サイエンス

人間の途切れた神経を「クモの糸」で再建する手術の研究が進行中

by Vincent Lock

タンザニアに生息するジョロウグモの1種は非常に強度の高い糸を吐き出すことで知られており、その耐引き裂き性はナイロン以上、弾性はスチールの4倍以上で、250度の熱環境にも耐え、耐水性を備え、さらに抗菌作用を持つ素材となっています。このような性質からジョロウグモの糸はバイオ医療の観点で注目されており、ウィーンにあるMedUni Vienna大学病院の形成外科学の教授であるChristine Radtke氏は、神経再建手術の新素材としてクモの糸を使用する 可能性を研究しています。

Strong and elastic spider silk can help retrain nerves to grow after damage
https://www.digitaltrends.com/cool-tech/spider-silk-nerve-damage/

Repairing damaged nerves and tissue with spider threads | MedUni Vienna
https://www.meduniwien.ac.at/web/en/about-us/news/detailsite/2017/news-in-july-2017/repairing-damaged-nerves-and-tissue-with-spider-threads/

人間が神経の一部を失うと、失われた部分を補うため、残った神経は空いた部分に神経繊維を伸ばして隙間を覆わなければいけません。しかし、神経が正しい方向に伸びるためにはガイドとなる「構造」が必要になります。通常、人が末梢神経系に傷を負った場合は、神経を再接続するための「構造」として合成導管を使用しますが、合成導管によって切断された神経を再接続するには4cmの傷が限界です。腫瘍の切除や事故によって5cm以上の末梢神経系が傷を負った場合、この処置は非常に難しいものになります。

そこでRadtke教授らの研究チームは合成導管の代わりにクモの糸を使うという可能性について研究。途切れた神経の間で使われるクモの糸はちょうどバラを植える時に使う格子垣のような働きをし、ばらのツルが格子をつたって上へと伸びていくように、神経繊維はクモの糸を使って別の神経と再接続しようとします。

by Catherine Todd

動物を使った実験では、6cmのダメージを負った神経をクモの糸で修復することに成功しており、神経繊維は約9カ月で再接続し機能を取り戻したとのこと。神経の再接続で使われる多くの素材は神経の成長を阻害してしまう働きを持ちますが、クモの糸は自然由来の物質であるため神経の働きを阻害しません。また、最終的に人間の体内で分解されるため、拒絶反応が起こることもないそうです。

Radtke教授の手元には現在21匹のクモがおり、週に1度、クモの糸が採取されます。神経についた6cmの傷を治すには数百メートルのクモの糸が必要ですが、200mのクモの糸を集めるのに必要な時間は15分ほどで、作業の最中にクモが傷つけられることはありません。


画像に写っている女性がRadtke教授。


2017年8月時点で臨床試験は行われていませんが、いったん臨床試験をパスして現実にクモの糸が外科手術で利用できるようになれば、神経の再接続だけでなく、靱帯や半月板の損傷、重度のヤケドの処置、あるいは細胞移植を必要とする神経疾患にも使われると考えられています。

by Michael Patterson

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
ナイロン以来の技術的進歩をもたらしそうな「人工合成クモ糸」 - GIGAZINE

人工的にクモの糸の生成に成功、科学者の長年の夢が実現 - GIGAZINE

遺伝子操作した免疫細胞に「殺し」を教えてがん細胞を死に至らしめる「CAR-T療法」とは? - GIGAZINE

医師の代わりに自動で手術してくれるロボットが開発中、実際に手術する様子のムービーはこんな感じ - GIGAZINE

本物の心臓のように動く3Dプリンターで作られたシリコン製人工心臓 - GIGAZINE

体内で分解する、人体に無害な「生分解性小型バッテリー」の開発に成功 - GIGAZINE

手術中の患者がスマホでメッセージをやりとりすると鎮痛剤の量を抑えられる - GIGAZINE

がん患者の心理療法に「マジックマッシュルーム」が有効 - GIGAZINE

末期がんにも大きな効果のある画期的治療法が登場、しかし副作用も強烈 - GIGAZINE

in サイエンス,   生き物, Posted by darkhorse_log

You can read the machine translated English article here.