50年かけて国から島を購入する交渉の裏側とは？

By Kevin Wolf

トランプ大統領が「デンマークからグリーンランドを買う」という壮大な計画を発表し、「政権内で具体的な構想まで練っている」と発言して話題となっています。「島を買う」といわれると「果たしてそんなことが可能なのか？！」と考えてしまいますが、アメリカは1917年にデンマークからヴァージン諸島の3島を購入したことがあります。しかし、その交渉には50年もかかっています。

The U.S. Bought 3 Virgin Islands from Denmark. The Deal Took 50 Years - HISTORY
https://www.history.com/news/us-virgin-islands-denmark-purchase

ヴァージン諸島は、7000もの島々を含む西インド諸島の一部です。西インド諸島を発見したヨーロッパ人はクリストファー・コロンブスだといわれており、コロンブスはヴァージン諸島のセント・クロイ島、セント・ジョン島、セント・トーマス島に到達して、6人のアラワク族を捕獲したことが記録に残っています。

デンマークは18世紀にセント・クロイ島、セント・ジョン島、セント・トーマス島の3島の所有権を得て植民地化し、ラム酒や砂糖などのプランテーションを設立、アフリカ人奴隷を強制労働させていました。

By Farhan Azam

1848年7月、セント・クロイ島で数百人の奴隷が反乱を起こして自由を勝ち取ります。3島での奴隷制が廃止された結果、ヴァージン諸島の運営費はかさみ、デンマークにとって頭痛の種となりました。

ここで登場したのがアメリカです。19世紀後半、アメリカは2つの理由からヴァージン諸島の買収に目をつけてました。1つ目の理由が経済的な利益。もう1つが防衛上の問題です。当時、ドイツがラテンアメリカに関心を強めているという疑惑が存在しており、アメリカとしては国土防衛上の懸念から、ヴァージン諸島をドイツに支配されることは避けたかったわけです。


アメリカがデンマークとの交渉に乗り出したのは南北戦争が終結した1865年のこと。アメリカのヘンリー・スワード国務長官はデンマークから3島を購入する合意を得たそうですが、アメリカ上院がこれを否決。その背景には、内戦後に生じた国土拡張反対論の高まりと、スワードが弾劾裁判中のアンドリュー・ジョンソン大統領の支持を表明したことに対する上院の反発があったとアメリカ合衆国国務省は分析しています。

Purchase of the United States Virgin Islands, 1917

1890年にアメリカとデンマークの交渉が再開されたものの、1898年から始まった米西戦争によってまたしても交渉が中断。1902年にアメリカのジョン・ヘイ国務長官が交渉するも、今度はデンマーク議会が拒絶します。

デンマーク議会が交渉を斥けた理由とは、島の過半数を占めるヴァージン諸島の黒人が黒人差別の根強かったアメリカに編入されてしまうことを懸念したためだそうです。しかし1915年、ドイツがデンマーク自体を併合するという恐れが生じたため、ロバート・ランシング国務長官が「もし3島を売らないのなら、ドイツに奪われる前に我々が3島を奪ってやる」というほとんど脅迫まがいの交渉を行ったため、3島を金銭で売買する契約が成立。1917年1月16日にウッドロウ・ウィルソン大統領が条約に署名を行い、1917年3月31日、デンマークは2500万ドル(当時のレートで約4900万円)でアメリカにセント・クロイ島、セント・ジョン島、セント・トーマス島を売却しました。この合意に至るまで、交渉が始まった1865年から約50年以上が経過していました。

By Rawpixel

今日ではセント・クロイ島、セント・ジョン島、セント・トーマス島はアメリカ領ヴァージン諸島として知られており、3島合わせて10万人以上の人が住んでいます。アメリカ領ヴァージン諸島の島民はアメリカ合衆国の市民権が与えられ、アメリカ本土に自由に渡航が可能です。しかし、2019年においてもアメリカ領ヴァージン諸島に住まう人々には大統領および連邦議会議員への選挙権が認められておらず、投票に参加することができません。