「ゲームをプレイすること」と「暴力的であること」に関連はないという研究結果が発表される
by Ben White
ゲームの中には暴力的な表現や残虐的な描写を含むものが一定数存在しており、「ゲームをプレイすること」と「暴力的であること」が関連づけられることがままあります。実際にゲームの中でのいざこざが悪質なイタズラ行為に発展することもあるわけですが、こういった事例は当人の持つ資質であり、「ゲームをプレイすることと暴力的であることの間につながりはない」とする研究結果が公表されています。
No evidence to support link between violent video games and behaviour - News and events, The University of York
https://www.york.ac.uk/news-and-events/news/2018/research/no-evidence-to-link-violence-and-video-games/
Scientists Say There Is No Link Between Video Games And Violence | IFLScience
http://www.iflscience.com/technology/scientists-say-there-is-no-link-between-video-games-and-violence/
「ゲームと暴力のつながり」についての研究の中で挙げられるのが「プライミング効果」と呼ばれる現象。これは、事前に見聞きした情報(プライム)などがそのあとの情報(ターゲット)処理に影響を及ぼすというもので、「暴力的なゲームをプレイするとプレイヤーは暴力的になる」という考え方は、プライミング効果の影響を考慮したものとみられます。
プライミング効果はコトバンクでは以下のように解説されており、どのようなものかイメージしやすいかと思います。
あらかじめある事柄を見聞きしておくことにより、別の事柄が覚えやすくなったり、思い出しやすくなることをいう。ここで先に見聞きする事柄をプライムと呼ぶ(影響を受ける別の事柄はターゲットと呼ぶ)。たとえば、連想ゲームをする前に、あらかじめ果物の話をしておくと、赤という言葉から「りんご」や「いちご」が連想されやすくなる。また車の話をしておけば、同じ赤という言葉から「信号」や「スポーツカー」が連想されやすくなる。こうした効果が生じるのは、単語や概念が互いにネットワークを形成しているためだと考えられる。 指導場面では、先に手本を示したり、覚えさせたい事柄について雑談してから教えることで、プライミング効果による学習効率の上昇が期待できる。
しかし、学術誌のComputers in Human Behaviorで公表された「No priming in video games」という論文は、ゲームによるプライミング効果を否定する内容です。
論文では被験者を集め、異なる2つの種類のゲームをプレイした被験者の反応時間を比較する実験を行っています。実験では3000人以上の被験者に対し、「自動車の衝突を避けるゲーム」と「ネズミがネコから逃げるゲーム」の2つをプレイしてもらいます。ゲームをプレイしたあと、被験者はバスや犬などのさまざまな種類の画像を見せられ、これらの画像を「乗り物」か「動物」かに分類していく作業を行ってもらいます。つまり、ゲームをプレイすることがプライミング効果における「プライム」になるならば、「自動車の衝突を避けるゲーム」をプレイした人は多数の画像の中から「乗り物」の仕分けだけは素早くできるようになるはず、と研究者たちは仮定したわけです。
研究に参加したヨーク大学・コンピューターサイエンス学科で講師を務めるデイビッド・ゼンドル氏は、「2つの実験でこのような結果になるとは思いもしませんでした。自動車ゲームをプレイした被験者は、乗り物の画像を分類するのが素早くなるどころか、場合によっては大幅に遅くなってしまったんです」と語っています。つまり、反応時間を見る限り、ゲームをプレイすることでプライミング効果が起きたとは考えられないというわけです。
by Daniel Monteiro
また、同じ研究の中で「より現実に近いゲーム」をプレイすることで「プレイヤーは攻撃的になるのではないか?」という仮説の真偽を確かめるための調査も行っています。この調査では「ラグドール物理」と呼ばれるゲーム内で用いられる物理法則を使い、人間の骨格をシミュレートすることでよりリアルに落下したり傷ついたりすることができるキャラクターを作りました。さらに、現実の兵士などが使用するリアルな戦術を取り入れたゲームを作ることで、「より現実に近いゲーム」を作成。この「より現実に近いゲーム」と通常のゲームを被験者にプレイさせることで、ゲームのリアルさがプライミング効果にどのような影響を及ぼすかを調べています。
調査の結果は、より現実的なゲームをプレイした被験者とゲームをプレイしていない、つまり何のプライムも受けていない被験者の間には差が生じていないというもの。これは、リアルなゲームをプレイしてもプライミング効果は得られないことを示しています。
by Pawel Kadysz
これらの調査結果から、ゲームによるプライミング効果は存在しない、つまりは暴力的なゲームをプレイしたからといってプレイヤーが暴力的になるとは限らないことが示されました。
また、過去の研究から暴力的なゲームは人の共感に長期的な影響を与えないことや、認知能力を向上させることも明らかになっています。
しかし、研究者たちは特に暴力的なゲームが子どもに与える影響については引き続き調査を進めるべきとしており、「これと同じ効果が得られるかどうか確認するために、他の側面についてさらなる研究を進めていく必要があります。具体例を出すと、ゲームの中のキャラクターがよりリアルになるとどうなるかや、拷問などの極端なコンテンツを含む場合はどうなるかなどです」とゼンドル氏は語っています。
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