ハイテク企業が1カ所に集中することの功罪とは?
by Raka si
都市情報専門ニュースメディアCityLabが、「アメリカのハイテク企業が一部の地域に密集している」という現状を指摘し、そのメリットとデメリットをまとめています。
Why U.S. Tech Inventors Are So Highly Clustered - CityLab
https://www.citylab.com/life/2019/10/technology-inventions-where-work-patents-agglomeration-data/599089/
カリフォルニア大学バークレー校の経済学教授エンリコ・モレッティ氏は「1971~2007年の間に提出された『コンピューターサイエンス』『半導体』『生物学・化学』の3分野における特許のそれぞれ70%・79%・59%は、特許取得企業が多い上位10都市から輩出されています」と指摘しし、ハイテク企業が少数の都市に集中していることを指摘しました。
以下の表は2007年の特許取得企業が立地する都市圏のランキングです。コンピューターサイエンス分野では、カリフォルニア州の「サンノゼ・サンフランシスコ・オークランド」の3都市から成る都市群が全体の26.2%を占めたほか、「ニューヨーク・ニューアーク・ブリッジポート(9.1%)」「シアトル・タコマ・オリンピア(8.4%)」「オースティン・ラウンドロック(6%)」「ボストン・ウースター・マンチェスター(4.8%)」といった都市圏がその後に続いています。
半導体分野でも、コンピューターサイエンス分野で1位、2位を占めた「サンノゼ・サンフランシスコ・オークランド」と「ニューヨーク・ニューアーク・ブリッジポート」がそれぞれ25.5%・14.9%と、ワンツーフィニッシュ。
生物学・化学の分野でも「ニューヨーク・ニューアーク・ブリッジポート(11.4%)」と「サンノゼ・サンフランシスコ・オークランド(11.2%)」がトップ2を独占しています。
特許を取得するような企業が特定の都市に偏るのは、単にハイテク企業が同じ都市にあるというだけではなく、お互いに影響し合うことで生産性が大幅に向上しているためです。モレッティ氏は「シアトルに本社を構えるMicrosoftの存在が、シアトルのPC関連企業の生産性を8%向上させている」と試算。一方で、「写真用品メーカーとして隆盛を極めたコダックが衰退したことで、同社の本拠地であるニューヨーク州ロチェスターの生産性は20~32%下落した」とも指摘し、ハイテク企業が同じ地域に集中することで相乗効果が生まれているとの見方を示しました。
一方で、ハイテク企業が密集してしまうと家賃の高騰による格差の拡大や空洞化を招きます。上の3つの表でいずれも上位にランクインしているサンフランシスコでは、住宅価格の中央値が146万ドル(約1億6000万円)を突破しており、アメリカ西部で2番目に住宅価格が高いロサンゼルスの2倍以上にもなっているとのこと。そのため、サンフランシスコが位置するカリフォルニア州では、年間の流出者が流入者を3万8000人も上回っていることが報告されています。
サンフランシスコの現状については以下の記事に詳しく書かれています。
住宅費が高すぎて都市から住民が離れていくサンフランシスコの現状とは? - GIGAZINE
by Alexander Mils
ハイテク企業の遍在と生産性の関係を検証するため、モレッティ氏は「ハイテク企業がアメリカの主要都市に均等に配置された場合」のシミュレーションを行いました。その結果、アメリカの下位25%の都市では生産性が27%向上した一方で、上位5%の都市では生産性が15%低下。アメリカ全体でみると、生産性は11%低下してしまったとのこと。
こうした分析結果からCityLabは、「ハイテク企業の集中はアメリカ経済に利益をもたらしますが、勝者と敗者も生まれてしまいます」と述べて、ハイテク企業の集中による利益と地域間の平等はトレードオフの関係にあるとの見方を示しました。
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