「神経インプラント」の研究はどれぐらい進んでいるのか
by Clarisse Croset
アメリカの国防総省や国立衛生研究所が数億ドル(数百億円)を投じたと言われている「神経インプラント(ニューラルインプラント)」は、病気治療やリハビリ、脳と人工義肢との接続、認識力・記憶力向上など、さまざまな分野で利用が始まっています。
How Do Neural Implants Work? - IEEE Spectrum
https://spectrum.ieee.org/the-human-os/biomedical/devices/what-is-neural-implant-neuromodulation-brain-implants-electroceuticals-neuralink-definition-examples
「神経インプラント」とは、体内に埋め込む、神経細胞(ニューロン)と相互に作用する装置のことです。神経細胞からの信号を記録することで、健康なときの情報伝達パターンがわかるほか、装置から信号を発することで、神経細胞に作用を与えることもできます。
最も確立されている用途の1つが「深部脳刺激療法(DBS)」です。これは、脳深部に電極を設置して電気刺激を発することで、その部位の活動を抑えるというもの。アメリカの食品医薬品局(FDA)では1997年に本態性振戦のためのDBS使用を承認。以後、パーキンソン病、ジストニア、耳鳴、てんかん、強迫性障害、神経障害性疼痛についてもDBSが承認されており、トゥレット障害やうつ病など、精神障害の治療法としても研究が進んでいるそうです。これまでにDBSを受けた人は世界で15万人以上いるとのこと。
深部脳刺激療法(DBS)【名古屋市立大学病院 脳神経外科学 診療案内】脳神経外科学|名古屋市立大学 大学院 医学研究科 神経機能回復学
http://www.med.nagoya-cu.ac.jp/noge.dir/DBS.html
脳に対する刺激により、特定タスクに対する記憶能力を向上させることにも成功しています。また、脊髄損傷により下半身まひの状態にある人々が歩けるようになった事例も報告されています。
DBSのための電極埋め込みは、脳外科手術としては侵襲が少ないものですが、「脳や脊髄へ装置を埋め込む」というのは総じて侵襲性が大きいため、もっと侵襲が少なく、かつ体の奥深くまで作用する装置の開発が進められています。
その一例が、血管を介して脳に到達できるため開頭手術が必要ない「ステントロッド」です。
Stentrode in action - YouTube
ただ、「そもそも神経回路に対する基本的な理解がもっと必要」という見方もあります。国立衛生研究所の神経科学者であるジーン・シビリコ氏は「神経細胞がどのように情報を伝達しているのか、そして神経回路は脳や体にどのように影響を及ぼしているのかを示すマップが必要です。マップがなければ、最も革新的なインプラントであっても、電気信号を暗闇に向けて発射するだけです」と述べています。
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