サウジアラビアは自国の石油産出量に関してウソをつき続けているという指摘
By IndustryAndTravel
2019年9月14日、サウジアラビア東部に位置する石油生産プラント施設計19カ所がドローンにより爆撃されました。サウジアラビア産の石油の被害状況について、オイルなどのエネルギー資源に関するニュースメディアOilPrice.comが「サウジがつき続けてきた石油産出量に関するウソ」を中心に解説しています。
Why The Saudis Are Lying About Their Oil Production | OilPrice.com
https://oilprice.com/Energy/Crude-Oil/Why-The-Saudis-Are-Lying-About-Their-Oil-Production.html
まず最初に、OilPrice.comはサウジアラビアの石油化学工業の公式発表に関して、「中国の経済成長に関する発表と同じくらいの信憑性しかなかった」とその信頼性の低さを強調します。しかし、OilPrice.comによると、サウジアラビアの「ウソの技術」は近年向上してきたとのこと。
サウジアラビアがついた最新のウソだと考えられているのが、「2019年9月のドローンによる爆撃後も全て順調で、石油生産量はすぐに元通りになる見込みです」という発表です。この発表は明白に「ウソ」と断言できるものではありませんが、「複数の疑問点が考えられる」というのがイギリスのエネルギー市場のコンサルタント会社Energy Aspectsの上級アナリストであるリチャード・マリンソンさんの指摘です。
By GLady
今回の石油精製プラント爆撃を実行したと自らと主張しているイエメンの武装組織「フーシ派」やイランの工作員などの複数の情報筋によると、一連の爆撃によって、サウジアラビアの石油生産量は1日あたり570万バレル低下したとのこと。この量は、アメリカに次ぐ世界第2位の石油生産大国であるサウジアラビアの原油産出量の半分以上に相当するとみられています。それゆえ、「爆撃後も全て順調」だとするサウジアラビアの公式発表には疑問が持たれているわけです。
今回の爆撃事件の約1週間前にサウジアラビアのエネルギー大臣に就任したアブドルアジズ・ビン・サルマン王子は、「2019年9月末までに石油の生産力を1日あたり1100万バレルにまで回復させ、2019年11月中には1日あたり1200万バレルの生産力という『完全回復』を予定している」と発表。しかし、この発表にも「ウソ」が隠されているとマリンソンさんは指摘します。
By master1305
その指摘とは、サウジアラビアの発表した表現の単語選択です。マリンソンさんによると、サウジアラビアは公式発表において、「生産力」と「市場への供給量」という「実供給量」とは異なる意味合いの単語を巧みに使い分ける傾向があるとのこと。サウジアラビアは何十年もの間、「1日当たり200万バレルから250万バレルの『生産余力』がある」と発表していました。平均的な「実供給量」は1日当たり1000万バレルなので、この生産余力と足し合わせると「生産力」は1日当たり1200万バレルから1250万バレルだといえます。しかし、これまでに記録された最高の生産量でも1日当たり1100万バレルをわずかに上回るほどで、サウジアラビアの主張と現実にはギャップが存在しています。
さらに、「生産余力」の定義についても疑問点が存在します。アメリカ合衆国エネルギー省(EIA)は、生産余力を「30日以内に流通可能で、少なくとも90日間以上維持できる生産量」として定義しています。一方、サウジアラビアは「新しい石油生産施設を稼働させるには最低でも90日はかかる」と述べており、サウジアラビアとアメリカでは定義に食い違いがあるわけです。こういった情報から、石油市場の関係者はサウジアラビアの生産余力は1日当たり50万バレルから100万バレルだと考えていますが、実態を把握することが困難であるため、サウジアラビアの「石油生産量はすぐに元通りになる」という主張に対する反証も不可能です。
By zambezi
爆撃事件による石油生産量低下を受け、サウジアラビアは輸出量を維持するために国内向けの原油流通量を制限するとみられています。また、世界最大の保有原油埋蔵量・原油生産量・原油輸出量を誇るサウジアラビアの国有石油会社サウジアラムコが公式に否定していますが、イラクのエネルギー省などの複数の情報源から裏付けがとれている話として、「イラクの石油をサウジアラビア産だと偽って出荷する」という手段をとる可能性があるとのこと。
また、OilPrice.comは「かつてイランがアメリカの制裁を回避していた手段同様に、サウジアラビアも『イラク産石油』だと偽る可能性すらある」と述べており、今回のドローン爆撃の黒幕であると疑われているイランと同様の手法を採らざるをえないサウジアラビアに対する「最高の皮肉」だと表現しています。
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