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ワクチン反対派と真っ向勝負して国民の意識さえ変えた名物科学者とは?


イタリアのビタ・サルート・サンラファエル大学のウイルス学者ロベルト・ブリオーニ氏は、記事作成時点でFacebookで48万人以上のフォロワーを抱え、Twitterアカウントも11万人以上にフォローされている人物。しかし、ブリオーニ氏は2016年にテレビに出演する前は、全くメディアに登場したことがない普通の大学教授でした。そんなブリオーニ氏が一躍有名人になった経緯を、アメリカの学術雑誌Scienceがまとめています。

This Italian scientist has become a celebrity by fighting vaccine skeptics | Science | AAAS
https://www.sciencemag.org/news/2020/01/italian-scientist-has-become-celebrity-fighting-vaccine-skeptics

ブリオーニ氏が有名になったのは、2016年5月にトークショー番組に出演したのがきっかけです。この番組では、元DJのレッド・ロニー氏や女優でテレビパーソナリティーのEleonora Brigliadoriが登場し、放送時間のほぼすべてを使って反ワクチン派の主張を展開しました。ブリオーニ氏はこの2人に反論するために出演を要請されていましたが、司会者がブリオーニ氏に発言させたのはほんの数分間だけ。つまり、ブリオーニ氏は半ば当て馬にするためだけに呼ばれたことになります。

by International Journalism Festival

統計や科学に基づいた反論をするには、とても時間がないことをさとったブリオーニ氏は、短く「地球は丸い、ガソリンはよく燃える、そしてワクチンは安全で効果的。それ以外はすべて危険なウソです」とだけ発言しました。ブリオーニ氏の簡潔な反論は、テレビジャーナリストのアレッサンドロ・ミラン氏により「2016年のテレビでの発言で最も美しい言葉13選」に選ばれるなど大反響を呼び、番組には「公共のテレビ放送に、知識のない者が出演して医学的な主張をするのはいかがなものか」というクレームのメールが殺到しました。

ブリオーニ氏はテレビ出演の反響を受けて、Facebookのページで「反ワクチン派の2人はホームグラウンドでプレーして、審判まで味方に付けたのに負けました。私のこの投稿に応援のメッセージを送ってくれている人には感謝を申し上げます。そして、攻撃や非難のコメントをしている少数の人にも同じく感謝したい。なぜなら、彼らのコメントは私がすぐさま消すことができるので、この投稿への影響はほとんどありませんからね。まあ、彼らはレッド・ロニーやBrigliadoriと一緒にご自分をなぐさめることでしょう」と、かなり皮肉が効いた投稿をしました。ブリオーニ氏のこの投稿にも、4000件を超す「いいね!」が寄せられているなど、注目を集めました。


巧みにSNSを使いこなしてインターネット上で有名人になったブリオーニ氏ですが、SNSを始めたのは2016年から1年前の2015年のこと。子どもの母親たち向けのFacebookグループを作ったブリオーニ氏の知人が、ブリオーニ氏にワクチンについて説明する書き込みを投稿するよう依頼したのがきっかけです。ブリオーニ氏はその時のことを「イタリアで反ワクチン運動が拡大していたので、医師であり大学教授として、そしてなにより8歳の娘の父親として何か行動を起こすことが私の義務だと感じました」と話しています。ブリオーニ氏は、反ワクチン派に公然と対抗することで、娘が学校でいじめられるのではないかと心配しましたが、結局ワクチンについての説明を引き受けました。


ブリオーニ氏はFacebookへの投稿で、「ワクチンの推進は、ワクチンから多額の利益を得ている製薬会社の陰謀である」との主張に対し「製薬会社は病気を未然に防ぐワクチンより、病気を治す薬を売ることでより多くの利益を得ています。もしあなたが子どもにワクチンを接種させなければ、むしろ製薬会社はあなたに感謝するでしょう」と述べて、陰謀論をきっぱりと切り捨てました。

簡潔な言葉で分かりやすくワクチンの安全性や必要性を訴えるブリオーニ氏を、医学界は大いに歓迎しました。例えば、エモリー大学医学部の感染症学教授グイド・シルベストリ氏はブリオーニ氏について、「彼は立ち上がって、『でたらめだ』声を上げることのできた科学者です」と評しています。

イタリアの医学界がブリオーニ氏のような人物を必要としたのは、立て続けに発生した医療関係の不祥事により医学への信頼が地に落ちてしまったためです。例えば、1998年にイギリスの医師アンドリュー・ウェイクフィールド氏が「新三種混合ワクチン(MMRワクチン)は自閉症を引き起こす」という論文を発表して以来、世界的にワクチンの接種者が減少しました。

