インタビュー

「海中でクラゲに囲まれた時の体験」ができる水槽「GURURI」の誕生秘話をリニューアルした京都水族館「クラゲワンダー」で聞いてきた


360度パノラマでクラゲに囲まれる体験ができる「GURURI」と、クラゲの研究の様子を間近で見られる「京都クラゲ研究部」などが楽しめる京都水族館の「クラゲワンダー」について、京都水族館の松本克彦館長と河崎誠記副館長にリニューアルの詳しい話を伺ってきました。

新展示エリア「クラゲワンダー」 | 梅小路京都西駅からすぐ「京都水族館」【公式サイト】
https://www.kyoto-aquarium.com/renewal_Area/

写真に写っている左側の人物が河崎誠記副館長で、右側が松本克彦館長。


Q:
館長にお伺いしたいのですが、リニューアルにあたって「なぜクラゲなのか?」ということを教えてください。

松本克彦館長(以下、松本):
まず「なぜクラゲなのか?」ということなんですが、開館以来、私たちは「移動水族館」ということでクラゲの水槽を持って幼稚園に毎年行っていたんです。幼稚園児のみなさんが本当に喜んでくれますし、幼稚園児だけじゃなく、シニアまで含めて老若男女・世代まったく関係なくお楽しみいただける、癒やされるのがクラゲだというのが理由の1つです。
あと開館以来、飼育チームが定期的に京都府宮津市の方に行ってクラゲを採集するなど調査をずっと続けておりますが、クラゲにはまだまだ分からないことが圧倒的に多いんです。クラゲの研究を力を入れてさらに深めて参りたいという面もありまして、今回はクラゲにフォーカスしました。


Q:
見どころや、どんなところを楽しんでほしいかという点はありますか?

松本:
クラゲの展示自体はこれまでもあったわけですが、「どんなクラゲがいるんだろう?」というクラゲのより不思議な生態をもっと身近に実感していただきたいということで、クラゲに包まれるような360度パノラマ水槽を作りました。


松本:
クラゲの360度パノラマ水槽は日本初ですし、癒やされていただきたいと思います。あと、今までバックヤードでやっていた飼育や繁殖といった作業を表に出して、オープンスペースで間近にご覧いただけるような「京都クラゲ研究部」を作りました。これによってスタッフとお客様との間で質疑応答やコミュニケーションが生まれる施設になっています。そんな新しくできた施設でぜひともお楽しみいただきたいなと思っております。


河崎誠記副館長(以下、河崎):
「なぜクラゲなのか?」という点に補足しますと、実は京都水族館開業時に少しクラゲの展示をしていたんですけど、その頃に「京都にどんなクラゲがいるか?」を調査している人がいなくて、開業当初からずっと調査を続けてきました。その上で飼育の技術も上がってきましたので、満を持してクラゲを選ばせていただきました。調査する中で、「この年にこのクラゲがたくさんいるね」とか、「去年あんなにいたクラゲがぱったりいなくなったね」ということが分かってきてますので、そのあたりも今後発信ができればと思っております。


Q:
最初にリニューアルをする予定があったわけではなく、クラゲの研究実績が積み上がってきたからリニューアルしようということになったのですか?

河崎:
タイミングとしては、どちらもあったのかなと。クラゲ以外も続けている研究がいろいろあるということと、どうやって発信をしていくかっていうのは常々相談をしております。リニューアルしようというタイミングと、クラゲをもう少し充実させたいなというタイミングがあって、クラゲの展示になったというような形です。

Q:
開業前からクラゲを研究されていたということですが、研究成果には具体的にどんなものがあるのでしょうか?

河崎:
まずは100%人工海水で飼育をしておりますので、最初は「人工海水でクラゲが飼育できるのか?」というところからスタートしております。その後、年々いろんな海水を試して飼育ができるということは分かっていったんですけど、海水の使用量を少なく、かつ健康な状態で飼育するというところを進めています。当館としても繁殖に重点をおいて進めておりまして、最初はほとんど繁殖がうまくいってなかったものも、人工海水下で繁殖ができるようになりました。そのあたりが一番大きいかなと思います。あとはクラゲの調査も続けておりますので、「京都で見られるクラゲ」という形で発表などはさせていただいております。

Q:
人工海水100%で飼育している施設っていうのは少ないのですか?

河崎:
日本で100%人工海水を使用しているのは、当館とすみだ水族館のみです。クラゲも含めて人工海水飼育というところはなく、日本で最初に100%人工海水で飼育を始めたのは京都水族館となります。


Q:
クラゲワンダーのクラゲたちは全部京都の海で捕れたものなんでしょうか?

