ハードウェア

AMDの第3世代Ryzen Threadripper 3960X/3970Xのレビューが解禁、熱と消費電力はすごいが性能もトップクラス


AMDのZen2アーキテクチャを採用したHEDT(ハイエンドデスクトップPC)向けCPUの第3世代Ryzen Threadripperが、2019年11月30日に全世界で発売されます。そのうち、24コア・48スレッドのRyzen Threadripper 3960X(以下、TR 3960X)と、32コア・64スレッドのRyzen Threadripper 3970X(以下、TR 3970X)についてのレビューが2019年11月25日に解禁され、技術系メディアのAnand Techが第3世代Threadripperのさまざまな比較テスト結果を公開しています。

The AMD Ryzen Threadripper 3960X and 3970X Review: 24 and 32 Cores on 7nm
https://www.anandtech.com/show/15044/the-amd-ryzen-threadripper-3960x-and-3970x-review-24-and-32-cores-on-7nm


◆基本スペック
◆コアあたりの消費電力
◆レンダリングテスト
◆システムテスト
◆エンコーディングテスト
◆総合比較テスト
◆ゲーミング性能(FPS)比較

◆基本スペック
7nm製造プロセスを想定して設計されたTR 3960XとTR 3970Xは、単一のI/Oダイとペアになった4つのZen 2アーキテクチャチップレットで構築されていて、それぞれのチップレットは6コアもしくは8コアとなっています。TR 3970XとTR 3960Xのどちらも新しいsTRX4ソケット上に構築され、計64レーンのPCie 4.0インターフェースを備えており、4つのDDR4-3200メモリチャンネルに対応。税別価格はTR 3960Xが16万4800円、TR 3970Xが23万3800円となっています。

第3世代Threadripperと第2世代Threadripper、Ryzen 9 3950Xのスペックを比較したものがが以下の表。TR 3960XとTR 3970XのTDP(熱設計電力)は280Wと、第2世代ThreadripperのTDP250Wよりも高めになっています。かなりの発熱が予想されるため、システムに関係なくしっかりとした冷却が必要になる、とAnand Tech。


ほぼ同時に発売されるIntelのHEDT向けCPUCore i9-10980XEとのスペックを比較した表が以下。Core i9-10980XEは、TR 3960XやTR 3970Xに比べるとコア・スレッド数やL3キャッシュ、DRAM容量など各種スペックは下がるものの、TDPは165Wと低く、海外での価格は979ドル(約10万6700円)と安くなっています。なお、Core i9-10980XEの国内予価は税込13万8000円前後です。


Anand Techは以下の構成でベンチマーク測定を行いました。


◆コアあたりの消費電力
以下の表は、Anand Techがアフィニティマスクを使ってTR 3960Xの消費電力のメトリクスについてテストを行った結果です。24コアのうち、消費電力がピークを迎えるのは21コア使用時の280Wで、そこからコア数が増えると消費電力が少し下がることがわかります。ただし、21コアの場合でも、コアで使われている電力自体は205Wほどで、残りの75WほどはメモリコントローラーやPCIeルート制御などに使われているとAnand Techは述べています。


そして、TR 3970Xでのテスト結果が以下。TR 3970Xでは23コアの時に286Wに達し、それ以上にコア数が増えても消費電力は横ばいになります。


さらにピーク時の消費電力をさまざまなCPUと比較したグラフが以下。なお、TDP255WであるIntelのサーバー向け28コア・56スレッドCPUのIntel Xeon W-3175Xは、381.08Wと飛び抜けて高いピーク時消費電力を記録しています。


◆レンダリングテスト
Anand Techは「CGのレンダリングは多くの場合、プロセッサのワークロードにとって重要なターゲットであり、プロフェッショナルな環境をチェックするのに適しています」と語り、GPUやFPGAASICを使うこともあるものの、大手映画会社にとっては依然としてCPUは重要なハードウェアだと述べました。そして、複数のベンチマークソフトでレンダリング性能を比較しています。

Corona 1.3。数字が大きいほどスコアがいいことを示します。


Blender 2.79b:3D Creation Suite。数字が小さいほどスコアがいいことを示します。


LuxMark v3.1: LuxRender via Different Code Paths。数字が大きいほどスコアがいいことを示します。


POV-Ray 3.7.1:Ray Tracing。数字が大きいほどスコアがいいことを示します。


すべてのベンチマークソフトでレンダリング性能におけるスコアは第3世代ThreadripperであるTR 3970Xがトップに輝いています。また、同時期にリリースされるCore i9-10980XEが第2世代Threadripeerを上回る結果を出していたこともあったと、Anand Techは指摘しました。

◆システムテスト
アプリケーションのロード時間、画像処理、科学物理学の計算、エミュレーション、ニューラルシミュレーションなどのテストを行っています。

GIMP 2.10.4で50MBのデザインテンプレートを10秒間隔で10回読み込むのにかかった時間を比較したものが以下のグラフ。数字が小さいほどスコアがいいことを示します。TR 3970XよりもTR 3960Xの方が良好なスコアを出していますが、Ryzen 9 3950Xはさらに上回るスコアをたたき出しています。


3D空間内での粒子移動アルゴリズムをシミュレートする3D Particle Movement v2.1で、ストリーミングSIMD拡張命令を無効にした状態でのスコアが以下。数字が大きいほどスコアがいいことを示します。これはTR 3970Xの圧勝で、上位4モデルをRyzen Threadripperが占める結果となりました。


ストリーミングSIMD拡張命令を有効にすると以下の結果に。Anand Techによると、ストリーミングSIMD拡張命令はIntelのCPUに利点があるため、Intel CPUが軒並み上位を占める結果になったとのこと。


