Unreal Engine追放問題でEpic GamesがAppleに絶対に負けられない理由
by Joshua | Ezzell
App Storeで配信されるアプリに課される「30%」という手数料を不服として訴訟を起こしたEpic Gamesに対して、AppleがEpic Gamesの開発するゲームエンジンUnreal Engineをブロックするという報復措置を執りました。この一件について、Unreal Engineがブロックされるという事態がどれほどの余波を生み出すのか、IT系ニュースサイトのThe Vergeが解説しています。
Why Epic can’t afford to lose the Unreal Engine in its legal fight with Apple - The Verge
https://www.theverge.com/2020/8/26/21402443/epic-fortnite-apple-unreal-engine-ios-game-developers-lawsuit
App Storeのアプリの売上に課せられる手数料を回避するため、Epic GamesはiOS版「フォートナイト」にApp Storeを経由せずにゲーム内通貨を購入できる新システムを実装しました。これに対してAppleはiOS版フォートナイトを規約違反としてApp Storeから削除しただけでなく、Unreal Engineの開発者アカウントを停止すると通達しました。
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Unreal Engineの開発者アカウントが停止されると、Unreal Engineを使ったiOSとmacOSで動作するゲームやアプリケーションの開発が不可能になります。近年のゲームは「プレイステーションでもXBoxでも動く」というように、複数のプラットフォームで動作するマルチプラットフォームを前提として開発されるため、Unreal Engineで作成されたゲームがiOSとmacOSでプレイできないならば、必然的にUnreal Engineは開発時の選択肢から外れます。
The Vergeが問題視しているのは、「Unreal Engineがゲームエンジンとして替えが効かない」という点です。Unreal Engineで開発された最近の有名なゲームとしては、「ファイナルファンタジーVII リメイク」や「Valorant」、「ボーダーランズ 3」などがあります。さらに、Unreal Engineの最新版であるUnreal Engine 5では、「粗収入が100万ドル(約1億700万円)を超えるまでロイヤリティを免除される」とされているため、多くのインディーズゲームの開発者がUnreal Engineを採用しています。
Unreal Engineが使われているのはゲーム業界だけではありません。映像業界もCGなどにUnreal Engineを使用しており、ディズニーのスターウォーズ実写ドラマ「マンダロリアン」もUnreal Engineによる仮想セットを使用しています。
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アウディ、ポルシェ、フォルクスワーゲンなどの自動車メーカーも、自動車の設計において情報を視覚化するためにUnreal Engineを使っているとのこと。また、建築業界もUnreal Engineで進行中のプロジェクトをリアルタイムで視覚化して、建築物の設計に役立てているそうです。
さらに、リアルタイムグラフィクスやオーバーレイ、リアルタイムレンダリングアセットを備えたUnreal Engineは、放送およびライブイベント制作にもライセンス供与されています。以下はアメリカのEntertainment Studiosの天気予報番組The Weather ChannelがUnreal Engineを使って作成した地球温暖化に関する解説ムービーです。アナウンサーの周囲に自然災害がシミュレートされており、Unreal Engineの生み出す視覚効果によって映像のインパクトが増して印象に残りやすい番組になっていることがわかります。
The Science Behind Vanishing Ice - New Immersive Mixed Reality - YouTube
以上のように、Unreal Engineは多くの分野で採用されていますが、もし開発者が他のエンジンへの切り替えを余儀なくされた場合、開発中のプロジェクトは文字通りゼロからスタートする羽目になるとのこと。Unreal Engineが追放されても、すでにリリースされているゲームやアプリが排除されることはありませんが、OSのアップデートによって登場する新機能を新たに組み込んだり、バグ修正などのパッチを配布したりすることは不可能になります。
Epic Gamesの法務チームはAppleによるUnreal Engineの追放を「Unreal Engineが完全破壊される」と表現しています。Apple対Epicの審理を担当した裁判官はUnreal Engineの追放を一時的に差し止めていますが、2020年9月28日に行われる仮処分の申し立てに関する審理次第では、この一時措置さえ撤回される可能性があります。
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