インタビュー

「身近にいる生き物のよさを知ってもらいたい」、京都水族館館長・下村実さんインタビュー


海のない京都盆地に出現した「京都水族館」は、「水と共につながる、いのち。」をコンセプトに海や川の魚と動物たち約250種を間近で見られる水族館としてオープンし、2016年3月で開業4周年を迎えています。京都水族館で行われている取り組みや、四季折々に開催されているイベントについて、館長の下村実さんにお話をうかがってきました。

京都水族館
http://www.kyoto-aquarium.com/

GIGAZINE(以下、G):
まず最初にうかがいたいのは、下村さんが京都水族館の館長に就任されるまでの経緯というか、どのようなキッカケで下村さんが館長に就かれたのでしょうか?もともと水族館で働いていて、そこから徐々に館長になった、という感じですか?

京都水族館館長 下村実さん(以下、下村):
そういう意味ではそうですね。京都水族館に来る前は、大阪にある海遊館という水族館にいて、海遊館が開業する前の設立段階からずっと関わっていました。

G:
そうなんですね!

下村:
海遊館ではジンベエザメの飼育スタッフなどをずっとやっていたんです。京都水族館に来たのは4~5年前で、前任の館長から引き継ぐ形で2014年9月に館長に就任しました。

G:
4~5年前に京都水族館に来られたということは、京都水族館も開業前から携わっていらっしゃったのでしょうか?

下村:
開業1年半前後くらいからかな。


G:
なるほど。京都水族館の開業時には榊原茂さんが(PDFファイル)初代館長に就任されていたのですが、いつの間にか下村さんに代わっていたという印象でした。下村さんが海遊館で働くことになったキッカケは何だったのでしょうか?

下村:
話せば長いんですが……(笑)。ずっと生き物が好きで、大学は近畿大学に進んで魚関係の勉強などをいろいろやっていました。大学生の時に、掛け持ちでイベント屋さんをやっていたんです。

G:
イベント屋さんというと?

下村:
「大アマゾン展」とか、移動水族館のようなものを、学生のベンチャー企業のような形でやっていたんです。

G:
もともと生き物が好きで、この職業に就かれたということなんですね。

下村:
そうです。学生の時に3人くらいで会社を興しました。今でこそ少ないですが、今から20~30年前は夏休みになると大きな百貨店などで「大アマゾン展」や「アフリカ展」といった展示をやっていたんです。京都でも、コモンマーモセット、ワオキツネザル、カピバラといった動物を連れてきてイベントをやりました。

G:
今だとそういった催しは珍しいですね。直近だと、大阪南港のATCホールで「レプタイルズフィーバー2016」というイベントをやっているのを見かけました。そういったイベントの時は、生き物はどうやって集めてこられるんですか?

下村:
生き物は、自宅で飼っていたものや、仲間内で飼っていたものを持ち寄っていました。

G:
ええー!それはすごいですね。

下村:
もともと生き物が好きだったので、家では水槽を40~50本並べて、いろいろな生き物を飼っていたんです。あとは知り合いから借りたりとか、そういった形でやっていました。

G:
自宅で飼ってらっしゃった生き物の数はどれくらいいたんですか?

下村:
全部入れたら、100~200種類くらい。魚と両生ハ虫類が好きだったので、それだけで100~200種類は飼っていました。

G:
それは世話が大変そうな……。

下村:
大変でしたね。朝は4時起きや5時起きで、夜中までずっと生き物の世話、という生活でした。小さいときからずっとですね。


G:
館長は普段どのようなお仕事をされているのですか?また、館長の仕事でやりがいを感じることはどういった点でしょうか?

下村:
京都水族館のいきものや企画展示の様子を把握しながら、これからの水族館はどうあるべきかを常に考えています。普段から館内の体験プログラムなどを通して、実際にお客さまとお話ししたり地域との取り組みなどを行う中で、いきものの魅力をお伝えし、いきものに興味を持っていただいたり、いのちの繋がりを感じてもらえるきっかけ作りをしています。 館内に出るとお子さまやさまざまな方に話しかけていただくことも多く、親しみやすい館長としてお客さまと楽しい話ができるということはやりがいを感じるところのひとつです。

G:
館長のお仕事をやっていて、大変なところ、苦労されるところはどういう点でしょうか?

下村:
何やろうね……どこの水族館さんもそうだとそうだと思うんですが、なんのためにやっているかということですね。生き物のよさというか、おもしろさをお客さんに伝えたい、見てほしいと思ってやっているんですよ。でも、なかなかそれがうまく伝わらない。それは僕たちの責任であってお客さんには全く責任はないことです。まだまだ伝えられていないなという部分がいっぱいあるので、そこが永遠に苦労すると思います。生き物のことを知ってもらって、ちょっとでも自然保護とか環境問題とか「命を大事にしよう」とか、そういうことにほんのちょっぴりでも興味を持ってもらえたらうれしいなと思っているんです。なので、それがなかなか伝わりきっていないんだろうなというのは、私たちの責任としてあります。

G:
せっかく展示するなら、生き物や自然のことをお客さんに伝えていきたいということですね。

下村:
なんとかしたいなと思うんですけど、そういうところはまだまだ難しいかなと思います。

G:
今回の夏のイベントや、2016年4月には大水槽を含むエリア一帯のリニューアルオープンなど、新しい事をやっていこうというのも、お客さんに自然のよさや生き物のことを知ってもらおうというコンセプトなのでしょうか?

