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「トレーラーで運べる原子炉」の開発をアメリカ国防総省が進めている


アメリカ国防総省(ペンタゴン)が2020年3月9日に、「移動式小型原子炉」の開発を進めるべく3社の原子力エネルギー関連会社と契約を締結したと発表しました。これは、国外に展開するアメリカ軍にエネルギーを供給することを目的とした「Project Pele」の一環だとされています。

DOD Awards Contracts for Development of a Mobile Microreactor > U.S. DEPARTMENT OF DEFENSE > Release
https://www.defense.gov/Newsroom/Releases/Release/Article/2105863/dod-awards-contracts-for-development-of-a-mobile-microreactor/

Pentagon awards contracts to design mobile nuclear reactor
https://www.defensenews.com/smr/nuclear-arsenal/2020/03/09/pentagon-to-award-mobile-nuclear-reactor-contracts-this-week/

Pentagon awards contracts for development of a mobile microreactor – Defence Blog
https://defence-blog.com/army/pentagon-awards-contracts-for-development-of-a-mobile-microreactor.html


国防総省の広報担当者であるロバート・カーバー中佐は、「Project Peleは、安全で移動可能な小型原子炉により基地などの電力をまかない、国防総省のさまざまな作戦遂行をサポートすることを目的としたものです」と説明しました。また、Project Peleの責任者を務めるジェフ・ワクスマン氏も、「本プログラムの独自性は、安全で移動可能な原子炉の開発にあります」と指摘。道路や鉄道など、陸海空のさまざまな手段で安全かつ迅速に運搬できる上に、短時間で設置したり停止したりすることが可能な原子炉の開発を目指す考えを示しました。

その実現に向けて、国防総省はBWX Technologies・Westinghouse Government Services・X-energy LLCの3社と合計で約3970万ドル(約41億円)の契約を締結しました。3社は今後2年間かけて個別に原子炉の設計を行い、各社の設計案は国防総省による評価と選定を経て最終的に1つに絞り込まれるとのこと。原子炉の出力や大きさなどの詳細は明らかになっていませんが、試作品として製造される小型原子炉は1~5電気出力メガワット(MWe)の出力で稼働することが想定されています。

以下は、アメリカのロスアラモス国立研究所が作成した、移動可能な小型原子炉の予想図です。

Megapower: a small, safe and reliable #nuclear power plant for remote towns, military bases, and other isolated infrastructure. https://t.co/cumazI3L3v pic.twitter.com/7Y2hyeeYW9

— Los Alamos Lab (@LosAlamosNatLab)


こうした小型原子炉の有用性について、軍事関連のニュースを扱うDefence Blogは「必要な時に必要な場所に運ぶことができる原子炉により、建設に巨額の費用が必要になる電力インフラの必要性がなくなります」と評価しました。


また、国防総省戦略戦力整備室(SCO)のジェイ・ドライヤー氏は「アメリカは、原子力分野でのリーダーシップをロシアや中国に譲るリスクに直面しています」とコメント。移動可能な小型原子炉の実用化により、技術面でのリーダーシップを確固たるものにする狙いがあることを明かしました。

国防総省は今回の契約を発表する声明の中で、「軍は年間30テラワットの電力と、1日当たり1000万ガロン(約3785万リットル)の燃料を使っており、今後さらに増加する見込みです。安全で小型の移動式原子炉により、ほぼ無限でクリーンな電力を供給することが可能になり、地球上のどこでも長期にわたる任務が遂行できるようになります」と述べています。


同様のプロジェクトは、国防総省のエレン・ロード調達・維持担当国防次官の指揮下でも推進されています。2019年度国防権限法のもとでスタートしたこのプロジェクトでは、2~10MWeの小型原子炉の有用性を実証することを目指す計画も含まれており、2023年には最初の試験が実施される予定だとのこと。この試験の結果が良好であれば、2027年にはアメリカ国内の恒久的な軍事施設に配備される見通しです。

ロード国防次官は2020年3月4日に開催されたMcAleese第11回年次防衛計画会議で、「我々の明確な懸案事項は、施設にはエネルギーが必要だという事実です。これらは通常、電力網により配備されていますが、何らかの影響で電力網が寸断され、施設内の発電機の燃料もなくなってしまったらなすすべがありません」と述べて、小型原子炉の必要性を訴えました。

小型原子炉が威力を発揮するのは、軍事面だけではありません。世界原子力協会の広報担当者であるジョナサン・コブ氏によると、さまざまな要因の影響はあるものの、2030年代ごろには商業ベースの小型原子炉が登場すると見込まれているとのこと。Defence Blogは「小型原子炉が民生化されれば、病院や遠隔地の施設に電力を供給したり、災害対応をサポートしたりすることができるようになります」と述べて、小型原子炉が国防だけでなく生活を守る用途にも使用可能だとの見方を示しました。


しかし、小型原子炉の実現には課題も山積しています。憂慮する科学者同盟で原子力安全計画を担当しているエドウィン・ライマン氏は、「小型原子炉に必要な高品質の三重被覆燃料(TRISO)や濃縮度が5~20%の低濃縮ウラン燃料(HALEU)の生産に関する明確な計画はありません」と述べて、燃料の入手性に難があることを指摘。さらに、安全性についても「一貫して過小評価されている」と述べました。

また、ライマン氏によると小型原子炉に使用されるような核燃料を核兵器へ転用することは実用的ではないものの、テロリストの手に渡れば汚い爆弾に利用されることが十分に想定されるとのこと。厳格な安全基準のもとで燃料供給が行われる通常の原子力発電所と異なり、移動可能な小型原子炉では簡易な施設や装備で燃料補給が行われることがあり得るため、核燃料の取り扱いには細心の注意が必要になると、ライマン氏は懸念しています。


さらに、技術的な問題だけでなく政治的な問題もあります。防衛産業のニュースを扱うDefense Newsは「アメリカのパートナーの中には、どんなに小さくても原子炉を受け入れることに拒否感を示す国もあるでしょう。例えば、中国への対抗にあたり重要な日本に小型原子炉を運び込もうとすれば、地元の人々からの強い反発に遭うと思われます」と述べて、移動可能な小型原子炉をアメリカ国外に展開することに伴う困難さを指摘しました。

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in ハードウェア,   乗り物, Posted by log1l_ks

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