なお、最新の研究により、ウェイクフィールド氏の主張は誤りであることが証明されています。

新三種混合ワクチンが自閉症とは無関係であることが示される - GIGAZINE

by Dr. Partha Sarathi Sahana

しかし、イタリアのリミニ地方裁判所では2012年に、MMRワクチンが原因で子どもが自閉症になったと主張する両親が起こした裁判で、イタリア政府に17万4000ユーロ(約2136万円)の支払いを命じる判決が出ました。この時、医学的な知識が乏しい裁判官が判決の根拠にしたのが、ウェイクフィールド氏の論文でした。イタリア政府のワクチンが自閉症の原因になったとする判決は、2015年の控訴審で覆されましたが、この裁判をきっかけにイタリアではワクチンを忌避する動きが定着してしまいました。

また2013年には、イタリアの発明家Davide Vannoni氏が科学的な裏付けもなくパーキンソン病筋ジストロフィーに効果があると主張したスタミナ療法の研究に対し、イタリア政府が巨額の助成金を拠出してしまう事件が発生。スタミナ療法はその後、2014年に法律で禁止され、Vannoni氏は詐欺で有罪判決を受けています。

こうした不祥事の影響で、イタリア人が医療制度やワクチンを信用しなくなった結果、イタリアはヨーロッパで最もワクチンの接種率が低い国の1つになり、麻疹(はしか)の発生率はヨーロッパで2番目に高くなってしまったとのこと。そんなイタリアについて、ブリオーニ氏は自著の中で「我が国は、科学と迷信の間で永遠にぐらついている国です」と述べています。

イタリアの医学界や、ワクチン賛成派がブリオーニ氏をもてはやす一方で、反ワクチン派はブリオーニ氏に対して猛然と反発しました。例えば以下の画像には、2017年にイタリアで子どもへのワクチン接種を義務化された際に、反ワクチン派が掲げたコラージュ写真が映っています。ブリオーニ氏が猿ぐつわをかまされているこのコラージュは、ブリオーニ氏を1978年に極左テロ組織によって誘拐のうえ殺害されたアルド・モーロ元首相になぞらえたもの。


実際に、オンライン上ではブリオーニ氏に対する脅迫や殺害予告が行われており、中にはブリオーニ氏の娘を対象としたものもありました。また、ブリオーニ氏が家族と一緒にリミニのリゾート地でバカンスを楽しんでいたところ、それを見つけた反ワクチン派がオンライン上で襲撃を計画したため、警察の忠告に従い一家が避難を余儀なくされたこともあったとのこと。

中立的な立場からも、あまりにも簡潔にワクチンを擁護するブリオーニ氏の姿勢について懸念する声が挙がっています。科学ジャーナリストのFabio Turone氏は「ブリオーニ氏の一方的な論調は、複雑な議論を二極化し、単純化しすぎています」と述べました。Turone氏によると、強固にワクチンを拒否しているのはイタリア人全体の1%未満で、ワクチン未接種の人の大半はワクチンに慎重になっているか、単に入手困難なためにワクチン接種ができていないだけだとのこと。

また、医師であり一児の母親でもあるロベルタ・ヴィラ氏は、「反ワクチン派も我が子を守りたいと考えてのことなので、もう少し共感的なアプローチが必要です。物事を強制するような父権主義的なやり方はうまくいきません」と話しました。

それでも、ワクチンに対するイタリア国民の意識を変えた「ブリオーニ効果」によって、イタリアでのワクチン接種率が飛躍的に向上したのは事実です。イタリアでは、麻疹ワクチンの接種率が一時85.3%にまで低下しましたが、2017年にワクチン接種が義務化されてからは94.1%にまで向上したとのこと。麻疹の流行を防ぐには子どものワクチン接種率が95%は必要だとされており、94.1%という数字はわずかに不足していますが、それでも以前よりはかなり改善しています。イタリアがワクチン接種率の向上に成功したため、2019年にはフランスとドイツでもワクチン接種が義務化されました。

ブリオーニ氏は、インターネットでのワクチンの啓発について「ソーシャルメディアには、いい面と破壊的な面があるのは確かです。しかし、科学は新しい言葉を発信しなくてはなりません。科学会議で使われる専門用語ではなく、分かりやすくて、情熱と説得力にあふれた言葉です」と述べました。

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