大気汚染が新型コロナウイルス感染症の死亡リスクを高めるという研究結果
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行は世界中で広がっており、記事作成時点では全世界で250万人以上が感染し、死者数は17万人を超えています。そんな中、アメリカとヨーロッパにおけるCOVID-19の死者と大気汚染の関連を調べた研究から、「大気汚染がCOVID-19による死亡リスクを高める」との結果が報告されました。
Assessing nitrogen dioxide (NO2) levels as a contributing factor to coronavirus (COVID-19) fatality - ScienceDirect
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0048969720321215
Exposure to air pollution and COVID-19 mortality in the United States
https://projects.iq.harvard.edu/covid-pm
Air Pollution Is Increasing The Risk of COVID-19 Death, According to New Studies
https://www.sciencealert.com/two-new-studies-provides-evidence-that-air-pollution-is-increasing-risk-of-death-from-coronavirus
大気汚染が人間の健康に大きな悪影響を及ぼすことは以前から知られており、呼吸器などの病気を引き起こしたり、知能を低下させたりする可能性も指摘されています。ハーバード大学の研究チームは、アメリカにある3000の郡から大気汚染のデータを収集し、2020年4月4日までに発生したCOVID-19による死亡症例と照合して分析を行いました。
研究チームが着目したのが、大気中に浮遊している直径2.5マイクロメートル以下の微粒子であるPM2.5の量です。PM2.5の主な発生源はボイラー、焼却炉などのばい煙を発生する施設、コークス炉、鉱物の堆積場等の粉じんを発生する施設、自動車、船舶、航空機などがあり、呼吸器系や循環器系の病気になるリスクを高めるといわれています。
分析の結果、1立方メートル当たりに含まれるPM2.5の量がたった1マイクログラム増えるだけで、COVID-19による死亡率が15%上昇するという統計的に有意な証拠が見つかったとのこと。「この論文の結果は、大気汚染への長期的な暴露がCOVID-19への脆弱性を上昇させることを示唆します」と、研究チームは述べました。なお、この研究では地域ごとの人口の大きさや病床の数といった社会経済的変数についても考慮したそうですが、COVID-19患者の増加による医療リソースの減少についてはデータ不足のため考慮できなかったそうです。
大気汚染とCOVID-19による死亡率の関連性は、アメリカだけでなくヨーロッパでも確認されています。ドイツのマルティン・ルター大学の地球科学者であるYaron Ogen氏は、大気汚染の主な要因である二酸化窒素とCOVID-19による死亡率の関連性について分析しました。
ます最初にOgen氏は、衛星からの大気汚染観測データをヨーロッパにおいてCOVID-19のパンデミックが発生するまでの数カ月間にわたって分析し、ヨーロッパ全体の二酸化窒素分布についてマッピングしました。続いて2020年3月19日までにスペイン、イタリア、フランス、ドイツの66地域で発生したCOVID-19による地域ごとの死者数を、二酸化窒素分布と照らし合せたとのこと。
Ogen氏は「研究の結果、全4443例の死者のうち約78%に当たる3487例が、北イタリアとスペイン中央部のたった5つの地域で発生していることがわかりました。さらにこの5つの地域は下向きの気流と相まって二酸化窒素が拡散しにくく、最も二酸化窒素濃度が高い地域でした」とコメントし、二酸化窒素への長期的な曝露が、COVID-19による死亡率を左右する原因の一つである可能性を指摘しました。なお、Ogen氏の研究では年齢分布や既存の条件について考慮されていませんでした。
大気汚染とCOVID-19による死亡率の関連性を解明するにはさらなる研究が必要ですが、大気汚染を減らすことは環境だけでなく人間の健康にもメリットを与えることは確かです。「今回の結果は、人間の健康を保護するために、COVID-19のパンデミック後も大気汚染規制を引き続き実施することの重要性を強調しています」と、ハーバード大学の研究チームは述べました。
なお、COVID-19のパンデミックを抑えるために各国で強制的な都市封鎖や商業活動の停止が実施された結果、大気汚染が大幅に改善していることも判明しています。
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