メモ

降り注ぐ宇宙ロケットの残骸と共に生活する人々がいる

by NASA

ロシアが管理するバイコヌール宇宙基地は、人類初の人工衛星打ち上げを成功させたスプートニク1号や、人類初の有人宇宙飛行が実現したボストーク1号を宇宙に送り出したロケット発射基地です。しかし、そんなバイコヌール宇宙基地の輝かしい功績の下には、危険と隣り合わせの生活を余儀なくされている人々が暮らしています。

In Russia's Space Graveyard, Locals Scavenge Fallen Spacecraft for Profit - The Crux
http://blogs.discovermagazine.com/crux/2018/06/07/in-russia-spacecraft-land-in-your-backyard/

1955年、旧ソ連だった記事作成時点でのカザフスタンに建設されたバイコヌール宇宙基地は、ソ連崩壊後も土地のリースという形でロシアの管轄下にあります。最古のロケット発射基地の1つでもあるバイコヌール宇宙基地では、建設当初から近年に至るまで、旧ソ連やロシアによりさまざまな宇宙開発事業が行われてきました。日本人初の宇宙飛行士である秋山豊寛氏が宇宙に飛び立ったのも、このバイコヌール宇宙基地からです。

ロケット打ち上げを無線制御で行うために、広大な平野を必要とした当時の無線技術上の制約から、数々の歴史的偉業の舞台に選ばれたバイコヌール宇宙基地ですが、1つ非常に深刻な問題を抱えています。それは、発射されたロケットが切り離した燃料タンクなどが、カザフスタンにあるアルタイ地方の平原に住む人々の頭上に降り注いでしまうという点です。例えば、アメリカの東部にあるケネディ宇宙センターから飛び立ったロケットの部品は大西洋に落下するため、人的被害は最小限に抑えられますが、バイコヌール宇宙基地はユーラシア大陸の中心部に位置しているため、発射されたロケットの部品はすべて陸地に落下してしまいます。

もちろん、ロケットの部品が落下する地域には打ち上げの24時間前に通達がなされ、立入禁止となるなど、対策は講じられています。しかし、2008年には4.5mのロケットの部品が民家を直撃する事故が発生。さらに、2011年にはロケット燃料を満載したソユーズロケットが想定外の場所に墜落し、墜落地点から100km離れた民家の窓ガラスが割れる大爆発が発生するなど、アルタイ地方の平原に暮らす人々は常に事故と隣り合わせの生活を余儀なくされています。

by NASA

ロケットがもたらす影響は、墜落による直接的な被害にとどまりません。ロケットから切り離された燃料タンクには有害なロケット燃料が大量に残っており、しかもロシアや中国が打ち上げるロケットには、ヘプチルもしくは非対称ジメチルヒドラジンと呼ばれる非常に毒性が高い燃料が使用されています。これらの有毒物質は、環境汚染を通じて着実に現地の人々の健康をむしばんでおり、汚染地域に住む人々の内分泌系や血液の疾患は近隣の地域の住民の2倍以上だと報告されています。

また一部の村では、生まれてくるほぼ全ての赤ちゃんが肝臓障害に起因する黄疸を発症するという「黄色い赤ちゃん事件」も起きています。こうした健康被害は、近隣にある化学プラントの影響であるともいわれており、ロケット燃料が原因だとは断定されていません。しかし、非対称ジメチルヒドラジンが肝臓や中枢神経系に対して非常に高い毒性を持つことは確認されているため、少なからず影響があるのは間違いないと指摘されています。

by seventyfourimages

一方で、こうしたロケットの残骸は現地に暮らす人々の生活の一部になっているという側面もあります。アルタイ地方で暮らす人々の多くは経済的に厳しい生活を送っているため、危険を承知でロケットの残骸を回収して家屋の建材にしたり、農具の材料にしたりして生活しています。この地域を訪れた人の中には、宇宙開発事業のロゴが入った金属製の畜舎や家屋、ロケットの残骸で作られた子ども用の農具やそりを見たという人もいるとのこと。こうした地域の住人は、土地に依拠した農業を営んで生活の糧を得ているため、環境汚染の影響を直接受けてしまいます。

バイコヌール宇宙基地の問題を取り上げた科学誌Discoverのポール・クーパー記者は「世界で最も裕福な国々がロケットを放って宇宙の探査に乗り出す傍らでは、世界で最も貧しい国の人々がロケットの残骸に埋もれて生活しています」と述べて、科学の発展の裏で犠牲となっている人々がいることを忘れるべきではないと訴えていました。

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in メモ, Posted by log1l_ks

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