サイエンス

「持続可能かつ貧困のない未来」は人口を減らさなくても実現可能だとの研究結果


人間による地球環境の破壊が大きな問題となり、持続可能な社会の実現が目標とされる一方で、「持続可能な社会を実現しようとすると、人々の生活水準が大きく低下する」との反発もあります。イギリスの研究チームが新たに発表した論文は、「地球上には全人類に対して貧困ではない水準の生活を提供するために十分な資源がある」と示しています。

Providing decent living with minimum energy: A global scenario - ScienceDirect
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0959378020307512

A Sustainable, Poverty-Free Future Is Possible For All Humanity, Study Reveals
https://www.sciencealert.com/we-don-t-have-to-return-to-the-dark-ages-to-live-in-a-sustainable-future

生態系の崩壊を回避するためには現代の人間社会や世界経済を大きく転換する必要があることは、多くの人々が認識しています。その一方で、世界中には物質的なニーズが満たされず、貧困生活を余儀なくされている人々も多く存在しており、「環境問題を取るか貧困問題を取るか」といった二者択一に話が及ぶことも少なくありません。さらに話が極端にして、「環境活動家は人々の生活を脅かしている」という主張をする人もいます。


地球上に存在する資源には限りがあり、持続可能な社会を実現する上での大きな問題となっています。2018年の研究では、「世界的に持続可能なレベルの資源利用で、70億人以上の人口に対して人間の基本的なニーズを提供することは不可能」と指摘されました。

これらの予測は、継続的な経済成長や高消費の現代的なライフスタイルに基づいていることがよくあります。しかしイギリスのリーズ大学やイェール大学、スイスのローザンヌ大学の研究チームは、現代的な生活における日常的な快適さを損なうことなく、全人口に対して平等に基本的なニーズを満たした「よい生活」を提供できると主張。「環境保護論者は全人類が洞窟生活に戻ることを望んでいる」という決まり文句に反論しています。


研究チームが提唱する「よい生活」とは、以下のような条件となっています。

・1日当たり2000~2150kcalの食事。
・1日当たり50リットルのきれいな水が供給され、そのうち15リットルは入浴に快適なお湯にできる。
・住居の中は年間を通じて20度に保たれる。
・各世帯に調理器具、冷蔵庫、低エネルギーの照明設備、ノートPCなどがあり、各人が自分の電話を所有。
・PCはグローバルネットワークにアクセス可能。
・年間で1人当たり5000~1万5000kmを、さまざまな交通サービスを利用して移動できる。
・国民皆保険サービス。
・5歳~19歳の全ての人に教育を受けさせることが可能。

これらの条件は先進国に住む人々にとっては物足りない可能性があるものの、貧困に苦しむ多くの人々にとっては大幅に高い生活水準といえます。2050年までに環境を整備すれば、全世界のエネルギー消費量を60%も削減し、1960年代と同水準まで下げることができると研究チームは述べています。


研究チームは、記事作成時点における全世界のエネルギー消費量のうち、17%が再生可能エネルギーから得られていると指摘。これは、持続可能な社会に切り替えた場合に必要なエネルギー消費量の約半分を占めています。

これからの30年間で、全世界の人々が研究チームが提唱する「よい生活」に切り替えることは、あまり現実的とはいえません。たとえば、既存の住宅設備などを研究チームが提唱する加熱や冷却にかかるエネルギーが少ない新しい建物に置き換えるには、多くのエネルギーがかかります。しかし、たとえ全ての建物を置き換えたとしても、将来的にはエネルギー消費量の減少による恩恵が上回るとのこと。

論文の筆頭著者であるJoel Millward-Hopkins氏は、「私たちの研究は全体として、『エネルギー消費を持続可能なレベルに削減するのをサポートする技術的解決策がすでに存在する』という長年の主張と一致しています」とコメント。エネルギー消費の削減に伴う物質的な犠牲は、人々が想像するよりも小さいと主張しました。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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