「日本の集中医療体制はパンデミックには脆弱」と医学会が声明、実際のデータはどうなのか?
by U.S. Indo-Pacific Command
日本集中治療医学会の西田修理事長が、「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関する理事長声明」を発表しました。その中で西田理事長は、日本の集中治療体制がオーバーシュート(爆発的な患者急増)で医療崩壊が起こっているイタリアよりも貧弱であり、「死者数から見たオーバーシュートは非常に早く訪れることが予想される」と述べています。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関する理事長声明|日本集中治療医学会
https://www.jsicm.org/news/statement200401.html
2020年に発表された研究「Critical Care Bed Capacity in Asian Countries and Regions(アジアの国と地域における重症患者の病床キャパシティ)」によれば、日本に存在する集中治療室(ICU)の数は590室、総ICU病床数はのべ5973床とのこと。また、中間集中治療室(IMCU)の数は401室、総IMCU病床数はのべ3268床だとのこと。日本の人口は2020年3月1日時点で約1億2595万人であることから、国民10万人当たりの総ICU病床数は約4.7床であり、IMCU病床を含めた重症患者用病床数は国民10万人当たり約7.3床という計算になります。なお、世界的に不足が懸念されている人工呼吸器については、医療機関が保有している台数が2009年10月時点で3万2586台、そのうち稼働しているのが1万6316台だと、厚生労働省が(PDFファイル)発表しています。
なお、海を挟んで隣の韓国は、総ICU病床数は5402床で日本よりも少ないものの、国民10万人当たりの重症患者用病床数は10.6床。また、14億人もの国民を抱える中国は総ICU病床数が4万9453床と圧倒的な多さですが、国民10万人当たりの重症患者用病床数だとわずか3.6床となります。
そして、オーバーシュートが発生したイタリアの場合、2009年のデータによれば、総総ICU病床数は7550床で、IMCUの病床数は0もしくは不明。イタリアの国民10万人当たりの重症患者用病床数は12.5床です。
同じデータによれば、フランスは総ICU病床数が4069床、総IMCU病床数が3471床で、国民10万人当たりの重症患者用病床数は11.6床。ただし、ICU病床のみであれば、国民10万人当たり約9.9床。また、イギリスは総ICU病床数が2377床、総IMCU病床数が1737床、国民10万人当たりの重病患者用病床数は6.6床だとのこと。
EU諸国の中でも群を抜いて集中治療設備が整っているといえるのがドイツで、重症患者用病床数はのべ2万3890床、国民10万人当たりだと29.2床が用意されていることになります。西田理事長は、2020年3月31日時点でイタリアでは感染者10万5792人に対して死者が1万2428人となっている一方で、ドイツは感染者7万1808人に対して死者は775人にとどまっていることを指摘し、「集中治療体制の違いがイタリアとドイツの致死率の違いを生んでいる」と主張。イタリアよりも10万人当たりの重症患者用病床数が少ない日本は集中治療体制が脆弱であるとしています。
さらに、西田理事長は声明の中で「現場の人手不足」を強く訴えています。日本ではICUは1人の看護師が担当する患者数は2人、IMCUでは4人となっています。しかし、西田理事長は、COVID-19の重症患者に対しては「1人の患者に対して2人の看護師が必要」と述べており、さらに重症肺炎に対して人工呼吸器やECMOを正しく扱える医師が少ないことも指摘しています。
設備の維持だけではなく、医療従事者の維持管理も病院にとっては重要です。イタリアでは医療従事者がCOVID-19に感染して重症化あるいは死亡するケースも出ているとのこと。さらなる感染拡大によって医療従事者が現場を離脱せざるを得なくなることも考えた場合、「単に人工呼吸器の台数などの問題ではなく、マンパワーのリソースが大きな問題であることは明白です」と西田理事長は強く注意を促しました。
・関連記事
日本が公開する新型コロナウイルス感染症レポートは何が問題なのか? - GIGAZINE
ダイソンが国の支援要請を受け「人工呼吸器の開発」をスタート - GIGAZINE
新型コロナウイルス対策で「人工呼吸器を作るオープンソースのプロジェクト」をMITが始動 - GIGAZINE
破傷風で47日間ICUに入院した少年になおワクチン接種を拒否する両親 - GIGAZINE
・関連コンテンツ