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空気中の二酸化炭素を吸い上げるコストは意外と安い



世界有数の資産家となったMicrosoft創業者のビル・ゲイツ氏はその資産をさまざまな慈善事業に投じています。その一つが大気中から二酸化炭素を抽出して燃料などを作り出すというものですが、これには「コストがかかりすぎる」という問題点がありました。しかし、実際にカナダに建造されたプラントでの分析で、過去の想定よりもかなり安価に二酸化炭素を抽出できることが報告されています。

Sucking carbon dioxide from air is cheaper than scientists thought
https://www.nature.com/articles/d41586-018-05357-w

カナダに建造されたプラントがどういうものなのかは以下の記事を読むとよく分かります。

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2011年に報告されたアメリカ物理学会のレポートでは、二酸化炭素を1トン抽出するのに少なくとも600ドル(約6万6000円)かかるとされていました。しかし、カナダで実際に二酸化炭素抽出プラントを運用しているカーボン・エンジニアリングの研究者による調査結果では、大気から二酸化炭素を1トン引き出すのにかかるコストは94ドル(約1万円)から232ドル(約2万5000円)に収まるとのこと。カーボン・エンジニアリングのチーフサイエンティストでありハーバード大学の気候物理学者でもあるデイビッド・キースさんは「我々は二酸化炭素固定事業を真剣に商業化しようとしている」とコメントを出しています。

二酸化炭素固定事業を営む事業者はカーボン・エンジニアリングの他にスイスのClimeworksがいます。Climeworksはスイスのチューリヒでプラントを運用していますが、現在1トンの二酸化炭素を抽出するのに約600ドル(約6万6000円)かかっているとのこと。ただし、Climeworksの職員の予想によると操業が増加するにつれて5~10年後にはコストが100ドル(約1万1000円)を下回る見込みです。

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カーボン・エンジニアリングのプラントでは、空気を水酸化カリウム溶液を含む塔に通すことで二酸化炭素を炭酸カリウムに変化させ、その後さまざまな処理を行って炭酸カルシウムの塊にします。炭酸カルシウムは過熱すると酸化カルシウムと二酸化炭素に分離するので、二酸化炭素だけを取り出して圧縮し、パイプラインを通して地下に埋められています。カーボン・エンジニアリングは将来的にこの二酸化炭素を使用して燃料を合成する計画をたてており、キースさんによると燃料はリットルあたり1ドル(約110円)以下で生成できるとのこと。このようにプラントを最適化した場合に二酸化炭素の処理コストを1トンあたり94ドル(約1万円)まで低くできるとされています。


アリゾナ州立大学のネガティブエミッションセンターのトップであるクラウス・ラックナーさんによると、仮に二酸化炭素を1トンあたり100ドル(約1万1000円)で処理できるとした場合、車の排ガスによって生まれる二酸化炭素を相殺するにはガソリン1リットルあたり22セント(約24円)かかることになるとのこと。「1リットルあたり22セント(約24円)というのはそれほど高すぎるという金額ではない」とラックナーさんは述べています。

結局のところ、二酸化炭素固定事業が利益を生むかどうかはエネルギーの価格や政府の補助金などの要素に左右されますが、まだしばらくは炭素の抽出にかかるコストが炭素の市場価格を下回ることはなさそうです。例えばEUの炭素クレジットでは現在1トンあたり約16ユーロ(約2000円)で取引が行われています。しかし、二酸化炭素を大気から抽出する技術は、燃料のような有用な製品に転換できる場合に、市場への足掛かりを得ることができるとみられています。

カーボン・エンジニアリングは2021年までに毎日200バレルの燃料を生産する施設を建設する計画をたてており、さらに、毎日2000バレルの燃料を生産する商業プラントを建設する計画もあるとのことです。

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