暴力的なゲームと現実の暴力に因果関係がある説には科学的証拠が不十分とアメリカ心理学会が警告

科学的に「ゲームをプレイすること」と「暴力的であること」に関連性はないことが示されていますが、「暴力的なゲームを規制すべき」という主張は根強く存在しており、度々「暴力的な事件の一因である」と批判され続けており、実際にゲーム側に悪影響も及ぼしています。このような状況に対して、アメリカ心理学会(APA)は「暴力的なゲームを現実の暴力に結びつけること」は間違いであると警告しています。

APA RESOLUTION on Violent Video Games
(PDF)https://www.apa.org/about/policy/resolution-violent-video-games.pdf

APA warns against linking violent video games to real-world violence | Ars Technica
https://arstechnica.com/gaming/2020/03/apa-warns-against-linking-violent-video-games-to-real-world-violence/

APAは「暴力的なゲームに関するAPAの回答」というPDFファイルを公開し、「暴力的なゲームと現実世界における暴力的な行動の間の因果関係をサポートする科学的な証拠は不十分である」として、ゲームと暴力の結びつきを主張する考え方に対して警告を発しています。

APAは2015年にもゲームに対して独自の見解を示していました。当時、APAは「暴力的なゲームをプレイすることは、人間の攻撃性と関連している」としています。APAは「攻撃性の増加や、暴力的な行動を暴力的なゲームと結びつけることはできないし、すべきではない」と述べました。

APAは声明の中で、「暴力的なゲームを銃乱射事件などの暴力事件の理由として誤用してはいけません。暴力は研究者・政策立案者・一般の人々の注意を必要とする、多くの要因に基づく複雑な社会問題です。暴力を暴力的なゲームと結びつけることは、科学的に妥当なものではなく、他の要因から注意をそらす主張です」と、暴力的なゲームと現実世界での暴力の関係性を否定しています。

なお、2018年には「ゲームをプレイすることと暴力的であることの間につながりはない」とする研究結果が公表されており、暴力的なゲームをプレイしたからといってそのプレイヤーが暴力的になるとは限らないことがはっきりと示されています。

「ゲームをプレイすること」と「暴力的であること」に関連はないという研究結果が発表される - GIGAZINE

APAの声明は、ゲームと暴力の関係をさまざまな角度から分析した、過去20年以上にわたる研究をまとめてメタ分析した結果に基づいたものだそうです。APAは複数の調査結果をベースに、暴力的なゲームをプレイすることが、「殴る蹴るや髪の毛を引っ張ること、噛むことなどの身体的な暴力や、言葉の暴力」と、どの程度関連しているかを分析。過去の研究はゲームをプレイする子どもの「向社会的行動、共感、道徳的関与が減少する」としていますが、APAは「これらの研究は10歳未満の子どもを対象としたものがほとんどない」と警告しています。

また、多くの研究や記者会見で「攻撃」と「暴力」という言葉が同じ意味合いで使用される傾向にあるそうで、APAは「既存の研究のほとんどが暴力的なゲームをプレイすることと、『致命的な暴力』のつながりに焦点を当てていません。『致命的な暴力』を含むすべての暴力が攻撃性とされていますが、すべての攻撃性が暴力につながるというわけではありません」と指摘し、より厳密に「暴力とゲームとの関係」を調査する必要があると訴えています。

ステットソン大学の心理学教授であるクリス・ファーガソン氏は、2018年にニュースサイト・Ars Technicaに対して、「若者の暴力やイジメ、行動障害、成人の逮捕などを考慮し、多くの研究を検証してきましたが、暴力的なゲームが暴力を誘発しているという証拠を見つけることはできませんでした」と語っています。

APAは暴力的なゲームの影響について継続的な研究を促しており、性別・民族・社会階級・文化的背景が、暴力的なゲームをプレイすることで見られる効果にどのような影響を与えるかどうかについて、さらなる研究が必要としています。

なお、APAはエンターテインメントソフトウェアレイティング委員会(ESRB)に対して、レイティング表示を更新して「ゲームにおける暴力のレベルと特徴を反映すること」を推奨しています。