取材

世界に通用する花火エンターテインメントを目指す花火クリエイターに密着、花火の打ち上げ準備に同行してみた


夜空を彩る美しい花火ですが、どのような花火をどう打ち上げて観客を楽しませるか、どのような面白い展開を見せてくれかという演出も花火大会の見どころの1つです。その演出方法として、複数の花火会社の協力を得て1つの花火プログラムを構成する花火大会が増えてきました。このような花火大会のコーディネーターでもあり、演出を得意とする花火師に密着。花火大会の準備作業も見ることができたので、作業風景と合わせてレポートします。

取材した場所は、2019年8月3日に行われた『巨大な火の柱を回転させる火祭りと豪快な花火が目の前で楽しめる「スーパー大火勢」を見てきました』の花火大会です。


この花火大会は、坂城煙火が打ち上げの演出・プログラムおよび打ち上げ現場の指揮を担当します。打ち上げ現場には、株式会社國友銃砲火薬店高木煙火株式会社が協力会社として参加しており、各社の特徴を生かした演出を見ることができました。

演出および現場の指揮を担当する坂城煙火代表の中嶌結希(なかしま ゆうき)氏は、学生の頃から花火の打ち上げに関わり長年に渡る豊富な経験と技術の知識を持つクリエイターです。花火会社とのネットワークも幅広く、京都芸術花火名港水上芸術花火など全国各地で行われている芸術花火シリーズやその他の花火大会のコーディネーターおよび演出サポートとしても活躍しています。


イベント前日から準備が始まります。2019年8月2日7時30分、作業現場となる台船はまだ何も機材が載っていない状態です。中嶌氏が台船に上がって何か準備をしていました。


まずは、打ち上げ花火の筒をどこに配置するか目安となる印を付けていきます。


ロープを使って等間隔に印を貼っていきます。


高木煙火の作業チームが到着し、台船に機材を載せる作業が始まりました。大型の機材はクレーンを使って台船に載せます。


印で決められた場所に、機材が次々と置かれていきました。


台船は打ち上げ当日に沖へ移動させて固定するのですが、中嶌氏から「台船の設置場所の下見に行きましょう」と誘われたので、船で沖へ向かいます。


おおよその目印は既に用意されていました。台船を固定する場所と観覧席までの距離が定められている基準よりも近ければ法令違反となり、遠すぎると花火の迫力が欠けてしまうため、1メートル単位で正確な距離を測り、実際に台船を固定する場所の位置を確認しておきます。


10時頃、台船に戻ると國友銃砲火薬店の作業チームも到着しており、打ち上げ用の筒に花火玉を入れる作業が行われていました。


この日は快晴で台船の気温は朝から夕方まで常に32度でした。飲料水や塩気のある食べ物など熱中症予防のアイテムは必須です。普段から作業している人にこの日の作業場の状況を聞いたところ「気温は高いけど風が吹いているのでまだ作業しやすいほう」とのことでした。


