なぜMicrosoftはTikTokを買収しようとするのか?
中国発のショートムービー共有サービス・TikTokをアメリカのトランプ政権が排斥しようとする中、MicrosoftがTikTokの買収に名乗りを上げました。MicrosoftにとってTikTokの買収にどんなメリットがあるのかについて、IT系メディアのThe Vergeが解説しています。
Why Microsoft wants TikTok - The Verge
https://www.theverge.com/2020/8/3/21352309/microsoft-tiktok-acquisition-deal-why-us-countries-data
アメリカのドナルド・トランプ大統領が2020年8月3日に「2020年9月15日までにTikTokをアメリカ企業に売却すること」を、TikTokを運営するByteDanceに要求しました。その売却先として最も有力視されているのが、ブログで買収検討の意思を明らかにしたMicrosoftです。
トランプ大統領がTikTokに「2020年9月15日までにアメリカ企業に売却すること」を要求、Microsoftが買収に名乗り - GIGAZINE
Microsoftは、マインクラフトを開発したMojang、ビジネスSNSのLinkedIn、ソフトウェア開発プラットフォームのGitHubなど、名だたる企業の買収に成功しています。Microsoftは基本的に各企業の独立性を維持していることから、The Vergeは「MicrosoftはSkypeとNokiaの電話事業を乱雑に買収して失敗し、大きな教訓を得ました」と述べ、TikTokが買収されてもブランドは引き続き残るだろうと予想しています。
一方で、「TikTokで得られたデータはMicrosoftの盲点を修正するのに役立ち、社内で他のソフトウェアやサービスを開発する方法にも影響を与える可能性があります」とThe Vergeは指摘。The Vergeによれば、Windowsを抱えるMicrosoftはソフトウェアビジネスに必要なデータやノウハウは持っているものの、BtoCサービスでは成功例がないために消費者行動の認識にズレがあり、このズレをTikTokで解消する狙いがあるとのこと。
例えば、PCのOSではMicrosoftのWindowsが圧倒的にシェアを握っていますが、スマートフォンなどモバイル端末を多く使う若い世代の多くがAndroid、iOS、Chromebookを多く利用しています。実際、メールとドキュメント共有はもはやGoogleのGmailやGoogleドキュメントがほぼシェアを握っています。Microsoftはスマートフォン登場からの「モバイル化の波」に乗り遅れてしまったため、GoogleやAppleに追いつくためにTikTokをどうしても抱え込みたいのではないかとThe Vergeは推測しています。
また、GoogleはYouTubeのユーザーをクラウドゲームサービス「Stadia」に取り込むことを計画しているように、Microsoftもクラウドゲームサービス「Project xCloud」にTikTokのユーザーを取り込むことを計画している可能性があります。「TikTokでシューティングゲーム『Call of Duty』のプレイムービーを見て気になったら、画面をクリックするだけですぐに『Call of Duty』をプレイできるようにすることが可能になるというわけです」とThe Vergeは指摘しています。
さらに、TikTokはユーザーにおすすめのムービーや映像加工用のフィルターを紹介する機能やムービー内の顔認識機能にAI技術を利用しているため、MicrosoftにとってTikTokは「消費者向けのAIの応用例」になり得ます。同時にMicrosoft Mixed RealityやHoloLensなど、VR・AR技術を応用したフィルターや広告の実験場としてもTikTokは期待できます。
そしてThe Vergeは、「Tiktok買収の問題で最も重要なのは、Microsoftがアクセスするであろうデータとユーザーの取り扱いについてです」と指摘しています。これについてMicrosoftは、TikTok買収の検討を明らかにしたブログ投稿の中で、「MicrosoftはTikTokのアメリカ人ユーザーのすべての個人情報がアメリカに転送され、アメリカの外に持ち出されることはないことを保証します」とブログ投稿の中で述べています。
なお、アメリカに限らず世界全体がTikTokを排除する方向に向かっているため、MicrosoftがTikTokを順調に買収できるかどうかは不明ですが、MicrosoftはTikTok買収を示唆するブログ投稿の中でトランプ大統領の「個人的関与」に謝意を述べています。アメリカの経済紙ウォール・ストリート・ジャーナルは、「Microsoftは大統領の支持者からTikTokの買収を公に認めるように圧力をかけられたためにブログ記事を投稿した可能性がある」と指摘しています。
また、中国政府が香港のソーシャルメディア投稿やアカウントを削除できるようになる香港国家安全維持法が2020年6月30日に施行されたことで、TikTokは本社を中国・香港からイギリス・ロンドンに移設する計画を立てていると報じられています。経済メディア大手のCNBCは、Microsoftが買収するのはアメリカ・カナダ・オーストリア・ニュージーランドにおける事業のみであり、ヨーロッパを含めた100カ国以上は引き続きロンドンを拠点にByteDanceが運営していくだろうと予想しています。
「TikTok」が本社を中国からイギリスに移転する計画を立てている - GIGAZINE
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