レーザーで戦闘機やミサイルの極超音速飛行を可能にする技術が開発されている
防衛技術の研究開発において近年最も重要なトピックが、極超音速兵器と指向性エネルギー兵器です。近年、この2つを組み合わせて、「レーザーなどのエネルギー兵器を前方に照射し、極超音速飛行を可能にする」技術が開発されていると、兵器や乗り物に関するニュースサイトのThe Driveが解説しています。
Blasting The Air In Front Of Hypersonic Vehicles With Lasers Could Unlock Unprecedented Speeds
https://www.thedrive.com/the-war-zone/33859/blasting-the-air-in-front-of-hypersonic-vehicles-with-lasers-could-unlock-unprecedented-speeds
極超音速兵器はマッハ5.0、つまり音速の5倍以上の速度で飛行する戦闘機やミサイルのこと。そして、指向性エネルギー兵器とは、ロケット弾やミサイルではなく、レーザーやマイクロ波、プラズマビームなど、意図した目標に高いエネルギーを照射して破壊する兵器です。
極超音速兵器は、発射から目標到達までの時間が大幅に短縮されるので、レーダーで捉えても対応できる可能性が低くなります。また、通常の弾道ミサイルは地上から弧を描くように落下するのに対して、ものすごい速度でまっすぐに落下する極超音速兵器は、従来の弾道ミサイル迎撃システムでも対応できないとされており、アメリカ軍は将来の戦略に不可欠な兵器であるとして積極的に研究開発を進めています。
例えば、アメリカ空軍とロッキード・マーティンが共同で開発したAGM-183A ARRW(空中発射高速応答兵器)は、宇宙空間から発射されてマッハ20まで加速するミサイルだとのこと。
Behold, the AGM-183A Air-launched Rapid Response Weapon (ARRW), the most advanced hypersonic boost-glide missile in development.
— Steve Trimble (@TheDEWLine) February 28, 2020
Lockheed Martin just released the image, which I’m calling the most useful official rendering of a boost-glide system yet released by anyone. pic.twitter.com/DRIpDDSGhZ
こうした極超音速兵器は非常に開発が難しく、予算がかかります。実際に、アメリカ空軍とロッキード・マーティンは空中発射型ミサイルのHCSW(超音速通常攻撃兵器)も開発していたそうですが、予算の問題で中止となっています。
極超音速兵器を実現するためには、2つの壁があるとのこと。1つは「空気抵抗をどうやって軽減するか」、もう1つは「大気との摩擦熱の影響をどうするか」という問題です。
空気抵抗については兵器の形状で対応できるものの、極超音速を実現するための機材を搭載する必要があったり、材料工学の限界もあったりするため、自由に形状を変化できません。
また、極超音速で大気圏内を飛ぶと、大気との摩擦熱で温度が異常に上昇し、内部に搭載している機器に大きな影響が出ます。摩擦熱の問題は内部兵器の表面に耐熱材を張り巡らせれば解決できますが、兵器の重量が増加するため、航続距離や最高距離が落ちてしまいます。
極超音速兵器の研究が難航する一方で、指向性エネルギー兵器については技術の進歩によって出力の向上や装置の小型化が実現しています。例えば、2020年5月にアメリカ海軍が揚陸艦に搭載したレーザー兵器でドローンを撃墜することに成功しています。
軍艦からレーザービームでドローンを撃墜するテストに成功したとアメリカ海軍が発表 - GIGAZINE
また、攻撃ヘリコプターのAH-64 アパッチにレーザー兵器を搭載する試験が行われ、成功しています。
攻撃ヘリコプター「アパッチ」にレーザー兵器を搭載する試験に米軍が成功、実戦投入は近いとの予想も - GIGAZINE
そこで、この指向性エネルギー兵器の技術を応用して、極超音速兵器実現に立ちふさがる2つの壁を打破しようという試みを、NASAやアメリカ軍が行っています。
1983年、NASAによる資金投入の下、エンジニアのレイク・マイラボ氏が率先して、レーザーを使って推進力を得る「ライトクラフト」の研究が行われました。これは飛翔体の内部から前方にレーザービームを発射し、飛翔体の前方に衝撃波を生成することで、大気を押し出して空気抵抗を減らすというもの。しかし、あまりにも急進的なコンセプトだったため、マイラボ氏の研究が本格的に兵器に転用されることはありませんでした。
1999年、マイラボ氏の研究に似た研究論文が発表されました。これは、極超音速機のの先端から電気アーク、レーザー、あるいはマイクロ波を放射することでプラズマを形成し、推進力をアップさせるというものでした。
「指向性エネルギーによる極超音速兵器の実現」の研究はさらに続けられ、2005年にはDEAS(レーザー支援型指向性エネルギーエアスパイク)の実証実験が行われました。以下の画像が、極超音速風洞で実際にテストしたところ。半球型テストモデルの前方の空気が、レーザーでプラズマ化しています。なお、DEASはニューヨークの連セラー効果大学とブラジルの研究者の共同研究で開発され、実験にはマイラボ氏も参加しています。
ここから、「指向性エネルギーで戦闘機やミサイルが受ける空気抵抗を下げる」というアイデアは、NASAやアメリカ軍で積極的に研究されるようになりました。2019年には、超短パルスレーザーを使って戦闘機の周囲の空気をイオン化して過熱する「エネルギー堆積」という技術についての研究も始まりました。
もちろん、記事作成時点で明らかになっているのは公に発表されたものだけであり、特にエネルギー堆積については秘密裏に研究が行われていることは間違いありません。The Driveは「『指向性エネルギー兵器』と『極超音速兵器』という最先端の技術研究の2つが融合して『エネルギー堆積』という技術になるにつれて、まったく新しい形の飛行機の設計ができるようになり、大気圏内での速度追求という点で新しいフロンティアが解き放たれるかもしれません」とコメントしています。
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