この花火大会では、直径約30cmの尺玉と呼ばれる大きな花火も打ち上がります。導火線がついた花火玉を、付属する縄を使って丁寧に入れていきます。


2019年時点において、ほとんどの花火は電気信号で着火し打ち上がります。筒に花火玉を入れた後は、導火線と信号用のケーブルをつなぎます。


仕込みが終わると、筒は厚紙でふたされた後、さらに上からブルーシートがかぶせられました。海上では、雨だけではなく、波しぶきも避ける必要があります。


台船では、斜め打ちに使う特殊な木製の台に花火の筒をセットするなど、手際よく作業が進んでいました。


12時頃、所定の場所に配置された花火の筒たち。この台船では、主に小型の花火がセットされた状態となっています。


お弁当が支給され、休憩となりました。


午後からは、もう1台別の台船が係留してある港へ移動し作業します。


この台船は、大きな花火玉を打ち上げるので機材もすべて大きなものとなります。次々とクレーンで筒が運び込まれました。


こちらの台船でも打ち上げ用の筒に花火玉を仕込んでいきます。


仕込みが終わるとふたをかぶせます。打ち上げ時には花火玉がこのふたを突き破って出てきます。


この作業は手伝うことも可能とのことで手伝い開始、筒にふたをかぶせていきます。


ふたをかぶせたら配線を傷つけないように気を付けながら固定するための輪ゴムを掛けます。この作業は、花火会社や筒の形状によって違います。


1セット分仕上がりました。ふたの取り付けを行っただけですが、この筒の花火が打ち上がるのが楽しみです。


筒を斜めに固定する作業をしています。とても重い機材ですが、クレーンを使っての微調整が難しいので複数の作業員が支えて少しずつ合わせていきます。


大きな花火玉の仕込みも始まりました。花火玉を指定された筒へ間違えないように入れていきます。


実際の花火玉は丸い本体だけではなくいろいろな部品が付いています。上側の円筒形の部分は、発射した後に尾を引く昇り曲導と呼ばれる花火が仕込まれています。下側の部分には、打ち上げ用の火薬が入っています。この打ち上げ用の火薬が付いていない花火玉もあるので、その時は別途用意し一緒に筒に入れます。


それぞれの筒から発射信号を伝えるコードが出ています。そのコードを全てモジュールと呼ばれる装置につなぎます。


モジュールにコードをつなぎ箱に収め整理したところで、この日の準備作業はいったん終了です。筒にふたをし、ビニールシートをかぶせておきます。これから明日の作業開始の時間までは、警備員が台船を警備します。


18時、再び最初の台船に戻り、中嶌氏は花火を打ち上げるコントローラーに打ち上げプログラムのデータを送信。その後、イベント会場の機材と同期のチェックなど、細かな点検作業を行いこの日の作業は終了です。


翌日の朝7時、再び台船にやってきました。


昨日の時点でほとんどの筒の配置や玉の仕込みは終わっており、残りはコードをつなげる作業となります。


作業開始早々、台船が動き始めました。打ち上げ場所に向けて出港です。


スーパー大火勢の会場を通過、海側から会場を眺めることができました。


正確な位置に固定するため測定は念入りに行います。何度か修正をして台船が固定されました。


配線が終わったら花火を打ち上げるコントローラーに接続して、正しくコードがつながっているかテストを行います。


もう1台の大玉用の打ち上げを担当する台船が近くにやってきたので、移動します。


大玉用の台船は、小型の花火の台船よりも会場から遠い位置に固定されました。


打ち上げ用の台船が固定されたところで、作業員を集めてミーティングを行います。その後、中嶌氏はプログラムの調整・テストなど本番に向けての最終チェックを行っていました。今回はスーパー大火勢の取材も兼ねているため、準備作業の見学はここまでです。


実際に本番で花火がどのように打ち上がったのか、以下のムービーで見ることができます。

音楽を使わず豪快な花火の打ち上げで観客を魅了するフィナーレシーン【スーパー大火勢2019】 - YouTube


國友銃砲火薬店と高木煙火の特徴を生かした演出で、会場からは歓声や拍手も沸き起こり盛り上がっていました。


花火大会終了後、再び中嶌氏と合流し片付けの作業へ。船に乗り沖へ向かいます。


スーパー大火勢の最中に上がった尺玉は、左側が台船から、右側はいかだに仕込んだ筒から打ち上がったものでした。その小さないかだにも万が一のため作業員が待機しているので、迎えに行きます。


真っ暗な中、小さないかだを探すのも大変です。


花火の打ち上げ直後の台船にも上がってみます。打ち上がった花火の殻や筒のふたなどが散乱し、焦げた臭いも残っていました。


電気関係の機材の一部は、すぐに回収され持ち帰られます。


作業が終わり陸へ戻ってきたのは22時でした。この日の作業は、これで終了です。


花火大会翌日、片付けの作業があります。えい航された台船が打ち上げ場所から港へ戻ってきました。


片付けでもクレーンが活躍、次々と筒が運び出されます。


機材の片付けが終わるときれいに掃除をして、一連の作業は完了となりました。


作業をしている作業員の人たちは皆「花火を見てくれる観客の反応が楽しみ」という人たちばかりで、一連の作業はしんどいというよりも皆笑顔で楽しみながら作業しているようでした。実際、自身が手伝いをした機材の花火が打ち上がるまでは「もし、自分が作業した部分で不具合が出たらどうしよう」と緊張していましたが、無事終わると「これだけ多くの観客が驚き拍手をしているコンテンツの一部に関われた」という喜びが快感となりました。天候にも恵まれ余裕のあるスケジュールで作業が進みましたが、当日1日だけで用意をしないといけない日程だったり天候が荒れることがあったりと、条件が悪ければはかなり切迫した作業にもなる現場です。

