サイエンス

野生のコウモリからこれまでで最も新型コロナウイルスに近いコロナウイルスが発見される、「人工ウイルス説」を否定する新たな証拠か


中国・山東第一医科大学の研究チームが、「これまでに報告された中で最も新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に近いゲノムの領域を持つコウモリコロナウイルスが、野生のコウモリから見つかった」と発表しました。この発見により、新型コロナウイルスが人工的に作られたのではなく、自然から発生した可能性が高まると見られています。

A novel bat coronavirus closely related to SARS-CoV-2 contains natural insertions at the S1/S2 cleavage site of the spike protein - ScienceDirect
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S096098222030662X

A close relative of SARS-CoV-2 found in bats offers more evidence it evolved naturally
https://phys.org/news/2020-05-relative-sars-cov-evidence-evolved-naturally.html

Researchers Find Another Virus in Bats That's Closely Related to SARS-CoV-2
https://www.sciencealert.com/researchers-have-found-another-close-relative-of-sars-cov-2-in-bats

ヒトにSARS-CoV-2を感染させた直接の起源についてはセンザンコウヘビ野良犬など諸説ありますが、元となったウイルスはコウモリに由来する見方が大勢を占めています。

一方で、「新型コロナウイルスは遺伝子操作により人工的に生み出された」とする考えも一部で広がりを見せていますが、この説には専門家から懐疑的な意見が挙がっています。

「新型コロナウイルスは人為的に作られた」という陰謀論に科学者が反論 - GIGAZINE


そんな中、山東第一医科大学の微生物学者Weifeng Shi氏らの研究チームが、「2019年5~10月に中国の雲南省で捕獲されたコウモリ227匹から、コウモリ由来の新しいコロナウイルスを特定しました」と報告しました。

この新しいコウモリコロナウイルスは「RmYN02」と呼ばれており、遺伝子解析の結果ゲノムの93.3%がSARS-CoV-2と一致したとのこと。特に、「1ab」と呼ばれるゲノムの領域における一致率は97.2%にのぼっており、これまで報告された中で最もSARS-CoV-2に近いウイルスでした。


ただし、SARS-CoV-2が人間の細胞に侵入する際に使用するタンパク質を合成するゲノムに関しては、RmYN02との一致率は61.3%と低いことから、人間に感染するおそれはほとんどないとのこと。また、SARS-CoV-2の直接の祖先である可能性も低いそうです。

一方、RmYN02とSARS-CoV-2との間には極めて似通った特徴があることも分かっています。SARS-CoV-2が持つスパイクタンパク質(Sタンパク質)には、「S1/S2サブユニット」と呼ばれるタンパク質が存在していますが、この2つのサブユニットの接合部には4つのアミノ酸が挿入されているとのこと。そして、RmYN02にも同様にアミノ酸が挿入されている様子が観察されました。

S1とS2のサブユニットにアミノ酸が挿入される現象は非常に珍しいことから、これまで「SARS-CoV-2は人工的に作られたものだ」とする説の強力な根拠とされてきました。しかし、同様の現象が自然界で見つかったRmYN02にも起きていることが今回の発見で確かめられたため、SARS-CoV-2が自然な進化の過程で発生したことが一層強く裏付けられていると研究チームは指摘しています。


しかも、RmYN02とSARS-CoV-2のS1/S2接合部に挿入されていたアミノ酸はそれぞれ異なるものだったことから、2種のウイルスにおけるアミノ酸の挿入現象は個別に発生したものだということが示唆されているとのことです。

Shi氏は「SARS-CoV-2が発見されて以来、このウイルスの起源は実験室だという疑わしい意見が多く投げかけられていました。これは、S1/S2の挿入現象が極めて珍しいことに立脚した主張でしたが、我々の発見はこうした現象が野生生物の体内で自然に起きるということを非常に明確に示しています」と述べました。

なお、Shi氏によるとゲノム全体で見た場合ではRaTG13というウイルスが最もSARS-CoV-2に近く、その一致率は96.1%とのこと。しかし、RaTG13もRmYN02もSARS-CoV-2の直接の祖先ではないとされていることから、Shi氏は「さらに多くの野生動物からサンプルを収集することで、よりSARS-CoV-2に近いウイルスや、直接の祖先が見つかると考えられます」と指摘し、さらなる研究の重要性を強調しました。

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in サイエンス,   生き物, Posted by log1l_ks

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