ゲームキューブとWiiのエミュレーションが可能なDolphin v5.0でのエミュレーション精度を計測したところが以下のグラフ。数字が小さいほどスコアがいいことを示します。TR 3960Xが、Core i9-9900Kと並んでトップクラスの成績をたたき出しています。


以下は、ニューロンとシナプスの活動シミュレーションを行うDigiCortex 1.20で、リアルタイムにシミュレーションを行ったスコア。数字が大きいほどスコアがいいことを示し、1よりも大きければ十分にリアルタイムシミュレーションが可能であることを示すとのこと。TR 3970Xは、Intel Xeon W-3175Xを超えたスコアをたたき出しました。一方で、TR 3960Xは第2世代Threadripperの2990WXには負けてしまったようです。


◆エンコーディングテスト
Anand TechはオープンソースツールであるHandBrakeを使って、ロジテックのウェブカメラC920で撮影した1080p・60fpsの映像を、「6000kbpsの固定ビットレートで720p・60fps」「3500kbpsの固定ビットレートで1080p・60fps」「3500kbpsの可変ビットレートで1080p・60fps(H.265)」の3種類の設定でエンコードし、それぞれの「1秒当たりのフレーム書き出し数」で比較を行っています。

6000kbpsの固定ビットレートで720p・60fpsにエンコードした結果は以下。数字が大きいほどスコアがいいことを示します。TR 3970Xは2位のスコアを記録しましたが、16コア・32スレッドでTDP105WのRyzen 9 3950Xが1段高いスコアを出しています。


3500kbpsの固定ビットレートで1080p・60fpsにエンコードした結果は以下。数字が大きいほどスコアがいいことを示します。Core i9-7960Xに抜かれたものの、依然としてTR 3970Xは上位をキープ。


3500kbpsの可変ビットレートで1080p・60fps(H.265)にエンコードした結果は以下。数字が大きいほどスコアがいいことを示します。Intel Core i9がずらりと上位にランクインし、TR 3970Xは少し落ちる結果。「いずれにしても、映像のエンコーディングを目的とする場合は、第3世代ThreadripperよりもRyzen 9 3950Xの方がいい選択のようです」とAnand Techは評価しています。


オープンソースの圧縮・解凍ツールである7-Zipにはベンチマーク機能が組み込まれています。7-Zip v1805でファイルの圧縮テストを行った結果が以下。数字が大きいほどスコアがいいことを示しています。第3世代Threadripperがぶっちぎりでトップを獲得。


ファイルの解凍テストでも、TR 3970XとTR 3960Xが変わらず首位を守り、第2世代Threadripperが追い上げを見せています。


ファイルの結合テストの結果でも、TR 3970XとTR 3960Xの圧勝。「第3世代Threadripperは並列処理が、第2世代ThreadripperやIntelのCPUよりも優れているようです」とAnand Techは述べています。


また、Anand Techは老舗圧縮・解凍ソフトであるWinRARのv5.60b3を使って、60秒の映像ファイル30個以上と2000の小さなファイルを通常の圧縮率で圧縮するテストを行っています。圧縮にかかった時間を計測し、10回行ったテストの最後の5回を平均してスコアを算出したとのこと。その結果が以下のグラフ。50秒を超えた第2世代Threadripperをのぞいて、ほぼ全てが45秒前後とほぼ横並びではあるものの、TR 3970XとTR 3960Xの両方は下位になっています。この原因についてAnand Techは「CPUの周波数やコア数が制限要因になっているようです」と予想しています。


そして、Windows標準コマンドによるAES暗号化処理の速度を比較したものが以下。数字が大きいほどスコアがいいことを示します。


◆総合比較テスト
GeekBench 4は、スマートフォン、PC、Macの間でクロスプラットフォームのテストを行うためによく用いられるベンチマークソフトです。なお、Geekbench 4によるテストには暗号化、圧縮、高速フーリエ変換、メモリ操作、行列操作、ヒストグラム操作、HTML解析が含まれ、総合的な評価が可能となっていますが、Anand Techは「Geekbenchによるベンチマークは人気なので実行したが、Geekbenchのスコアは(さまざまなテストの結果を)ひとまとめにし過ぎている」と述べています。

シングルスレッド性能をGeekbench 4で比較した結果が以下。数字が大きいほどスコアがいいことを示します。


マルチスレッド性能をGeekbench 4で比較した結果が以下。数字が大きいほどスコアがいいことを示します。


◆ゲーミング性能比較
Anand Techは複数のPCゲームで、さまざまな画質設定の元で1秒当たりの平均フレーム数を計測。すべて数字が大きいほどスコアがいいことを示します。ゲーミング性能についてはほとんど変わりませんが、わずかな差とはいえ、ほとんどのテストにおいてIntelのCPUが第3世代Threadripperを上回っています。また、第2世代ThreadripperやRyzen 9 3950Xの方がいい結果をたたき出していることも多くありました。

World of Tanks enCore、4K Ultra設定


FINAL FANTASY XV WINDOWS EDITION、8K Standard設定


グランド・セフト・オートV、4K Ultra設定


Anand Techは一通りの比較テストを行った上で、「テストで得られたデータを合わせて考えたところ、HEDT向けCPUを比較してみると、Ryzen 9 3950XやIntel i9-9900KSはコンシューマー市場では非常に面白い製品ですが、第3世代Threadripperは明らかに性能面で群を抜いています」とコメント。シングルスレッドの性能は主流のトップモデルに後れを取っているものの、第2世代Threadripperで問題とされていた「メモリ負荷に敏感なワークロード」も新しいチップレット設計によって解決され、第3世代Threadripperのパフォーマンスは次のレベルに進化されていると述べ、「新しいThreadripperはハイエンドデスクトップ市場に新しい命を吹き込みました」と、Anand Techは評価しました。

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in ハードウェア, Posted by log1i_yk

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