたい性別がより高い環境温度で生まれるようになるかもしれないそうです。

別の理由としては、温度依存型性決定の生物は「集団の状況に応じて次の世代で多数派の性別を選ぶことができる」というものもあります。環境温度が高いとオスが、低いとメスが生まれる動物の場合、群れの個体数が少ないときは涼しい場所に卵を産んでメスを増やし、その次の世代が多く卵を産むようにすることが可能です。また、個体数が十分なときは温かい場所に卵を産んでオスを増やし、より強くて優秀なオスがメスと交尾するように誘導できるとのこと。


温度依存型性決定を有する既知の動物は全て卵生であり、周囲の環境温度によって体温が変化する変温動物です。一方、人間は母親の体内である程度まで子どもが成長する胎生であり、周囲の温度に左右されずに体温を一定に保つことができる恒温動物であるため、温度依存型性決定を有する動物には当てはまりません。

メキシコ国立自治大学の生物学者であるディエゴ・コルテス氏は、「温度依存型性決定には『男の胎児を生み出す体温』と『女の胎児を生み出す体温』という2種類の温度が必要になります。しかし、人間の体温は常に37度程度で一定のため、人間における温度依存型性決定は起こりそうにありません」とコメント。

それでも、何らかの形で人体が微妙な温度の変化を感じ取ることができた場合、温度によって子どもの性別が変化する可能性もゼロではありません。たとえば、人間の概日リズムを制御するタンパク質は動物の体温変化を感知しており、は虫類の温度依存型性決定に関係している可能性もあるとコルテス氏は指摘。また、哺乳類であってもハダカデバネズミのように変温動物であったり、カモノハシのように卵生だったりすれば、温度に依存して子どもの性別が変わるかもしれないとのこと。

by Melbourne Water

オーストラリアのラ・トローブ大学の遺伝学者であるジェニファー・グレイブス氏は、もし人間が温度依存型性決定を有していた場合は、親が子どもの性別を産み分けることが簡単になるだろうと指摘。これにより、社会における男女間の不均衡が大きくなることが問題になり得ると主張しています。

「多くの人々は子どもの性別を決めるのが好きです。悲しいことに、この惑星の多くの場所で好まれる性別は男性です」とグレイブス氏は主張しており、母親が体温を変えることで子どもの性別が変えられる場合、生まれてくる子どもの多くが男性になってしまう可能性が高いとのこと。これを防ぐためには、「妊娠中に体温を変える場合、性別が決まった後にしなくてはならない」といった規則が必要になるだろうとグレイブス氏は述べました。

また、成人集団において一方の性別が過剰に多い状態では、暴力や性的対立の増加が生み出されてしまい、社会の調和が取れなくなってしまう危険もあります。さらに、政府が子どもを産み分けることを禁止したとしても、親以外の外的要因によって子どもの性別が左右され、結果的に社会集団において性別の不均衡が生じる可能性もあるとのことです。

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in サイエンス,   生き物, Posted by log1h_ik

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