メモ

ナイロン以来の技術的進歩をもたらしそうな「人工合成クモ糸」

by Bruce Ruston

世界初の合成繊維「ナイロン」の出現は、ファッションの世界のみならず、日用品などにまで大きな影響を与えるものでした。それから80年経って、次なる「ファッション革命」をもたらすかもしれないのが「人工合成クモ糸」です。

Synthetic spider silk could be the biggest technological advance in clothing since nylon - Quartz
http://qz.com/708298/synthetic-spider-silk-could-be-the-biggest-technological-advance-in-clothing-since-nylon/


人工合成クモ糸は、抗張力(引っ張りへの耐性)が鋼並みで非常に軽く、伸縮性は輪ゴム並みという特性を持ち、結合させればケブラーよりも頑丈。「夢の繊維」とも表現される人工合成クモ糸は、ファッション方面だけではなくアウトドアグッズや医療機器、自動車部品に至るまで、幅広い分野での活躍が期待されています。

この「人工合成クモ糸」をリードしているのが、日本のSpiber(スパイバー)と、カリフォルニア州のBolt Threadsという2つの企業です。

Bolt Threadsの最高マーケティング責任者であるスー・レビン氏によると、Bolt Threadsでは遺伝子組み換えイーストと水、砂糖を主原料として人工合成クモ糸を作っているとのこと。Bolt Threadsは5000万ドル(約50億円)の資金調達を行い、アウトドアグッズメーカーのパタゴニアとの提携を発表しています。


スパイバーの創業者である関山和秀さんによると、人工合成クモ糸の研究はNASAや米軍によって1990年代から行われていて、遺伝子工学をはじめ、分野を横断した高度な技術が必要であることから長らくうまくいっていませんでした。関山さんらが研究を始めたのは2004年ごろからで、タイミングよく、バイオテクノロジーなどの発達があり、関山さんらは微生物にクモの糸のようなものを作らせることに成功しました。

世界初、人工合成クモ糸の製品化に成功!スパイバー社長の人生を掛けるテーマの見つけ方 | 未来を変えるプロジェクト by DODA
https://mirai.doda.jp/series/interview/spiber-kazuhide-sekiyama/


クモの糸はあくまで「タンパク質」のうちの1つなのですが、タンパク質素材を実用化するにはコストの問題が大きく立ちはだかっていました。スパイバーによれば、発酵の世界には微生物によるリコンビナントタンパク質の製造コストは1kgあたり100ドル(約1万円)を下回ることは困難であるという「100ドルの壁」があり、一方で素材の世界では1kgあたり20ドル(約2000円)~30ドル(約3000円)を下回らなければ普及せず、1kgあたり10ドル(約1000円)以下にならなければ巨大市場にはならないという「常識」があったそうです。

これを、スパイバーでは11年間かけて積み重ねた技術革新によってクリア。生産性は発酵生産実験を本格的に開始した2008年と比べて4500倍に、製造コストは5万3000分の1にまで下がり、大規模普及を目指せるコストまで落とすことができました。

現時点で、一歩先駆けているのはスパイバー。Bolt Threadsと同じように、アウトドアグッズブランドの「THE NORTH FACE」と組んで、人工合成クモ糸を使ったタンパク質素材「QMONOS」を用いたアウタージャケットのプロトタイプを作りました。このプロトタイプは「MOON PARKA」と呼ばれています。

THE NORTH FACE - Spiber × GOLDWIN
http://www.goldwin.co.jp/tnf/special/spiber/moon_parka/


「MOON PARKA」は、世界で初めて人工タンパク質素材を用いて、実際の工業ラインで製造された衣類。これによって、工業化プロセス確立に向けての課題が把握できたとのことで、現在は実用化への段階に入っているとのこと。

ひょっとすると十数年とかからず、人工タンパク質素材が世の中を席巻することになるかもしれません。

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in メモ, Posted by logc_nt

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