河崎:
実はそのあたりのこだわりはあまりなくて、京都で見られるクラゲにももちろん力を入れているんですけど、どちらかというと「いろんな形のクラゲがいるんですよ」「カラフルなクラゲもいるんですよ」ということを提供できればと思っていますので、京都に縛られず、いろんなところで見られるクラゲを展示しております。

Q:
飼育スタッフ視点での「マニアックなクラゲの楽しみ方」を教えてください。

河崎:
今回、研究部を作った理由の1つが、実は「ぱっと見て見つけられるクラゲは少ない」という点で、かなり小さなサイズのものがクラゲの中でもほとんどを占めています。実は飼育スタッフの中でも小さなクラゲが好きなスタッフがたくさんいて、水族館でも小さなクラゲを間近で見られるというのが楽しみの1つです。あとは、水族館で生まれて水族館で寿命を全うするクラゲの一生を飼育スタッフは見ることができます。1日のうちに何十、何百個と生まれてくるクラゲたちの一生に寄り添って飼育をしておりますので、そこが飼育スタッフとしては一番やりがいがあって、楽しいところかなと思います。

Q:
お客さんにとっても、生まれたばかりのクラゲを見ることができるということですか?

河崎:
種類によっては、育て方や水路の管理がかなり必要だったりしますので、小さな段階で見ていただくというのはなかなか難しいんですけど、今回、ミズクラゲが入ったパノラマ水槽・GURURIの前に、ミズクラゲの成長過程を展示しています。他のクラゲでも、小さな状態で見ていただけるものはなるべく京都クラゲ研究部のカウンターに置くようにしていますので、お客様と一緒に見られるといいなと思っています。「小さなクラゲが、これぐらいまで大きくなっていく」ということがなるべく分かるような展示になればいいなと思っています。


Q:
京都クラゲ研究部では小さなクラゲが小さな容器に入っていましたが、小さい容器でもクラゲが育てられるのでしょうか?

河崎:
成長に合わせて容器が変わっていくんですけど、広いところに小さなクラゲを入れると、ごはんが食べられなかったり、汚れたところにクラゲが集まったりしますので、小さな入れ物に入れてごはんを食べさせてあげて、少し自分で泳ぐ力がつくと、少しずつ大きな容器に移していきます。そんな過程も見ていただけたらと思っています。

Q:
成長過程も見られて、クラゲのファンになれるということですね。

河崎:
そうですね。そこが一番おすすめのポイントかなと思います。

Q:
もともと2020年4月末にリニューアルオープンの予定でしたが、3カ月遅れて改めてリニューアルオープンを迎えた気持ちを聞かせてください。

松本:
やはり想定外ということで、本当に困りました。ようやく2020年7月16日にリニューアルオープンして皆様にお見せできるということで、本当にいろんな思いがよぎります。早くお客様にも来ていただきたいということでやってきましたので、ようやくお披露目できることが本当にうれしいです。その一言に尽きますね。

河崎:
4月29日を目指して準備をしていたものがストップして、皆様にせっかく見てもらえたはずなのにな……と、飼育員としてはモヤモヤしてたところです。そこからバージョンアップして、皆様に見ていただけるような状態に持っていけたなと思っていますので、たくさんのお客様に見ていただけるといいなと思っているところです。


Q:
GURURIの構想はいつごろからあったのでしょうか?

河崎:
構想は早い段階からあったんです。先ほどもクラゲの調査を行っているという話をしましたが、調査中に海中で囲まれるようにクラゲが出てくる日があったので、それを何とか伝えたいというのはありました。もともと飼育員の中でも「クラゲに囲まれる感じが味わえるといいね」という話をしていたので、そういう意味では早い段階ですね。

Q:
GURURIの水槽ができあがるまでにどのくらいの期間がかかったのでしょうか?


河崎:
水槽自体は、構想が決まってからは結構早かったので、半年くらいでできました。水槽はできたんですけど、実際にちゃんと均等にクラゲが回るのか、という課題のままスタートしましたので、実際水槽ができあがって、ミズクラゲを入れた後は結構大変でした。

Q:
クラゲが回らないということがあったんですか?

河崎:
「クラゲが水槽の上側にいっぱいいる」とか、「下にいっぱいいる」とか、あとはトンネル状になってるので、アーチの上部分をちゃんとクラゲが通れるか、詰まってしまわないかというのはあって、少しずつ水流を変えて今に至っています。

Q:
クラゲが片寄ってしまうのは水流の問題なんですか?

河崎:
そうですね。ミズクラゲは放っておくと、大体上にいくか下にいくかなので。

Q:
解決策として、どんな水流を採用されたんですか?

河崎:
水槽の上下に噴射するものと、水槽全体を横向きに回転しながら回る水流があります。


Q:
最初にアイデアとして何パターンか水槽の形があったわけではなく、水槽を先に決定した後に水流をどうするか、という試行錯誤があったんですね。

河崎:
水槽は早く決まって、どう実現させるかということの方に時間がかかりました、

Q:
トライ&エラーというか、試してみながら?