京都水族館の新エリア「京の海」初日レポート、さかなクン自ら京都の海で採集 - GIGAZINE


下村:
基本的には、もちろんそうですね。ただ、普段あまり自然やいきものに接する機会が少ない人にも見ていただきたいので、そういった方にも来ていただくきっかけとなるイベントになるよう企画しています。


G:
バランスが難しいところですね。

下村:
難しいですね。アミューズメントもやりつつ、生き物のことも知ってもらったらいいかなと思います。

G:
京都水族館では高性能の節水ろ過システムを使って、水槽水の約1%を供給しているとのことですが、それ以外の海水はどこかの海から持ってきているのでしょうか?

下村:
いえ、違います。京都水族館は100%人工海水でやっています。水族館は、普通は海辺にあって、近くの海から海水をくみ放題かつ流し放題なんですけど、京都水族館はそうはいかないので、人工海水を使っています。一般的な水族館だと、普通は1日に30~40%の水を替えているのですが、京都水族館では換水率をすごく抑えて1~3%にしていて、減った水を足す程度で生き物を飼っています。

G:
減った分というのは?

下村:
例えばイルカだと、イルカが泳いでバシャバシャとプールからあふれ出た分ですね。あとは、どうしてもろ過のシステムの段階で流れ出てしまう部分があります。それから蒸発する分もありますね。


G:
京都水族館には淡水の生物も展示されていますが、海水・淡水それぞれの飼育の大変さというのはありますか?

下村:
どちらも大変といえば大変で、あまり甲乙ないですね。生き物を飼う大変さというのは、淡水も海水もそんなに差はありません。ただ、淡水の方がすぐに水替えはできというメリットはあります。


G:
平日に京都水族館を訪れると、小学校や幼稚園の子どもたちが社会見学で大勢訪れているなという印象なのですが、客層としてはやはり子どもが多いのでしょうか?

下村:
ファミリー層が多いのかなと思っています。子どもだけではなかなか来ないので、どちらかというとファミリー層のお客さんが多いのじゃなかろうかなと思っています。

G:
小さいお子さんの家族連れは確かに多いですね。

下村:
そうですね。ありがたいことです。

G:
大水槽のリニューアルや、今回のゾウガメパークの新設に引き続いて、リニューアルや新設の展示などは今後予定されているのでしょうか?


下村:
あります。リニューアルというのは、当然こういう施設ですから、宿命的に必ずしなくてはいけないと思っています。ただ、新しいものを作るとなると結構お金がかかってしまいます。例えば「京の海」の大水槽は、特に新しい施設を作ったわけではありません。これからもリニューアルはやっていくと思いますが、もともとの京都水族館のコンセプトとして、京都にある水族館なので基本的に京都の地元の自然を分かってもらえるような生き物を持ってこようと。

夏限定の「ゾウガメパーク」は、あくまでも足元の自然を見て、知ってもらいたいなという思いです。アマゾンやアフリカ大陸や南極大陸とかの生き物を展示して、遠い異国の地に思いをはせるのも当然素晴らしいことなんですけど、それ以前に、特に京都という土地柄で、自分たちが住んでいるもっと身近な自然を見つめ直していくことがいいかなと思っています。


G:
「館長のゾウガメ教室」など、以前よりも館長さんの露出が増えていると思うんですが、こういったイベントは企画段階から関わっているのですか?

下村:
企画の若い子たちが原案を考えて、そこから話をして一緒に作ってやっています。

G:
普段から、館内に出たりされているのでしょうか?

下村:
なるべく出ようとは思っています。

館内の展示について飼育スタッフと相談する下村館長。


G:
京都水族館の展示の中で、館長さんのオススメはどこでしょうか?

下村:
うーん……1カ所というのは決めにくいですね。というのも、みんな担当の子がいるから、1カ所は言えないです。本当に杓子定規な答えになってしまいますが、今だと夏限定の「イルカとスプラッシュ!!」や「ゾウガメパーク」ですね。夏しかやらないからぜひ見てほしいと思っています。四季に応じた展示もありますので、そういうのが見所、オススメです。

京都水族館 広報チーム 津田ひかるさん(以下、津田)
京都水族館は「この生き物が推し!」みたいなものは置いていないんです。全部の展示の生き物を見ていただきたいというのがあるので、この生き物をメインに置く、ということはしていなくて、みなさんに展示を見ながら見つけていただいたければと。季節ごとに生き物の様子、自然の様子がかなり変わるので、そういうところも楽しんでいただけると思います。来るタイミングによって見所や楽しんでいただけるポイントが違っているのも、魅力のひとつかなと思っています。

下村:
企画展示についても、ぜひ見ていただいたらおもしろいんじゃないかなと思います。例えばゾウガメパークも、なかなか近くであんなに大きなカメを見ることはないと思いますので、ぜひ見ていただければと思います。「館長のゾウガメ教室」と「館長のおさかな教室」は毎日開催ですので、「俺はいつ休むねん」という感じです(笑)。絵に描いたようなプログラムではなくて、ある程度生き物相手ですから、思いも寄らぬ行動をすることもあってそれはそれで楽しめると思います。京都水族館ではエサもあげるんだけど、「なぜこの生き物はこの食べ物を食べていて、何が好きなのか」とか、「どうやって食べているのか」とか、そこまで深掘りして、教科書を読むような話ではなく普通に面白く聞いてもらえるようにしたいなと思っています。人間、教えられるばかりだと嫌だと思うので、教えられるのではなくて「へー、そうだったんだ」と思っていただきながら、ざっくばらんに楽しく聞いてもらえたらなと思っています。

津田:
本当に館長とお客さまとの距離が近いんです。

下村:
実際に顔を近づけるようにはしていますね(笑)。ぜひ夏休みに遊びに来てもらえたらうれしいです。


G:
夏休みに向けてイベントが目白押しですね!本日はありがとうございました。

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in インタビュー,   生き物, Posted by darkhorse_log

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