地下深くに眠る1000万枚超の写真「ベットマン・アーカイブ」とは？

地下約67メートルにある閉鎖された石灰岩採石場を再利用した地下保管庫の一画に、ベットマン・アーカイブと呼ばれる約1100万枚もの写真やネガフィルムが収蔵されています。アメリカ・ペンシルベニア州の保管庫で厳重に管理されるベットマン・アーカイブは、絵や写真などの熱心なコレクターであったオットー・ベットマンによって収集されました。

This Vast Photo Archive Is Hidden Inside a Cold, Heavily Guarded Limestone Mine - Atlas Obscura
https://www.atlasobscura.com/articles/hidden-photo-archive-mine

1935年、ドイツで暮らしていたベットマンは、ヒトラーが権力を握る前夜に「ユダヤ人である」という理由から学芸員を解雇されたことをきっかけに、ドイツからアメリカへと亡命しました。ベットマンは蒸気船に乗り、大きなトランク2つを抱えてニューヨークへたどり着きましたが、トランクにぎっしりと詰められていたのは服でもお金でもなく、写真とネガでした。大量の写真はベットマンがヨーロッパ各地を旅して集めた、図書館や博物館の本や資料をカメラで撮影したものでした。以下の写真は1947年に撮影されたベットマン本人です。

1930年代、アメリカでは「LIFE」や「Time」などの雑誌が市民権を得始めていました。ベットマンは出版社のニーズを読み、集めた写真をカタログ化して写真掲載のライセンスを売る事業を開始。さらに、ベットマン自身が撮影するだけでなく、雑誌に写真募集の広告を掲載することで、コレクションの幅を広げていきました。

2020年においてベットマン・アーカイブを管理しているGetty Imagesのディレクター、ボブ・アハーン氏は「ベットマンのビジネスは年々成長し、彼は『ピクチャーマン』として世間に知られるようになりました。当時、写真を掲載する雑誌が爆発的に増えており、いろんな世界を見たいという好奇心旺盛な読者の気持ちにベットマンは注目していたのです」と述べています。

紛争地域、大規模なロックコンサート、好景気・不景気の街並み、大統領選挙など、ありとあらゆる場所で、ベットマン、または提携しているカメラマンが現場で撮影を行っていました。ベットマンは撮影のため、絵になりそうなイベントの予定をカレンダーにびっしり書き込んでいたとのこと。ベットマン・アーカイブには2020年でもよく知られている有名写真が多くあり、例えば舌を出したアルベルト・アインシュタインや、地下鉄の通気口から吹く風にスカートをはためかせるマリリン・モンローの写真なども含まれています。

1995年、ビル・ゲイツ氏がベットマンの所有する約1100万枚もの写真、ベットマン・アーカイブを購入したとき、ベットマンは「ゲイツ氏はすべての歴史を所有している」と語りました。

ベットマン・アーカイブは当初、ニューヨークで保管されていました。しかしニューヨークは四季の気温の変化が激しい上、夏は高温多湿で写真の保管には不向きであったため、ベットマン・アーカイブは約半年かけて地下の保管庫に移されました。また、地下への移動と同時に、写真のデジタル化も開始されています。

2016年、ベットマン・アーカイブはGetty Imagesに買収されましたが、保管場所は変わらず2020年でも同じ場所に保管されています。地下保管庫には他にも、政府の機密記録や個人情報などの資料も収蔵されているため、武装した警備員によって厳重に管理されています。保管庫は1年あたり20～30人限定で内部を見学することが可能で、中に入るには許可証だけでなく、庫内が氷点下20度と非常に寒いため防寒着も必要。さらに、保管庫が地下深くにあることから、閉所恐怖症でないことも中に入るための条件となっています。