サイエンス

「失恋の痛み」を癒やす科学的な方法が研究されている


意を決して好きな人に告白したもののあっさりフラれたり、長年付き合っていた恋人に別れを告げられたりと、辛い失恋を経験した人の心にはひどい傷が残ります。時には吐き気や不眠症、うつ病などに発展することもある「失恋の痛み」を、科学的な方法で癒やす試みが行われているとイギリス大手紙のガーディアンが報じています。

Can science cure a broken heart? | Science | The Guardian
https://www.theguardian.com/science/2020/feb/22/can-science-cure-a-broken-heart

失恋の痛みに悩んでいる人にとっては幸いなことに、研究者によってある程度失恋の痛みを和らげる方法が発見されつつあるとのこと。2019年3月にマドリード工科大学の研究チームが発表した研究では、「被験者が辛い経験を思い出した直後に全身麻酔や鎮痛剤に使われるプロポフォールを注射されると、24時間後に辛い経験を思い出しづらくなる」ということがわかりました。

この研究の目的は心的外傷後ストレス障害(PTSD)の症状を緩和する方法を模索することでしたが、失恋による苦しみもPTSDに発症する可能性を含んでいるため、プロポフォールを用いた治療は失恋の痛みにも適用できる可能性があります。

研究を率いたマドリード工科大学のBryan Strange氏は、「麻酔と感情的な記憶の喚起を組み合わせることで、辛い記憶を思い出しづらくなります。私たちはこの方法が上手く機能する人々と、治療によるメリットが麻酔を投与するリスクを正当化できる基準を導き出す必要があります。失恋が大きな苦痛となっている人については、治療を許可できる基準を上回ることがあるでしょう」と述べました。


近年ではMendRx BreakupBreak-Up Bossなど、アドバイスや気分を和らげる行動を通して「失恋の痛みから回復するアプリ」も相次いでリリースされています。2017年の研究では、脳を使うトレーニングが失恋後の衝動を抑制し、自制心を強化する可能性も示されました。

人間の脳に対する「愛」の影響について長年にわたって研究してきたHelen Fisher氏は、MRIスキャンを使った実験で、愛する人と別れた人の脳では欲求と強迫観念に関連する領域が活性化していることを発見しました。この領域はギャンブルや中毒に悩む人の脳で活性化する部位でもあることから、失恋した人と中毒状態を打開しようとする人とは類似点があるとFisher氏は指摘。

Fisher氏の調査結果を基にして、ケンブリッジ大学の臨床心理神経学者であるBarbara Sahakian氏は失恋した人を回復させるアプリを開発しています。「愛は非常に中毒性が高いものです。あなたの脳の報酬系は愛する人によって活性化されています。あなたが愛する人と別れたなら、あなたは愛する人と顔を合わせ、メッセージを送り、声を聞くという習慣的で強迫的な行為を取り除く必要があります。失恋の痛みを和らげる最もいい方法は、何かほかのことに時間を使って気を紛らわせることです」と、Sahakian氏は主張しています。


また、眼球運動と外傷体験の想起を組み合わせた「眼球運動による脱感作および再処理法(EMDR)」や、電極を用いるなどして脳波の調整を行うニューロフィードバックも、失恋の痛みを乗り越える方法として論争の的になっています。アメリカ出身のラッパーであるデッサ氏も、14年付き合った恋人と別れたことの苦しみを治療するため、ニューロフィードバックを試した人物です。

ニューロフィードバックは小規模な研究により、うつ病PTSDの治療に効果があることが示唆されており、デッサ氏は9回のセッションで失恋の痛みを治療しようと試みたとのこと。結果としてデッサ氏はかつての恋人を目にしても以前ほど強い感情を持つことがなくなったそうですが、デッサ氏は自身に起きた変化がプラシーボ効果によるものだった可能性も否定していません。

オックスフォード大学で心理学・哲学・倫理学について研究するBrian Earp氏は、電極を使って脳波に介入するニューロフィードバックのようなテクノロジーは万人向けではないと指摘。より簡単に人々が使用できるのは薬を用いた化学的介入だと述べ、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)による対人感情の鈍化作用などが、愛する人との別れを乗り越える役に立つ可能性があると述べました。


Fisher氏もEarp氏も、失恋の痛みを癒やすためのテクノロジーを実用化する過程で、倫理的な問題に対処する必要があると指摘しています。恋する気持ちを断ち切るテクノロジーが市場に出回った結果、ある日いきなり薬を用いて恋人との関係を遮断するケースが登場するかもしれません。しかし、時に人は過ちや後悔から将来の行動を見直すこともあるため、失恋の痛みをなくすことによる予期せぬ影響が浮上する可能性もあります。

失恋の痛みに対処する方法としてFisher氏が推奨しているのは、科学的な手法に頼らない方法です。「愛する人からの手紙を目に付かない場所に置いてください」「相手にメールや電話をせず、運動してください。運動はドーパミンの分泌量を上げて、痛みに対する抵抗性を向上させます。あなたが失恋を乗り越えるまで、元パートナーと友だちになろうと思わないでください。新しい人と出かけて動き回るべきです」とFisher氏は述べ、本当に失恋の痛みを癒やせるのは時間の経過と、新しい恋人だと主張しました。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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