◆1社では実現できない新しい形の花火大会が実現可能
今回の花火大会は坂城煙火中嶌氏が現場の指揮およびプログラムを担当ということで、中嶌氏に坂城煙火の役割や花火大会のフィナーレが音楽無しの演出だったことなど、いくつか質問をしてみました。

GIGAZINE(以下、G):
今回、複数の煙火店と協力して花火を打ち上げる形で花火が提供されましたが、複数の煙火店と協力して花火を打ち上げるメリットはどんなものがありますか?

坂城煙火代表 中嶌結希(以下、中嶌):
花火会社と言っても千差万別で、奇抜な資材を駆使して斬新な打上を得意とする会社や、製造技術が高く芸術性の高い花火を作る会社、はたまた海外とのネットワークが強く輸入に特化し低価格の花火を提供できる会社などさまざまです。小中規模の花火大会では、地元の花火会社1社が担当することが多く、演出や運営の面で限界がありましたが、それぞれの会社の得意な所を持ち寄ることで、1社では実現できない新しい形の花火大会が実現可能となります。

G:
國友銃砲火薬店と高木煙火、2社の特徴を組み合わた演出を作成し、実際に上がった花火を見てどうでしたか?

中嶌:
今回の2社は共に大火勢の現場を経験されている会社でした。現場の施工は「現場を良く知る花火屋さんにお任せするのが一番いい」と考えていて、2社共に「安全で効率的な現場運営をして頂けた」と思っています。ただ、全てが上手く行ったという訳ではなく、普段はそれぞれ独自の現場運営のスタイルがあるので、それぞれのノウハウを把握したうえでの段取りというのは非常に気を使いましたし、課題も多く見えてきました。2社の能力をうまく生かした上で、更に弊社で全国から良質な花火を集めて質の高い花火大会を作り上げていく手ごたえを感じています。


G:
フィナーレ花火に音楽が付いていないことに関して、花火師としての感想はありますか?

中嶌:
スーパー大火勢の花火はフィナーレを音楽無しでとにかく派手な演出を行うことを1つの売りにしています。2019年の花火の企画の際には、この音無しのシーンの花火も音楽花火の中に組み込んではどうかという提案はさせて頂いたのですが、やはり恒例の名物である音無しの怒涛打ちを行いたいという要望により従来の形に落ち着きました。僕自身、この音無しのシーンこそがスーパー大火勢らしさだと思っていますので、このシーンでもただ闇雲に沢山打つのではなく、演出のエッセンスを随所に仕込んだ打ち上げを行いました。


G:
その他、坂城煙火として何かメッセージがありますか?

中嶌:
今回の花火大会や芸術花火シリーズなど、複数社のコラボレーションによる花火大会は今後のトレンドとして確実に伸びていく分野の1つだと思っています。世界的に見ても製造技術では群を抜いている日本の花火ですが、演出の面から見るとまだまだ海外の花火ショーに劣っている点もあります。1つの花火会社が製造から演出までを行う今までのスタイルではどうしてもリソースに限界があり、演出の幅にも限界がありました。日本中のレベルの高い作り手の協力を得ながら、それぞれの施工技術・演出技術を駆使し、海外の製品も効率よく取り入れていくことで、世界に通用する花火エンターテインメントを目指しています。花火産業の更なる発展の為に、坂城煙火として世界へ向けて日本の花火の素晴らしさを発信していきたいと思っています。

G:
今回は貴重な体験、およびお話を聞かせて頂き有り難うございました。

片付けに向かう途中に寄ったコンビニエンスストアで、会計中に店員さんから「昨日の花火、すごかったねぇ」と話題にされるほど、花火大会は地元の人たちとって誇りにもなる重要なイベントです。質の高い演出を見せる方法の1つとして、花火会社のコラボレーションという形もあるということがわかりました。

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in 取材,   インタビュー,   動画, Posted by darkhorse_logmk

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