河崎:
そうですね。クラゲは泳ぐ力が弱いので、水が循環する中で排水口に吸われてしまわないようにもしないとダメで。すぐ吸われちゃうんですよ。泳ぐのがうまくないので。アカクラゲのように触手の長いクラゲは泳ぐ力が強いので、排水口に吸われても自力で逃げるんですけど、ミズクラゲはさらに弱いので傘に穴が空いてしまったりします。なので、吸い込まれないような水槽の造りにして対策しています。

Q:
数多くのクラゲがいる中で、GURURIの中にミズクラゲを入れた理由を聞かせてください。

河崎:
海に行くと最もポピュラーなクラゲがミズクラゲなんですね。京都の海もそうですが、年によっているクラゲが違ったり、多い少ないがあるんですけど、ミズクラゲは年間通しているクラゲで、海でクラゲを探すと最初に見つけられる身近なクラゲという点でGURURIにはミズクラゲが入っています。


Q:
海の中の体験を味わえると。

河崎:
そうです。本当は刺されますけどね(笑)

Q:
刺されずにクラゲに囲まれることができるのがGURURIのいいところですね(笑) 実際に海の中でクラゲに囲まれる体験をされた飼育スタッフがいらっしゃったんですか?

河崎:
飼育スタッフ全員あると思います。本当にクラゲがぶわーっと出てくるんです。結構不思議で、ぶわーっと出てきて、さーっといなくなったりするので。

Q:
あまり海に入る経験がなかったら海でクラゲに囲まれることのも知らないので、GURURIは貴重な体験ができるところですね。トンネルのアーチ状になっている部分にもクラゲが入るようになっていましたが、そこもクラゲが通るようにしようというのは、こだわりがあったんでしょうか?


河崎:
中に入れるというのが見どころなので、どうしても入り口は必要なんですけど、どれだけ入り口を高くとってお客様に気軽に入ってもらえるようにするかというので、当初は間口をもっと下げていたんですが、ギリギリまで上げました。クラゲが頭上を通るところも見られたりするので、いいなと思っています。

Q:
GURURIのライトアップの色合いには何か決まりがあるんでしょうか?

河崎:
3分サイクルで変わっています。色んな見方ができるというのがミズクラゲの魅力の1つなので、それも見てもらえたらと思っています。下からライトが当たっていて、ライトの上をクラゲが通ったときにクラゲの姿がはっきりと見えるので、それは近くで見て「こんな線があるんだ」「血管みたいなものがある」っていうのを見てもらえたらいいなと思います。


Q:
GURURI以外にも、たくさんのクラゲの水槽がありました。大きな水槽に入っているものもいれば、小さな水槽に入っているものもいて、水槽の大きさとクラゲの種類には何か関係があるんですか?

河崎:
なるべくはっきり生き物を見ていただきたいので、あまり遠いと小さなクラゲは見づらいというのが1つです。あと、飼育する上でも小さいクラゲを大きな水槽で飼うと自由に泳げて水の管理が楽そうに見えますが、実は逆で、ごはんをちゃんと食べているかの確認が難しかったり、知らない間にいなくなっていたりするので、クラゲに合わせて水槽のサイズも決めているという感じです。

Q:
クラゲエリアをリニューアルするにあたって、GURURIや京都クラゲ研究部を併設するというアイデアがあった中で、どうしても入れたかったけど入れられなかったアイデアというのはありますか?

河崎:
「研究部のようなものを作りたい」というのが最初のテーマでした。「小さなクラゲが見てもらえない」とか「展示をしているだけだとクラゲがどんな生き物か分からない」という問題があったので、研究している姿をみてもらって、クラゲがどう生まれるかなどを知ってもらうために研究部を作りました。隣にお客様がいる中で、一緒に育てるような感じになればいいなと。そういう意味ではそこは実現できているかなと思うんですが、今後はだんだん大きくなっていくクラゲを展示する方針で進めています。

Q:
GURURIの中の広さはどういった基準で決められたのでしょうか?

企画広報・奥村亜紀さん(以下、奥村):
そもそもスペースの問題や動かせない柱などがあって、限られたスペースでどのようにGURURIを配置するのがいいかという話し合いの中で、最大30人ほど入れる設計にはなっています。ですが3密回避の状態なので、実際には10人ずつくらいを見込んでいて、密にならないようなオペレーションで対応していく予定です。

河崎:
360度囲まれる体験をするには広すぎても感じられないので、背後にもクラゲを感じられるよう調節しています。

Q:
まさに360度クラゲに囲まれている体験を実感できるということですね。ありがとうございました。

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in 取材,   インタビュー, Posted by darkhorse_log

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