新型コロナウイルスの感染拡大は「世界終焉の危機」にあるといえるのか?
世界中のユーザーが英知を集結することで作成されている303言語・全言語累計3800万ページもの記事が存在するインターネット百科事典のWikipediaには、「世界終焉の危機(Global catastrophic risk)」という名称のページが存在します。2020年3月12日に世界保健機関(WHO)がパンデミック(世界的流行)と認定した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、この「世界終焉の危機」に当てはまる事態となっているのでしょうか。
Global catastrophic risk - Wikipedia
https://en.wikipedia.org/wiki/Global_catastrophic_risk
Wikipediaによると、「世界終焉の危機」とは「人間が地球規模でウェルビーイングを損なう可能性がある将来起こるかもしれない(PDF)架空の出来事で、現代文明を危険にさらしたり、最悪の場合は破壊することもありうる」というもの。Wikipediaには「世界的な壊滅危機が地球上の生命の大部分を殺してしまう可能性があるものの、人類はまだ潜在的に回復する余地があるもの」と記されています。
以下のグラフは2013年にオックスフォード大学のニック・ボストロム氏が発表した「(PDF)Existential Risk Prevention as Global Priority」という研究論文で記された、「人類が直面する危機」を危険度別に分類したもの。グラフの縦軸が「影響範囲」、横軸が「重症度」を表しており、ピンク色の領域が「世界終焉の危機」に当てはまるもの。縦軸の「影響範囲」は小さい順に「Personal(個人)」「Local(地域)」「Global(世界)」「Trans-generational(世代を超えて)」で、横軸の「重症度」は小さい順に「Imperceptible(知覚できない)」「Endurable(耐えられる)」「Terminal(絶望的)」です。「世界終焉の危機」は、影響範囲が「世界」規模以上、重症度が「耐えられる」以上のものが当てはまります。
世界終焉の危機には「人為的な危機」と、「非人為的な危機」の2種類が存在します。「人為的な危機」は、名称の通り人間の活動を由来とした危機です。「人為的な危機」として挙げられているのは、「AI」「バイオテクノロジー」「サイバー攻撃」「環境災害」「実験技術事故」「地球温暖化」「鉱物資源の枯渇」「ナノテクノロジー」「戦争と大量破壊」「世界の人口と農業危機」の10種類。
例えば「テクノロジー」のカテゴリーでいえば、「AIが人類に敵対する可能性」が世界終焉の危機として挙げられています。テスラやSpaceXの創業者であるイーロン・マスク氏も、AIは人類にとって脅威となると何度も発言しており、過去にはFacebookのマーク・ザッカーバーグ氏と激しい議論を繰り広げています。
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by JD Lasica
新型コロナウイルスについては「人為的に作られたものである」という陰謀論も存在します。もしも新型コロナウイルスが本当に人為的に作られたものである場合、「人為的な危機」の中の「バイオテクノロジー」カテゴリーが、今回のケースに当てはまる可能性があります。
世界終焉の危機におけるバイオテクノロジーの項目には、「生物工学によって作られたウイルス・バクテリア・菌類・植物・動物などの生物が、世界的な規模で壊滅的な危機をもたらす可能性がある」「バイオテクノロジーによる大惨事は、遺伝子操作された生物が制御された環境から誤って放出されたり、生物兵器として計画的に放出されたりすることで、自然や農業生態系に対して予期せぬ壊滅的な相互作用を引き起こす可能性がある」と記されています。病原体の場合、病原性やその他の特性を変化させるために、意図的あるいは非意図的に遺伝的改変が行われている可能性があるとのこと。
ただし、新型コロナウイルスについては研究者が「新型コロナウイルスは自然環境下で進化したものと示唆されており、研究室内での何らかの操作により生み出された可能性はありません」という論文を発表しているため、「人為的な危機」には当てはまらない模様。
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これに対して、「非人為的な危機」として挙げられているのは「小惑星による影響」「宇宙からの脅威」「地球外侵入」「パンデミック」「自然気候変動」「火山活動」の6つ。新型コロナウイルスはこの中の「パンデミック」のカテゴリーに分類されるものです。
実際、新型コロナウイルス感染症はWHOからパンデミックと認定されており、記事作成時点で全世界での感染者数が累計72万人を突破しており、日本でもクルーズ船の乗員乗客を除いて感染者数が1896人と報告されています。コメディアンの志村けんさんが新型コロナウイルス感染症に伴う肺炎で亡くなっており、2020年3月29日には東京で新たに68人の感染が確認されており、まだまだ予断を許さない状況です。
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Wikipediaには「現在、かつてない規模とスピードで人が移動しているため、地域ごとの検疫で感染症の流行を封じ込めることは、これまで以上に困難になっています。その他の不確実な原因およびリスクは、ウイルスの自然な大流行が人類の文明に現実的な脅威をもたらす可能性があることを意味しています」と記されています。
また、パンデミックについて「歴史的なパンデミックが限られた規模でのみ起こっていることから、過去のものよりも大規模なパンデミックが起こりえないと考えることもできます。ただし、この議論は「人口」や「行動パターンの変化によるリスクの変化」、「限られた歴史的記録」、「人為的なバイアス」などを理由に異議を唱えられるケースもあるとのことです。
これらの分類からすると、新型コロナウイルスはWikipediaの定義する「世界終焉の危機」に明らかに該当するものと思われます。ただし、2013年のボストロム氏の研究によると、「世界終焉の危機」よりも上の脅威として「Existential risk(実在する危機)」が挙げられています。
なお、2008年に発表された(PDF)世界終焉の危機に関する調査によると、2100年までに人類が絶滅する確率は19%で、その内訳は以下の通り。新型コロナウイルスのような自然発生的なパンデミックにより人類が絶滅する可能性は「0.05%」とされています。
人類が絶滅する確率:19%
分子ナノテクノロジー兵器:5%
超インテリジェント人工知能(AI):5%
すべての戦争(内戦を含む):4%
人為的なパンデミック:2%
核戦争:1%
ナノテクノロジーによる事故:0.5%
自然発生的なパンデミック:0.05%
核兵器を用いたテロ:0.03%
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