アホウドリにとりつけたGPSトラッカーで違法漁船を発見する試み
by Tony Morris
近年、科学研究に野生動物の習性や行動を利用する試みが増加しつつあり、「アザラシの頭に取り付けたアンテナで海洋の熱輸送システムを研究する」など、ユニークな研究が行われています。フランス国立科学研究センターの研究チームは、非常に優れた飛行能力を持つアホウドリにGPSトラッカーを取り付け、法的な許可を得ていない違法漁船を発見する試みを実施しています。
Ocean sentinel albatrosses locate illegal vessels and provide the first estimate of the extent of nondeclared fishing | PNAS
https://www.pnas.org/content/early/2020/01/21/1915499117
Albatrosses Outfitted With GPS Trackers Detect Illegal Fishing Vessels | Science | Smithsonian Magazine
https://www.smithsonianmag.com/science-nature/albatrosses-outfitted-with-gps-detect-illegal-fishing-vessels-180974054/
Revenge of the albatross: seabirds expose illicit fishing | AFP.com
https://www.afp.com/en/news/826/revenge-albatross-seabirds-expose-illicit-fishing-doc-1og0j71
違法漁業は世界の多くの海域で行われており、市場に出回っている魚の5分の1が違法な漁業によって捕獲された魚である可能性も指摘されています。許可を得ずに漁を行っている船舶は運搬量を過小報告するなどして捕獲した魚の量をごまかし、海の生態系を危険にさらしているとのこと。また、違法漁業の市場は世界全体で毎年200億~300億ドル(約2兆2000億円~3兆3000億円)にも上り、正当な漁業を行っている漁師や国々に不利益を与えています。
その一方で、地球表面の70%以上を覆う海洋全体を監視することは非常に困難であり、陸上の法執行機関が効率的に違法漁業を取り締まることは簡単ではありません。オレゴン州立大学の漁業専門家であるAmanda Gladics氏は、個々の国の領海を遠く離れた海洋上では、取り締まりのリソースやインフラが不足していると指摘。そこで、フランス国立科学研究センターの海洋鳥類学者であるHenri Weimerskirch氏らの研究チームは、違法漁業を取り締まるために「海洋上を飛び回るアホウドリ」を利用する方法を考案しました。
今回の論文の共著者であるリバプール大学の海洋生物学者Samantha Patrick氏は、アホウドリが漁船の外側に取り付けられた漁具を「軽食のバイキング」として利用していると指摘。アホウドリはおよそ20マイル(約36km)離れた場所から漁船を発見可能であり、漁船に向かって飛行できるとのこと。
by David Cook
そんなアホウドリの習性をいかし、研究チームはアホウドリの位置を追跡するGPSトラッカー、船舶のレーダーを感知するアンテナ、陸上の研究チームにデータを送信する別のアンテナ、装置に電力を供給するソーラーパネルをひとつにまとめた装置を開発。
一般的な船舶には自動船舶識別装置(AIS)を搭載することが義務づけられていますが、違法漁業を行う船舶はAISをオフにしており、陸上の法執行機関が航行ルートを知ることは困難です。しかし、たとえAISをオフにしている違法漁船でも他の船との衝突を回避するためにレーダー信号を発しているため、アホウドリに搭載された装置は船舶から数マイル(数km)の距離に近づくことで、この陸上までは届かない微弱なレーダー信号を検知できるとのこと。
研究チームはアホウドリによる違法漁業船の発見システムをテストするため、実際にアホウドリにGPSトラッカーを取り付けて実験を行いました。研究チームがGPSトラッカーを取り付けたのは、アホウドリの一種であり南極海周辺を飛行するワタリアホウドリとアムステルダムアホウドリ。南インド洋に位置するアムステルダム島、クローゼー諸島、ケルゲレン諸島にある営巣地に到着した研究チームは、合計で169羽のアホウドリの背中に、2オンス(約57g)のGPSトラッカーをテープまたは接着剤で貼り付けました。Weimerskirch氏は、「アホウドリは海の歩哨です」と述べています。
by Julien Collet
2018年11月からの6カ月間で、アホウドリのパトロール隊は4700平方キロメートルを超える範囲を飛び回りました。アホウドリが漁船から3マイル(約5km)以内に近づいた場合はその座標が記録され、船舶のAISデータを検索できるオンラインデータベースに研究チームがアクセスして、該当する船舶を探して照合したとのこと。アホウドリが漁船に近づく傾向は年齢によって違いがあったそうで、若いアホウドリよりも高齢のアホウドリの方が頻繁に漁船へ近づくことがわかりました。この点についてPatrick氏は、漁船への魅力が時間の経過と共に学習される可能性があると指摘しています。
調査中に検出された漁船はおよそ353隻であり、そのうち28%がAISをオフにしていたとのことで、発見された漁船のうち3割近くが違法漁業を行っていた可能性があることが判明。「これほどまでに違法漁業を行う船の割合が高いとは思っていませんでした」と、Weimerskirch氏は述べています。AISをオフにしていた船舶は国際水域で特に多い傾向が見られたほか、排他的経済水域内では国ごとにAISをオフにするかどうかの傾向が異なっており、その国が定期的に違法漁業を行う船舶を監視しているかどうかを反映している可能性があるそうです。
アホウドリによって検出された違法漁業船の情報は、あくまでもレーダーと位置情報に基づいたものであり、個別の船舶について識別することはできません。実際に違法漁業船を取り締まるかどうかは依然として法執行機関の職員に委ねられていますが、少なくとも違法漁業が多く行われる場所をマッピングする役に立つとPatrick氏は述べています。
by nelsonart
アホウドリを用いた監視システムは飛行機によるパトロールや衛星を用いた調査などの方法と比較して、安価な選択肢といえます。その一方で、もし「アホウドリが違法漁業の監視に使われている」という認識を違法な漁業を行う犯罪グループが持った場合、「違法漁業を報告される前に撃ち落とす」といった過激な対策を取ってくる可能性もあるとのこと。そのため、アホウドリを用いた監視システムの導入には慎重になる必要があると研究チームは認めました。
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