口では「人種差別に反対だ」と言う人でも無意識のうちに人種差別をしていると研究者が指摘
2020年ミネアポリス反人種差別デモはアメリカ全土だけでなく世界各国に拡大しており、各国で奴隷制や植民地制に関係する人物の銅像が落書きされたり倒されたりしているほか、さまざまなアニメで有色人種のキャラクターを演じる白人声優を非白人声優に置き換える動きも進んでいます。そんな中、エッジ・ヒル大学の心理学教授であるGeoff Beattie氏が、「口では人種差別に反対している人でも、無意識のうちに人種で差別している」と主張しています。
Black Lives Matter: you may be a vocal supporter and still hold racist views
https://theconversation.com/black-lives-matter-you-may-be-a-vocal-supporter-and-still-hold-racist-views-140816
世界各国では多くの人々が黒人差別に対する抗議に賛同を示しており、ソーシャルメディアで意見を発信するといった行動を取っています。しかしBeattie氏は、人種差別的かどうかは抗議活動の際に使う言葉やハッシュタグだけで決められるものではなく、より日常的な日々の行動に基づいて決められるものだと指摘。意見や言葉は取りつくろうことができるため、自分の中に深く根付いた人種差別的な考えを無意識のうちに保持し続けながら、口では人種差別反対を訴えることも可能だとのこと。
Beattie氏は2010年ごろから「学術的なポストで有色人種の人々が不当に過小評価されている」という問題を調査してきたそうで、当時から大学側もこの問題に対処しようとしていました。ところが、「人種差別問題は過去の話であり、人種差別反対を訴える人々は差別を口実にアドバンテージを得ようとしている」という反対意見も少なくなかったとBeattie氏は述べています。
「しかし、私たちの多くが意識レベルでは人種差別を訴えていない場合はどうでしょうか?より意識の深いレベルで、人種的偏見の影響を受けやすい独立したシステムがある場合はどうなるのでしょうか?」とBeattie氏は述べ、人種差別の根は無意識のレベルに広がっていると指摘。
こうした無意識の差別を明らかにするのが、「implicit association test(IAT)」と呼ばれるテストです。IATの一般的な形式として、白人や黒人の顔写真や名前を見て瞬時に「良い」あるいは「悪い」のどちらかに分類するというものがあります。多くの研究から、「白人の被験者は白人の顔または名前を『良い』に分類するスピードが、黒人の顔や名前を『良い』に分類するよりも速い傾向がある」と判明しているとのこと。
Beattie氏の研究チームがIATに使用する顔写真を全て「良い」と分類すべき笑顔に調整した場合でも、やはり白人の被験者には中程度、あるいは強い黒人への人種的偏見が認められたそうです。この結果は、たとえ白人の被験者が「自分は人種的な偏見を持っていない」と主張した場合でも同様でした。
また、Beattie氏はより現実に即した状況での人種的偏見について調査するため、「学術的なポストについての選考プロセス」を模した実験も行っています。この実験では、白人2人と黒人2人の「採用候補者」が用意され、被験者にどの候補者を採用するか判断してもらったとのこと。4人の履歴書は4種類の内容がローテーションで割り当てられ、実験全体で採用候補者の履歴書に偏りが出ないようになっていました。
実験の結果、白人の被験者は同じ内容の履歴書を割り当てられた黒人の採用候補者と比較して、白人を採用する割合が10倍も高いことが判明しました。さらに、被験者の視線をリモートトラッキングで分析したところ、白人の履歴書では「良い情報」を、黒人の履歴書では「悪い情報」を長い時間読んでいることも明らかになったそうです。
一連の研究結果は、たとえ「自分は人種差別主義者ではない」と考えている人であっても、合理的に判断するべき場面では無意識のうちに人種差別をしていると示唆するものです。時間的なプレッシャーが強い場合、無意識のうちに人種に基づいた判断を下す可能性が高まってしまうため、採用プロセスなどで厳密な時間的制約を設けることは避けるべきだとBeattie氏は主張しています。
無意識のうちに人種差別を行わないようにするには、あえて「有色人種の採用候補者がリストアップされており、採用担当者が白人である場合は、最終決定を下す前に履歴書のポジティブな部分をじっくり読み直す」といった制約を設けることも役立つそうです。不自然な制約だと思う人も多いはずですが、意図的にバイアスを補正するような手順を踏むことで、無意識の影響をなるべく小さくすることができるとのこと。また、他文化への理解を深めたり人種差別的な意識を軽減する取り組みなども、人種差別を減らす上で重要です。
さらにBeattie氏は、IATは「白人」と「黒人」について考えることを被験者に強制し、真に無意識的なテストではないとの批評もあると指摘。人種以外の複数の属性についても同時に調査するテストを開発することで、人々が持つ無意識下の人種的偏見についてより詳しく知ることができると述べました。
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