「友人や家族を信頼すること」がうつ病のリスクを減少させる可能性
うつ病は世界中で数億人以上が苦しむ病気ですが、依然としてわかっていない点も多く存在しています。10万人以上のデータを基にうつ病と関連している可能性がある100以上の潜在的な要因を調査する新たな研究によって、「友人を信頼することがうつ病リスクを低下させる可能性がある」ことが判明しました。
An Exposure-Wide and Mendelian Randomization Approach to Identifying Modifiable Factors for the Prevention of Depression | American Journal of Psychiatry
https://ajp.psychiatryonline.org/doi/10.1176/appi.ajp.2020.19111158
Study identifies social connection as the strongest protective factor for depression | EurekAlert! Science News
https://www.eurekalert.org/pub_releases/2020-08/mgh-sis081420.php
Large Study on Depression Reveals The 'Protective Effect' of Confiding in a Friend
https://www.sciencealert.com/large-study-on-depression-reveals-why-you-should-get-off-the-couch-and-go-see-a-friend
論文の筆頭著者でハーバード大学公衆衛生学部の研究者であるKarmel Choi氏は、「うつ病は世界中の障害の主要な原因ですが、これまでの研究者らはほんの一握りの要因、主に1つか2つの要因のみに焦点を当ててきました」と指摘。今回の研究では、うつ病のリスクに影響を与える要因に関するより包括的な分析を目的にしたとのこと。
そこで研究チームは、うつ病の要因について2段階のアプローチで調査することにしました。まず、研究チームはUKバイオバンクに含まれる10万人以上のデータベースを利用して、社会的相互作用・メディアの利用・睡眠習慣・食生活・身体活動・環境的な要因など、106個もの要因を抽出してスキャンし、うつ病のリスク要因を包括的に比較しました。
次に、この結果にMendelian randomization(メンデルランダム化)という手法を適用して、どのリスク要因がうつ病と因果関係を持っているのかを調査したとのこと。メンデルランダム化とは、物事の関連に因果関係があるかどうかを判断する統計的手法であり、主に遺伝学の分野で使われています。
研究チームは以前にも、身体活動とうつ病のリスクとの関連をメンデルランダム化で分析しています。うつ病の人は運動量が少ない傾向があるということは以前から知られていましたが、これは「運動量が少ないとうつ病にかかりやすくなる」のではなく、単に「うつ病が身体活動の減少を引き起こす」ということを示唆するだけの可能性もありました。そこで研究チームはメンデルランダム化を使用した分析を行い、「運動量が少ないとうつ病にかかりやすくなる」という因果関係を支持する結果が得られたと報告しています。
今回の調査の第一段階では、睡眠習慣や食生活といった多くの要因が、うつ病のリスクと相関関係があることが判明しました。この結果をさらにメンデルランダム化で分析したところ、「友人や家族を信頼して頻繁に交流すること」がうつ病のリスクを下げるという因果関係を支持する結果が示されました。他者への信頼や社会的交流によるうつ病からの保護効果は、遺伝的な要因や幼少期のトラウマといったうつ病のリスクを高める要因を持つ個人でも見られたと、研究チームは報告しています。
「これらの要因の中で最も顕著だったのは、家族や友人を訪問することを含む他者への信頼であり、いずれも社会的なつながりと結束によるうつ病の保護効果を示していました。これは社会的距離が保たれて友人や家族と離れている現在、これまでになく重要になっています」と、研究チームのJordan Smoller氏はコメント。
今回の研究では、TVを見る時間や昼寝をする習慣がうつ病のリスクを増加させる可能性があることも示されました。しかし、これらがうつ病のリスクとどのように関わっているのかについては、さらなる研究が必要だと研究チームは考えています。たとえば、TVを見る時間が長いと座りっぱなしの時間が長くなり、結果として運動量が減ってうつ病のリスクを高める可能性があります。また、昼寝はうつ病によって日中の眠気が増進された結果かもしれず、複雑なフィードバックループが関わっている可能性があるとのこと。
Smoller氏は、「私たちは数年前まで不可能だった大規模なデータベースを通じたアプローチを使用して、公衆衛生上の重要な問題に対処できるようになったことを示しました。この研究が、うつ病を予防するための実用的な戦略を開発するさらなる努力の動機となることを願っています」と述べました。
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