「なぜ科学と政治は切り離せないのか」を老舗学術誌のNatureが語る
150年以上の歴史を持つイギリスの学術雑誌「Nature」が、「Natureが今まで以上に政治を扱う理由」と題した社説を2020年10月6日に発表。2020年10月に報じられた「菅義偉首相が日本学術会議の会員候補6名の任命を見送った」というニュースにも触れながら、科学と政治の切り離せない関係についてコメントしています。
Why Nature needs to cover politics now more than ever
https://www.nature.com/articles/d41586-020-02797-1
Natureは創刊当初から、科学と政治に関するニュースや解説、研究論文を掲載してきたとのこと。たとえば、2020年11月3日にはアメリカ大統領選挙が控えており、共和党候補のドナルド・トランプ大統領と、民主党候補のジョー・バイデン氏が論争を繰り広げています。これを受けて、Natureは「バイデン氏が勝利した場合、科学界にどのような影響があるか」「トランプ大統領がこれまで科学界に残した負の遺産」についてまとめた記事を掲載しました。
しかし、そういった政治的な内容を含む記事を掲載するたびに、「科学の専門誌であるNatureになぜ政治関係の話題が取り上げられなければならないのか」という質問が読者からしばしば寄せられるそうです。
Natureは「科学と政治は常に互いに依存してきました。政治家の決定と行動は、研究資金と研究方針の優先順位に影響を与えます。同時に、科学と研究は環境保護からデータ倫理まで、さまざまな公共政策に情報を提供して形成します。政治家の行動は、高等教育環境にも影響を与えますし、学問の自由が守られていることを保証し、平等・多様性・包摂性を守るための努力を行い、疎外されていたコミュニティの声を取り上げるために政府機関に働きかけることができます。ただし、政治家はその逆を行う法律を可決する力も持っています」と説明しています。
例えば、2020年に100万人以上の命を奪った新型コロナウイルスの大流行は、科学と政治の関係をかつてないほど公の場に押し上げ、深刻な問題を浮き彫りにしています。新型コロナウイルス関連の研究は、感染症としては前例のないペースで行われており、政治の指導者が科学に基づきどのように意志決定を行っているのかやまた一部の人々がデマを信じたり科学を誤用したりすることについても世界的に強い関心が寄せられています。もちろん、政治家と政府の関係、科学者と政府の関係も代わりつつあります。
Natureは「政治家たちが学問の自由、つまり学問の自律性を守るという原則に反発している兆候がある」と指摘。学問の自律性とは、たとえ研究のために政治家が公的資金を投入しても、その研究が最終的な結論に至るまで、政治家からの干渉は望ましくないということであるとNatureは解釈しています。また、「政治家や役人が科学者に助言や情報を求めることがあっても、指図することはできない」という理解は、科学と政治の関係を支える基礎の部分であるとNatureは述べています。
たとえば、「アマゾンの熱帯雨林減少に拍車をかけている」と批判を受けていたブラジルのジャイール・ボルソナーロ大統領は、「在任中に森林破壊が加速した」とするブラジル国立宇宙研究所の報告を拒否し、同研究所の所長を解任しました。これは、まさに政治家が科学者に介入した事例といえます。
そしてNatureは、菅義偉首相が政府の科学政策に批判的だった学者6名を日本学術会議のメンバーに任命することを拒否したニュースにも言及。Natureは、「日本学術会議は日本の科学者の声を代表することを目的とした独立組織であり、任命が拒否されたのは、2004年に首相が任命するようになってから初めてのことです」と述べています。
【PDFで全文公開】政府が日本学術会議の任命拒否を認めた内部文書:東京新聞 TOKYO Web
https://www.tokyo-np.co.jp/article/60551
Natureは「国が学問の自律性を尊重するという原則は、現代の研究を支える基盤の一つであり、この原則が侵食されると、研究と政策立案における質の基準と完全性に重大なリスクをもたらします。政治家がこの誓約を破れば、人々の健康、環境、社会を危険にさらすことになります」とコメント。政治家に対して、科学と協力する精神を受け入れ、異なる視点を大切にし、学問の自律性へのコミットメントを尊重するよう、引き続き働きかけていく姿勢を示しました。
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