「エンドウマメから蒸留酒を造る試み」がなぜ気候変動への対策となるのか?
蒸留酒のジンは通常、小麦や、大麦、ライ麦、ジャガイモなどを原材料とする蒸留酒に、ジュニパーベリー(セイヨウネズの松かさ)で香り付けして作られます。しかし、スコットランドの研究チームが新しく開発したジンはなんとエンドウマメを原材料にしているとのこと。研究チームは、このエンドウマメのジンが「二酸化炭素の排出量を抑え、気候変動を抑制する効果がある」と論文で発表しました。
Arbikie launches world’s first ‘climate positive’ gin made from peas | Arbikie
https://www.arbikie.com/blog/arbikie-launches-worlds-first-climate-positive-gin-made-from-peas
Just the tonic! Legume biorefining for alcohol has the potential to reduce Europe's protein deficit and mitigate climate change - ScienceDirect
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0160412019308773
Scientists made an environmentally friendly gin from peas. Yes, it will still get you drunk.
https://mashable.com/article/gin-garden-peas/
スコットランドのアバーテイ大学とジェームズ・ハットン研究所の研究者がアーバイキー蒸留所と共同で作ったジンはエンドウマメを材料としており、ゲール語で「自然」を意味する「Nàdar(ナダル)」という名前がつけられました。
研究チームによると、有名なジンであるタンカレーを700ml作る時に排出される二酸化炭素の量は1.26kgだとのこと。アバーテイ大学の発酵科学教授であるグレーム・ウォーカー氏は「ビールやウイスキーなど伝統的な酒は、大量の化学肥料を必要とする穀物から製造されています。しかし、化学肥料の使用は温室効果ガスの排出を促進し、気候変動に影響を与えます」と語っています。一方、700mlのナダルを作る際の二酸化炭素排出量は-1.54kg。これは「ナダルを作る上での二酸化炭素の吸収量が排出量を上回る」ことを意味します。
エンドウマメをはじめとするマメ科の植物は、根粒菌と呼ばれる菌と共生することで知られています。根っこにまるでコブのようにくっついている根粒菌は、空気中にある窒素から植物の栄養となる窒素化合物を合成する窒素固定を行うため、人工肥料の使用を抑えることが可能。そのため、ナダルは一般的なジンよりも二酸化炭素の排出量が抑えられると研究チームは主張しています。
また、原酒の蒸留ポットの底にたまる「ポットエール」という廃棄物は、エンドウマメの残りカスと酵母で構成されているため、栄養価の高い動物飼料として使用可能。実際にアーバイキー蒸留所では、隣接する牧場の牛にナダルのポットエールを餌として与えているとのこと。これによって、産業廃棄物の量も減らすことができるため、さらに二酸化炭素の排出量を抑えることが可能というわけです。
加えて、大豆ではなくエンドウマメを選択した理由として、「ラテンアメリカでは大豆生産のための森林破壊が広がっていること」を挙げ、ラテンアメリカへの大豆依存を減らすことで気候変動への影響を抑えることも期待できるとしています。
ただし、エンドウマメは連作障害が激しい作物であり、麦類と異なり同じ畑で何度も連続で栽培することができません。そのため、エンドウマメは小麦に比べると作付面積が広くなってしまうというデメリットを研究チームは指摘しています。
なお、肝心のジンの味については、海外メディアのMashableが実際に試飲した上で「エンドウマメの味は感じられませんでした。少し後味があるものの、ジンらしい味を楽しめました」と評価しています。
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