生き物

「雨の匂い」の原因物質が森林に住む生き物の行動を変化させるために利用されていることが判明


雨が降ると湿った土のような独特の匂いを感じることがあり、この匂いは「ペトリコール(Petrichor)」と名付けられています。雨の匂いの主成分である化学物質は微生物によって放出されていることもわかっていますが、この化学物質が「森林に住む生き物の行動を変化させて微生物の繁殖に利用されている」ことが新たに判明しました。

Developmentally regulated volatiles geosmin and 2-methylisoborneol attract a soil arthropod to Streptomyces bacteria promoting spore dispersal | Nature Microbiology
https://www.nature.com/articles/s41564-020-0697-x

Love The Smell of Rain? There's an Ulterior Motive Behind The Lure of Petrichor
https://www.sciencealert.com/that-rain-smell-turns-out-we-re-smelling-the-circle-of-life


雨の匂いは複数の化学物質によって構成されており、大気中のオゾンの匂いも混ざっているとのことですが、主成分となるのは「ゲオスミン」という揮発性の有機化合物です。このゲオスミンは、真正細菌の一種であるストレプトマイセス属が死んだ時に放出されるものだとのこと。

しかし、ストレプトマイセス属が死ぬ時にゲオスミンなどの有機化合物を放出する理由や、微生物が放出する有機化合物が森林の土壌環境で果たす役割についてはわかっていませんでした。そこでスウェーデンやイギリスの研究者からなる国際的研究チームは、微生物が放出するゲオスミンや2-メチルイソボルネオールなどの化合物が、森林の土壌に生息しているトビムシに与える影響を調べる実験を行ったそうです。トビムシは世界中で3000種以上が確認されている非常に一般的な節足動物で、日本でも360種が報告されています。

森林でトラップを仕掛けてトビムシの捕獲数を調べたり、研究室内で化学物質への反応について調べたりした結果、トビムシはストレプトマイセス属の一種であるStreptomyces coelicolor(ストレプトマイセス・セリカラー)のコロニーを使ったトラップに強く引きつけられ、触覚でゲオスミンや2-メチルイソボルネオールを検出することが可能だと判明。トビムシはゲオスミンや2-メチルイソボルネオールの「大ファン」であり、これらの化学物質を放出する微生物を好んで食べているそうです。

by Ryszard

ストレプトマイセス属が匂い物質を放出してトビムシに食べられる可能性を高めている理由について、研究チームは「自身の生息範囲を広げるため」だと考えています。ストレプトマイセス属は糸状菌と同様に、繁殖準備ができると胞子を作り出して新たな細菌を広範囲に広める性質を持っています。細菌であるストレプトマイセス属は自分で長い距離を動き回ることができないため、胞子を広めるために他の生き物に頼る必要があるとのこと。

そこで役に立つのが、ストレプトマイセス属をエサにするトビムシです。トビムシがストレプトマイセス属を食べたり胞子が体の表面に付着したりすることで、胞子がトビムシと共に移動することができるため、ストレプトマイセス属はゲオスミンなどの化学物質でトビムシをおびき寄せていると研究チームは説明しています。

また、ゲオスミンに敏感な生き物はトビムシだけではなく、人間もゲオスミンの匂いに対して非常に敏感であることが知られています。たとえ10億分の1に希釈しても人間はゲオスミンの匂いに気づくことができるそうですが、一体なぜ人間がゲオスミンの匂いに敏感なのかという理由は記事作成時点でもわかっていないとのことです。

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in サイエンス,   生き物, Posted by log1h_ik

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