メモ

気候変動に正しく対処することが貧困を減らすことにつながるとの研究結果


気候変動によって特に深刻な影響を受けるのは貧困層の人々である一方、地球温暖化を防ぐための対策が生活コストを上げるため、気候変動対策は貧困層の人々を苦しめるという意見もあります。この対立は人々に「気候か貧困か」の二者択一を迫るものですが、新たにオープンアクセスの学術誌であるNature Communicationsに掲載された論文では、正しい方法で気候変動に対処することが結果として貧困で苦しむ人々を減らすことにつながると示されました。

Combining ambitious climate policies with efforts to eradicate poverty | Nature Communications
https://www.nature.com/articles/s41467-021-22315-9

Fair climate policy could help reduce extreme poverty — Potsdam Institute for Climate Impact Research
https://www.pik-potsdam.de/en/news/latest-news/fair-climate-policy-could-help-reduce-extreme-poverty

Extreme Poverty Will Be Reduced if We Tackle Climate Change Right, Study Shows
https://www.sciencealert.com/fixing-the-climate-crisis-can-also-reduce-extreme-poverty-study-shows


低所得国家に住む人々は気候変動によって引き起こされた災害で家を失う可能性が高いほか、気候変動による農業や漁業への打撃も比較的貧しい人々の生活を脅かします。その一方で、「化石燃料や肥料への助成が途切れればエネルギー価格や食品価格が上昇し、低所得の人々がさらに困窮する」「石炭などの安価なエネルギー源が発展途上国の電力を支えている」といった主張もあり、気候変動対策と貧困対策は二者択一であるとの考えが根強いとのこと。

そこでポツダム気候影響研究所の研究チームは、コンピューターモデルを使用して「地球温暖化への介入が地球の貧困レベルにどのような影響を与えるのか」を予測する研究を実施しました。モデルによるシミュレーションの結果、現状のままでは2030年の時点で約3億5000万人が1日1.9ドル(約208円)以下で暮らす「極度の貧困」に苦しんでしまうことが判明。なお、この予測には新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が及ぼす悪影響は含まれていないそうです。

次に、パリ協定で目標とされた「産業革命前からの世界の平均気温上昇を1.5度未満に抑える」ための気候政策を実施した結果、極度の貧困状態に陥る人々がさらに5000万人増える可能性があるとの予測結果も出ました。論文の筆頭著者であるBjoern Soergel氏は、「気候政策は異常気象や作物の不作といった気候変動の影響から人々を保護します。しかし、これらはエネルギーと食料の価格上昇をもたらすかもしれません。これは、既に気候の影響に対して脆弱(ぜいじゃく)である世界の貧困層にとって、さらなる負担となる可能性があります」と述べています。


ところが、研究チームが「国家や世帯が二酸化炭素を排出した量に応じて炭素価格(カーボンプライス)を支払い、より二酸化炭素排出量が少ない国や世帯に分配する」という仕組みを導入してシミュレーションしたところ、気候変動対策による貧困層への影響を相殺できることが判明しました。それどころか、何もしない状態と比較して2030年の貧困者数が600万人減少したとのことで、むしろ気候変動対策が貧困層を減らすことにつながったそうです。

研究チームが提案する仕組みは、国内における炭素排出量の多い世帯から少ない世帯への再分配に加え、高所得国家から低所得国家への国際的な資金移転を組み合わせたものです。調査によると、先進国が支払うカーボンプライスのわずか5%で、サハラ以南のアフリカにおける気候変動対策の副作用である貧困層の負担増を十分に補うことができるとのこと。

収入は全ての市民に対して平等に還元され、一般的に炭素排出量が少ない貧しい世帯を純受益者に変えます。Soergel氏は、「これは気候変動対策と貧困撲滅の間のトレードオフを相乗効果に変える可能性があります」とコメントしました。

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in メモ, Posted by log1h_ik

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