IBMが自社製CPU「PowerPC」のアーキテクチャをオープンソース化した背景とは?
by Open Grid Scheduler / Grid Engine
IBMがPowerPCの命令セットアーキテクチャ「Powerアーキテクチャ」をLinux Foundationに開放してオープンソースにしました。ハードウェア関係のニュースメディアElectronic Engineering Journalは「これは良いニュースであり、悪いニュースでもあります」と報じています。
OpenPOWER Foundation | The Next Step in the OpenPOWER Foundation Journey
https://openpowerfoundation.org/the-next-step-in-the-openpower-foundation-journey/
IBM Gives Away PowerPC; Goes Open Source – EEJournal
https://www.eejournal.com/article/ibm-gives-away-powerpc-goes-open-source/
PowerPCは1991年にApple・IBM・モトローラが共同で開発したRISCタイプのマイクロプロセッサです。Powerアーキテクチャは主要な家庭用ゲームハードで採用されただけでなく、2019年6月の「世界のスーパーコンピューターの性能ランキングトップ500」中13台がPowerアーキテクチャによって稼働しています。
Electronic Engineering Journalが報じるPowerアーキテクチャのオープンソース化の良い面は、「無料化」です。今後Powerアーキテクチャは技術の発展や商業的な活動を促進することを目的として、オープンソースなプロジェクトを推進する非営利団体であるLinux Foundationに取り扱われることとなり、いかなる会社も無料でPowerPCアーキテクチャを商用利用できます。
by henriok
一方で、Electronic Engineering Journalが指摘する悪い面は、Powerアーキテクチャがオープンソースとして公開されるまでの過程です。ソニーのPlayStation 3、任天堂のGameCube・Wii・Wii U、MicrosoftのXbox 360などの家庭用ゲームハードは全てPowerPC系のアーキテクチャを採用し、かつて世界のスーパーコンピューターの性能ランキングトップ500のうち約200台がPowerPCプロセッサを搭載していたそうです。
しかし、PowerPCはコンピューターチップとしては成功しませんでした。その理由にElectronic Engineering Journalは「IBMの提示したライセンス料が高額だった」ことを挙げています。PowerアーキテクチャはライバルのMIPSアーキテクチャやARMアーキテクチャよりもはるかに高額で、その性能はIntelの提供するx86プロセッサとほぼ同等でした。2006年には開発に携わったはずのApple自身がPowerアーキテクチャに見切りをつけ、Intel系のアーキテクチャに完全移行。PowerPC向けチップセットの開発部署もなくなったそうです。
by Tom Carmony
Electronic Engineering Journalは今回のオープンソース化を「ロックフェラーかロスチャイルドが路上で物乞いを行っているのを見るかのよう」と評しています。しかし、Electronic Engineering Journalは「オープンソース化はPowerPCにとって好機です」と語っています。
その理由とは、Powerアーキテクチャは一線を退いたアーキテクチャですが、数百万ドルかかっていたライセンス料がオープンソース化によって無料になることで、SoC開発者の中で再び注目を集めることが予想されるから。Electronic Engineering Journalは「上手く注目が集まれば、PowerPCは同じくオープンソースアーキテクチャであるRISC-Vに取って代わることができる」と考えています。
Powerアーキテクチャ製品の開発コミュニティOpenPOWER Foundationの執行取締役を務めるヒュー・ブレミングス氏は今回のオープンソース化を発表する声明の冒頭で「Powerアーキテクチャの未来はこれまでにないほど明るくなりました」と肯定的な意見を述べ、「開かれた開発環境でPowerPCの開発は加速するでしょう」と述べています。
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