サイエンス

政府機関が「ガスコンロの使用禁止」を検討中、室内の空気を汚染して健康上のリスクを高めるという懸念から


日常の料理やお湯を沸かすためにガスコンロを利用している人も多いはず。ところがアメリカの政府機関は、ガスコンロが室内空気を汚染して小児ぜん息のリスクを高めるという懸念から、「ガスコンロの使用禁止」を検討していると報じられています。

US Safety Agency to Consider Ban on Gas Stoves Amid Health Fears - Bloomberg
https://www.bloomberg.com/news/articles/2023-01-09/us-safety-agency-to-consider-ban-on-gas-stoves-amid-health-fears

A US federal agency is considering a ban on gas stoves | CNN Business
https://edition.cnn.com/2023/01/09/business/gas-stove-ban-federal-agency/index.html

近年ではガスコンロではなくIHコンロを使用する家庭も増えていますが、日本では過半数の家庭でガスコンロが使われているほか、アメリカでも依然として約40%の家庭が天然ガスコンロを使用しています。しかし、ニューヨーク大学のシンクタンク・Policy Integrityアメリカ化学会が2022年に発表したレポートによると、ガスコンロの使用は二酸化窒素一酸化炭素粒子状物質などの大気汚染物質を、WHOなどが呼吸器疾患や心血管系の問題に関わると述べているレベルで排出するとのこと。

また、2022年12月に査読付き科学誌のInternational Journal of Environmental Research and Public Healthに発表された論文では、アメリカにおける小児ぜん息の症例の約12%以上において、ガスコンロの使用が原因になっている可能性があると指摘されました。論文の共著者であり、非営利のクリーンエネルギー推進団体のRMIでカーボンフリー部門のマネージャーを務めるブレイディー・シールズ氏は、「ガスコンロが私たちの健康に悪いことを示す研究は約50年にわたって行われており、最も強力な証拠は子どもの健康および小児ぜん息に関するものです。ガスに接続することで、私たちは家の中を汚しているのです」と主張しています。

ガスコンロが健康問題を引き起こすという研究結果は繰り返し報告されており、二酸化窒素やPM2.5がのど・気管・肺などの呼吸器にダメージを与え、小児ぜん息のリスクを上げることが指摘されています。

ガス調理器が子どものぜん息を引き起こしているかもしれない - GIGAZINE


ガスコンロの使用が健康問題を引き起こすという懸念に対処するため、家電製品や子ども用品などのガイドライン作成やリコール監査などを行う独立政府機関の米国消費者製品安全委員会は、ガスコンロの使用禁止を検討していると海外メディアのBloombergが報じています。米国消費者製品安全委員会のコミッショナーを務めるリチャード・トルムカ氏は、「これは隠れた危険です」「あらゆる選択肢があります。安全性を確保できない製品は禁止することができます」と述べています。

米国消費者製品安全委員会は、今後数カ月以内にガスコンロがもたらす健康被害についてのパブリックコメントを受け付ける予定だとのこと。トルムカ氏は、検討される選択肢はガスコンロの製造や輸入を禁止することだけでなく、ガスコンロからの排出ガスに制限を設けるといったものもあると説明しています。


民主党のコリー・ブッカー上院議員とドン・ベイヤー下院議員は、2022年12月に米国消費者製品安全委員会へ送付した書簡で、ガスコンロの警告ラベル添付や上部の換気扇(レンジフード)設置、性能基準の策定などを求めています。2人はガスコンロによる室内空気汚染が、ガスコンロを使っている割合が多い黒人・ラテン系・低所得家庭の「累積的な負担」になっていると主張しました。

ガスコンロの使用を規制する動きは、気候変動を悪化させる温室効果ガス排出を削減するため、天然ガスなどの化石燃料を規制しようとする動きと一致しています。Bloombergによると、アメリカではすでに100もの市や郡で化石燃料を用いる建物からの移転を奨励する政策を採用しているとのこと。また、ニューヨーク市議会では2024年以降に建てられる7階建て未満の新築建物において、天然ガスの使用を禁じる法案が通過したほか、カリフォルニア州は2030年までに天然ガスヒーターと給湯器の販売停止を目指しています。2022年8月に成立したインフレ削減法も気候変動対策に注力しており、IHコンロを購入する低・中所得家庭に対して最大840ドル(約11万円)の補助を出すことが含められています。


ガスコンロを規制する機運が高まる一方で、天然ガス事業者やガスコンロメーカーなどはこの動きに反対しています。ガスコンロメーカーを含む業界団体の米国家電製品協会は、どんな種類のコンロを使用しても調理によって温室効果ガスや有害な副産物が排出されるため、ガスコンロの規制は有効ではないと主張しています。

米国家電製品協会の広報担当であるジル・ノティーニ氏は、「ガスコンロの禁止は、全国の家庭の40%以上で使用されている安価で好ましい技術を取り除くでしょう」「特定の技術を禁止することではなく、換気こそが実際に議論されるべき問題です」「1種類の調理器具を禁止しても、全体的な室内空気汚染に関する懸念に対処することはできません。私たちは行動を変える必要があるかもしれませんし、料理をする時には換気扇をオンにするべきかもしれません」と述べました。

また、天然ガスの業界団体であるアメリカガス協会は、環境に対して大きな影響を持たない家庭やレストランが負担するコストを押し上げると主張しているほか、ガスコンロが健康に悪いという証拠も十分に提示されていないと反論しています。アメリカガス協会のカレン・ハーバート会長は、「エネルギーがクリーンであると同時に、安全で信頼性が高く、手頃な価格を維持したまま持続可能な未来を実現するための最も実用的で現実的な方法は、天然ガスとそれを輸送するインフラストラクチャーを保証することです」と訴えました。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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