サイエンス

気候変動の最たる要因は「富」にある、「豊かさはいいこと」という考えから見直すべき


「裕福さ」は基本的によいものとして考えられ、世界中の多くの人が豊かになることを求めて暮らしています。しかし、地球環境を悪化させている主たる要因がこの「豊かさ」であり、今後、エネルギーの技術革新が起こっても過剰消費が続く限り環境破壊は止まらないと、環境科学者・エンジニア・物理学者・経済学者から構成された研究チームが警告しています。

Scientists’ warning on affluence | Nature Communications
https://www.nature.com/articles/s41467-020-16941-y

The latest Scientists Warning on affluence - The University of Sydney
https://www.sydney.edu.au/news-opinion/news/2020/06/25/the-latest-scientists-warning-on-affluence.html

Affluence is killing the planet, warn scientists
https://theconversation.com/affluence-is-killing-the-planet-warn-scientists-141017

New Report Shows Why We Must Tackle Excessive Wealth to Save The Planet
https://www.sciencealert.com/tackling-excessive-wealth-and-consumerism-will-save-the-planet-not-technology-experts-say

近年の研究で、環境に大きなインパクトを与える要因は「テクノロジー」と「消費」の2つだと考えられてきました。これには多くの研究者が同意するところですが、ここ数十年は2つのうち主に「消費」が世界各国の影響要因として特に指摘されています。


Nature Communicationsで発表された論文によると、およそ4000万人に当たる「世界で最も裕福な0.54%」が地球上の生活に関連した温室効果ガス排出量の14%を生み出しているとのこと。一方で、およそ40億人に当たる「世界における収入下位50%」は、温室効果ガス排出量の10%を生み出しています。

また、世界で最も高収入の上位10%は環境への影響全体のうち25~43%の責任を負うと研究者は示しています。これらの人の多くは先進国で暮らしており、「自分は非常に豊かである」と考えていないにも関わらず、持続不可能なリソースを消費しています。

以下のグラフは、オレンジ色が国際的なGDP、紺色が世界全体のマテリアルフットプリント(MF)、緑の波線が化石燃料から放出される二酸化炭素の世界の総量(CO2 FFI)を意味しています。1970年から2020年にかけて、MFとCO2 FFIは基本的にGDPの成長を反映していることがわかります。


裕福な人々と政府が存在する国は、大量消費と充足したライフスタイルを促進する既得権益が存在します。個人の選択は他者や情報に左右されるため、このような既得権益によって人々は「大量消費」のライフサイクルに閉じ込められてしまうとのこと。

このメカニズムのカギとなるのが「Positional consumption」(地位消費)という考えです。ウォーウィック大学教授のフレッド・ハーシュ氏は社会的希少性によって少数の人しか手に入れられない財を「positional good」(地位財)と呼び、人は基本的な欲求を満たすと地位財を求めだし、これが経済成長を生み出すと述べています。しかし、全ての人々が地位財を求め出すと、消費の全体量が増加してしまいます。先進国の「平均的な生活」には地位財が多く含まれているため、先進国の人々が平均的な生活を求めた結果、世界的には大量消費と環境破壊が引き起こされているというわけです。


環境破壊や気候変動を止めるアイデアとして再生可能エネルギーの貯蔵や二酸化炭素の回収といった新しい技術が実現されようとしていますが、消費が環境に与える影響がテクノロジーのそれを上回っている限り、技術革新によって地球環境への影響は抑えられません。

今回の研究に参加したオーストラリアのニューサウスウェールズ大学の環境エンジニアであるトミー・ウィードマン氏はこの点について、「テクノロジーはエネルギーやリソースを抑える効率的な消費に役立ちますが、技術革新はこれまでにないレベルの私たちの消費の増加に追いつきません」と問題を指摘しています。

また同様に論文著者の1人であるイギリスにあるリーズ大学の環境経済学者のジュリア・スタインバーガー氏は「悪化する気候危機から私たちを守るには、『裕福であることや富を持つことは本質的によいことだ』という考え方に挑戦し、不平等を減らすほかありません」と述べました。


研究者たちは環境破壊と富との関係は明らかであり、生活様式と、お金に対する人々のあり方が大きく変わらなければ、状況は悪化する一方だと指摘しています。そのためにはもちろん裕福な人々が個人レベルの犠牲を払う必要がありますが、それに加えて大幅な構造的変化が伴わなければ試みは失敗に終わるともみています。

研究者らは経済において「持続可能な成長」は実現不可能だと主張しており、経済的パラダイムの変化は必須とのこと。


「私たちは経済成長への執着から逃れる必要があります」「たとえ負の成長であっても、我々は気候や自然資源を守るために経済を管理する必要があるのです」とウィードマン氏は述べています。

2018年に発表されたGlobal Sustainable Development Report 2019(世界持続可能開発レポート2019)でも経済を再考する必要性が呼びかけられましたが、大きな関心が払われることはなく、それ以降も格差は拡大し、地球温暖化は進みました。

研究者は、今回の研究結果を受けて、最善の解決策は「最も裕福な人々に課税すること」「弱いエコシステムと貧しい人々に投資すること」だとしています。具体的には、環境税や緑化への投資、富の再配布、最高あるいは最低収入の仕組み作り、ベーシックインカムの保障などが挙げられています。


「このレビューは『何が重要なのか』という別の観点を示し、『人間は自然を支配するものだ』『経済は成長し続けなければいけない』という深く定着した考えを克服する必要性を訴えています」とウィードマン氏は警告しました。

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in サイエンス, Posted by darkhorse_log

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