人類史に名を残す偉大な発明家はどうやって研究資金を稼いだのか？

現代の日常生活には欠かせない技術や製品を発明するためにはばく大な研究資金が必要となり、特許を申請するためにもお金が必要となります。現代ではベンチャー企業やスタートアップへ支援を行う投資家が増え、クラウドファンディングなども登場していますが、そういったシステムが確立していなかった20世紀以前の発明家はどのように資金を稼いでいたのかを、さまざまな物事のルーツを説明するサイト「Roots of Progress」が解説しています。

How early American inventors funded their ventures
https://rootsofprogress.org/how-early-american-inventors-funded-their-ventures

アメリカの老舗銃器メーカー「コルト・ファイヤーアームズ」の創立者であるサミュエル・コルトは、回転式拳銃の基本機構である「撃鉄を起こすと弾丸を装てんしたシリンダーが連動して回転する」というシングルアクションを発明し、特許を取得しました。

コルトは当初、繊維工場を営む父親からの出資で実験と開発を行っていましたが、父親がコルトの発明を信用していなかったことから資金不足にあえぐことに。そこで、コルトは現代では全身麻酔として使われる亜酸化窒素に注目。コルトは「自ら亜酸化窒素を吸引して酩酊(めいてい)状態になる」というショーをアメリカやカナダ中を回って行い、新しい拳銃の開発と特許申請の資金を稼いだといわれています。

by Kordite

チャールズ・グッドイヤーは、ゴムの加硫法を発見し、天然のままでは使いづらいゴムを実用化することに成功しました。しかし、加硫法を発見するまでの道のりは非常に険しく、グッドイヤーは妻と子どもを抱えていながら資財の全てを投げ打って研究を行ったとのこと。親戚中から借金を重ねたほか、自分の子どもが使っている教科書まで売り、研究資金を作る始末。借金取りに追われ、借金の返済滞納を理由に刑務所送りになったこともあるものの、最終的には加硫法の特許を取得することに成功。ただし、グッドイヤー自身は亡くなるまで特許侵害の裁判で戦い続け、巨万の富が手元に築かれることはなかったようです。

タイプライターを実用化し、QWERTY配列の考案者としても知られるクリストファー・ショールズは当時港の関税徴収員を務めていました。ショールズは実用的なタイプライターを開発すると特許を取得しましたが、自分で会社を興して製造を始めるのではなく、銃器やミシンの製造メーカーだったE・レミントン・アンド・サンズに製造権を売却。E・レミントン・アンド・サンズはその後タイプライター部門を別会社に分離し、世界最大級のタイプライターブランドを築き上げました。

by Jack Malvern

白熱電球や蓄音機の実用化などの功績で「発明王」とも呼ばれるトーマス・エジソンの初めての成功は、株式相場表示機でした。株の銘柄と価格情報を刻印する株式相場表示機の特許は金融・通信企業のウエスタンユニオンにばく大な金額で売却され、エジソンは自分の研究室を設立することができたといわれています。また、実用的な白熱電球を発明した際は、既に発明家として有名な存在であったエジソンは多くの投資家から支援を受けましたが、電球の発明以降は自分の資産だけで研究を行うこともできるようになりました。

サミュエル・モールスがモールス式電信機を発明するための資金を提供したのは、モールスが家庭教師として教えていた生徒の父親でした。その後、モールスは連邦議会から多額の補助金を得ることで電信会社を設立し、大西洋を横断してアメリカとイギリスをつなぐ電信ケーブルの敷設に成功しました。なお、モールスが教えていた生徒の父親は偶然にも、電話を発明したグラハム・ベルにも資金を提供していたそうです。

人類として初めて動力飛行に成功したライト兄弟は自転車店を経営しており、その売上から飛行機の研究資金を調達していました。また、自転車を組み立てたり修理したりする技術は、世界初の動力飛行機であるライトフライヤー号の開発にも応用されました。

by A.Davey

Roots of Progressは「投資家のネットワークが形成されるのは20世紀半ば頃であり、19世紀当時には発明や特許取得に先立つ資金調達を取り巻くさまざまな仕組みが存在していませんでした」と述べ、「多くの発明家が当面の研究費を自分で捻出していました」「いずれのケースでも、特許の申請や商品化など、発明家が重要な節目に立った後は、自分の会社を設立して投資家に資金提供を募るのが一般的でした」と、創立間もない企業に自分の懐から資金を投入する裕福な投資家の存在が大きかったことを指摘しています。