砂糖入り飲料に課税する「ソーダ税」はほとんど効果がないという研究結果
世界各国で肥満は問題視されており、肥満対策の一環として肥満を生み出すような食品に対して課税する「肥満税」という試みも登場しています。アメリカのペンシルバニア州フィラデルフィア市も、砂糖入り飲料に対して課税するという通称「ソーダ税」を導入していますが、これについてドレクセル大学ドーンサイフ公衆衛生学部の研究チームは「ソーダ税は最小限の影響しか与えていない」という研究結果を発表しています。
IJERPH | Free Full-Text | Sugar-Sweetened and Diet Beverage Consumption in Philadelphia One Year after the Beverage Tax
https://www.mdpi.com/1660-4601/17/4/1336
One Year Into ‘Soda Tax,’ Drexel Researchers Find Law Did Not Affect Consumption of Sweetened Beverages | Now | Drexel University
https://drexel.edu/now/archive/2020/February/Soda-Tax-and-Beverage-Consumption/
研究チームは、ソーダ税が施行されているフィラデルフィア市と、対照群としてソーダ税が存在しないニュージャージー州カムデン市、トレントン市、そしてデラウェア州ウィルミントン市に住む成人515人に対する電話調査を実施。被験者に対して、ソーダ税の施行を目前に控えた2016年12月の1カ月と、ソーダ税が施行された2017年1月以降について、ソーダ・フルーツドリンク・エナジードリンク・ミネラルウォーターをそれぞれどれくらい飲んでいるかを1月ごとにアンケートしました。
調査の結果、フィラデルフィア市では被験者の39%が、フィラデルフィア市以外では被験者の34%が砂糖入り飲料の摂取を控えるようになったと回答しました。しかし、実際に飲んだ飲料の頻度・量に対するアンケート調査をまとめたところ、フィラデルフィア市の被験者は市外の被験者に比べて、飲む頻度については1月あたり3回減り、飲む量については1月あたり51.65オンス(約1.5リットル)減ったという結果でした。この結果について、研究チームは「統計的に有意な差ではない」と述べ、「ソーダ税が実際の消費に対して大きな影響は与えていない」という結論を下しています。
ソーダ税に関する研究はこれ以前にも複数の研究あります。2019年のペンシルベニア大学の研究では、ソーダ税施行後に甘い飲料の消費が減少していると結論付けられていますが、これは売上の分析であって、どういった人がどれだけ消費を控えたかに目を向けていないと研究チームは指摘。売上を見るだけでは「ある特定のカテゴリーの人々は飲むのを控えるようになったが、別のカテゴリーの人は変わらず飲み続けている」といった詳細がわからないと主張しました。
また、ソーダ税の施行後にフィラデルフィア市の成人がその他の市に比べて砂糖入り飲料を飲む回数が1月あたり10回も減ったという結果になったという2019年のコーネル大学の研究については、「子どもと暮らしており、なおかつ毎日砂糖入り飲料を飲む習慣があった大人に限った結果」と指摘。今回の研究では被験者を無作為に抽出したため、研究結果は実態に近いものだと説明しています。
本論文の共著者であるAmy Auchincloss博士は「砂糖入り飲料は2型糖尿病、肥満、新血管疾患、そしてその他の健康上の問題に関係しているという十分な証拠が存在します。しかし、砂糖入り飲料の価格を引き上げても普段からそれほど砂糖入り飲料を飲まない一般的な人には効果がないことがわかります」とコメント。筆頭著者のYichen Zhong氏は「フィラデルフィアに隣接する市ではソーダ税が存在しないため、消費者はその気になればソーダ税のかかっていない砂糖入り飲料を容易に入手することができます。このことが、ソーダ税が消費者の飲料習慣にあまり影響を与えていないことの原因である可能性があります」と述べて、ソーダ税が成果を上げていないのは他の要素が原因かもしれないと語りました。
なお、税収を増やすためにソーダ税を制定した他の都市とは異なり、フィラデルフィア市は市内の全ての子どもが通えるだけの幼稚園や、公園、レクリエーションプログラムの資金のためにソーダ税を制定したという経緯があります。
この経緯について、本研究を主導したBrent Langellier教授は「この法案が可決されたとき、『市民の健康を良くするため』という目的は考慮に入れられませんでした。しかし、ソーダ税は長期的に見れば市民を健康的にしてくれるといえます。なぜなら、フィラデルフィア市におけるソーダ税は、貧しい家庭の子どもが幼稚園に通うための資金としても使われるからです。幼児期に良い教育を受けると、良い健康上の結果が得られます」とコメントしました。
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