テストへの不安を消す「異色の方法」とは?
by Josh Applegate
リラックスした状態であれば答えられる問題であっても、テストで緊張してしまうとうまく答えることができない……という人は多いはず。このような問題への対処方としては心理療法と抗不安薬の組みあわせのほか、神経刺激薬を用いるという方法もあります。しかし、新たな研究では安全性の懸念がある薬を使うのではなく、オープンラベルのプラセボ薬を使用するという方法で、テストへの不安が減少することが示されました。
Open-label placebos reduce test anxiety and improve self-management skills: A randomized-controlled trial | Scientific Reports
https://www.nature.com/articles/s41598-019-49466-6
Some Relief for Test Anxiety Is Found in an Unusual Treatment - Scientific American
https://www.scientificamerican.com/article/some-relief-for-test-anxiety-is-found-in-an-unusual-treatment/
薬効成分を含まない偽薬を本物の薬と偽って投与された際に、患者の病状が回復することを「プラセボ効果」と呼びます。これまでの研究で、プラセボ薬は痛み・吐き気といった症状から、睡眠障害、過敏性腸症候群まで、さまざまな症状に効果を発揮することが示されています。一般的にプラセボ薬が効果を発揮するには、被験者が「自分は本物の薬をもらっている」と思い込むことが必要ですが、オープンラベルのプラセボ実験は最初の段階で「これは薬効を含まないプラセボ薬です」と伝えられます。新たな研究では、このような前提に立ってもなお、プラセボ薬がテストでの不安に効果を発揮すると示されました。
実験を行ったベルリン医学大学のマイケル・シーファー氏らの研究チームは、オープンラベルのプラセボ薬の効果を、58人の大学生を対象にランダム化されたコントロール実験で調査しました。このとき同時に、被験者のQOLや自己管理に対する客観的認識についても調べられたとのこと。
全ての被験者はプラセボ薬について、「薬効のある物質は含まれていませんが、体は自動的に条件反射し、非常に大きな効果を持つ」という説明を受けました。また「プラセボのグループに割り当てられたら指示通りの薬を飲む必要があります。ポジティブな姿勢がプラセボ効果をブーストさせます」とも告げられたとのこと。
by Brandless
被験者は薬を受け取る前にテストへの不安や自己管理スキル、主観的なQOLについて評価を行いました。この不安テストで評価されたのは、各自の心配度合や自信の欠如、情緒などのレベルです。自己管理スキルは物事への対処、内省、希望、自己言語化、自己効力、モチベーションの変更、社会的支援への認識が含まれ、QOLの尺度には健康、痛み、心理的苦痛、幸福の認識および肉体的・社会的活動といった点が用いられました。
各被験者がこれらの内容を評価した後に、研究者はランダムに選んだ被験者の半数にだけ、プラセボ薬を手渡しました。これら被験者は朝と夜、1日に2度、「プラセボ薬」とはっきり書かれたボトルから偽薬を2週間にわたって飲み続けました。なお、プラセボ薬を飲んだグループと飲まなかったグループで、実験期間中に研究員と関わった時間や内容は同じだったとのこと。
2週間後、実験前と同様の評価を行って、実験は終了。実験前後の評価を比べてみると、プラセボ薬を飲んだグループは自己管理スキルが大幅に改善し、テストへの不安も大きく減少していたことが判明しました。一方で、対照群の被験者は実験前後で評価にほとんど変化が見られなかったとのこと。今回の実験は自己評価によるものですが、少なくとも自己評価の尺度ではプラセボ薬はテストへの不安に対して大きな効果がみられるといえるわけです。
by Clay Banks
なぜプラセボ薬が効果を発揮したのかについて、科学者はまだ明確な答えを持ちませんが、「過去に何らかの薬を服用して効果が見られた被験者は、『薬』と『症状の軽減』の2つを関連付けるために体が条件反射を起こし、有益な効果がみられる可能性がある」とみているとのこと。なお、過去に行われた慢性的な背痛や頭痛、過敏性腸症候群といった症状に対するオープンラベルのプラセボ実験でも、同様の効果が見られているそうです。
もちろん、今回の実験は被験者数が少なく実験期間が限られており、限定的なものとなっているため、結論を出すためには治療の効果を長期にわたって観察する大規模な調査が必要です。また、不安の減少を報告した被験者が、実際にテストでよいパフォーマンスを出せるといった調査結果も、今回の実験では示されていないとのこと。
このように限定的な研究ではあるものの、不安と戦う学生にとって、このようなオープンラベルのプラセボ薬は低コスト・低リスクの解決策になる可能性が十分にあると研究者は述べています。
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