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大学教員の両親が博士号を持っている割合は一般人の25倍


貧困が子どもの発達に影響することが研究で分かっていますが、新たに、両親の収入が子どものキャリアに影響を与えることが明らかになりました。この研究では、大学教員(教授・教員)の親のどちらかが博士号を持っている割合が、一般人と比べたとき25倍にもなるというような数字も出てきています。

The Wealth Gap in Science: How Your Parents's Income Affects Your Career - YouTube


この問題を取り上げたのはスイス・バーゼル大学の物理学者デイビッド・ブロードウェイ博士が運営する科学系YouTubeチャンネル・Science Discussed。


社会経済的な地位は、科学分野の教授になれるかどうかの一番の指標といえます。たとえば、教授の両親が博士号を持っている確率は一般人の25倍だとのこと。この傾向は数十年以上にわたるもので、近年はさらに強まっているそうです。


「科学は、すべて素質の領域であるべきです。教授になるには科学者としての能力、教師として教える能力、指導者としての資質が必要なのであって、両親の収入や教育レベルとは関係ないはずです」とブロードウェイ氏。

しかし、残念ながらそうなっていないことが、Nature Human Behaviourに掲載された「Socioeconomic roots of academic faculty(大学教員の社会経済的ルーツ)」という論文で示されています。


論文はコレ。

Socioeconomic roots of academic faculty | Nature Human Behaviour
https://doi.org/10.1038/s41562-022-01425-4


調査では、少なくとも両親のどちらかが博士号を持っていると回答した大学教員が22.1%いて、条件を博士号か修士号に下げると半数以上が該当しました。これを同年齢帯の一般人で比較すると、両親のどちらかが博士号を持っているのは1%未満、「親がなんらかの学位を持っている」で7.4%でした。


つまり、一般人と比べて、大学教員の親が博士号を持っている確率は25倍、親が修士号を持っている確率は4.5倍だったということです。


その理由について、ブロードウェイ氏はさまざまなものが複雑に絡み合っていると述べました。たとえば、学内のインサイダー情報と縁故主義が、学内での昇進に重要な役割を果たしている可能性です。しかし、この理由だと、経済的な要素は無視されます。

次に、研究で明らかになったことですが、大学教員は平均して裕福な家の出であるということです。裕福な家の子はより学費の高い学校に通い、よりいい大学に進学できることを意味するといえます。

以下のグラフは横軸が収入、縦軸が人数を示したもので、茶色で示されているのが大学教員の家庭、黒で示されているのが全住所を合わせたもの。縦に線が引かれているのが中央値で、全世帯の中央値より、大学教員の家庭の中央値は高くなっています。


先行研究により、高等教育機関で学位を取得した学生は、アメリカの所得分布で上位1%の出身者である可能性が高いことが判明しています。


また、博士号を取得する学生の数は、親が博士号を持っている学生の方が多いこともわかっています。学部生・大学院生の留年は家族の支援の程度との相関が知られていて、親がお金を出す学生の方が博士課程に進める可能性が高くなります。


ブロードウェイ氏が気になるポイントとして挙げたのは男女差があるのかどうか。以下は、縦軸が大学教員の親が大卒である比率、横が大学教員の誕生年を示していて、1940年代生まれの世代は女性の方が10ポイントほど値が上でしたが、その差はどんどん縮まり、1970年生まれの世代以降はほぼ誤差の範囲といえます。かつて女性大学教員のほうが親が大卒である割合が高かったことについて、ブロードウェイ氏は「女性が学界で生き残るのは非常に困難で、学界での困難や障壁を克服するには、優位性が必要だったから」と述べています。


ただし、この数値の差がなくなったからといってすべてがイーブンになったわけではなく、この特殊な優位性が差別化されなくなっただけだとブロードウェイ氏は補足しています。

続いてブロードウェイ氏が取り上げたのは人種的多様性がどう影響を与えているか。「問題は、学問の世界で成功するために両親の最高学歴がいい指標になるのであれば、黒人やヒスパニックのコミュニティは存在感が薄いままであることです」とブロードウェイ氏。実際、黒人やヒスパニックで両親が博士号を持っているのは1%未満で、白人の約2%、アジア人の約5%を下回っていました。


次は「大学の威信」。博士号を持つ親がいる大学教員の割合は、1940年代生まれが13%、1980年代生まれが26%。そして、トップ20校は一貫して平均より高い割合を維持しています。


これはデータでも示されていて、大学が名門であればあるほど、その教員の親が博士号を持つ割合は高くなります。つまり、名門大学ほど少ない候補の中から教員を選ぶという、科学に逆行するような問題が発生する可能性があるとブロードウェイ氏は指摘しました。


博士号を持つ親がいると大学教員になれる確率が10%近くになるということも明らかになっています。博士号を持っているような親は収入もしっかりしているといえることから、「博士号を持つ親がいることは成功の強力な指標」とまとめることができます。


ただ、この調査開始前に大学教員を辞めた人の調査は行われていないため、性差別、人種差別、階級差別が学業継続の意思にどのような影響を与えるかは示されていないという研究の限界も指摘されています。


そして、この研究は「社会経済的地位が大学教員であることに与える影響」について調べていますが、「社会的地位が低い人が経験する社会的・職業的困難」は示していません。たとえば、女性は有能とみなされる可能性も、研究で表彰される可能性も、講演に招待される可能性も、公正な報酬を得る可能性も低く、同様に黒人教員は生産的には測定可能な差がないにも関わらず、収入が少なく、研究に対する評価が低い場合があります。


ブロードウェイ氏は、科学の世界も他の職場と同じように暗黙の偏見があり、それが多様性の欠如につながっていると批判し、科学の発見においては異なるバックグラウンドを持つ人がもたらす異なる考え方こそが重要で、そのために多様性が必要だと主張。新たな教員の採用時には性別、人種、社会経済的地位、出身国など、多様性のあらゆる側面を考慮することで多様性が最大化でき、こうした偏見の最小化につながると期待を寄せました。最後にブラードウェイ氏は「科学は、常に新しい考え方に適応します」と話を締めくくりました。

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in 動画, Posted by logc_nt

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