ポケモンカードのイラストに隠された物語性やインスピレーションについて公式イラストレーターが語る
1996年にスタートした日本初のトレーディングカードゲーム「ポケモンカードゲーム」で、初期シリーズから公式イラストレーターとして参加しているアーティストの有田満弘さんが、海外ゲームメディアのGameSpot上で自身の創作活動やポケモンカードのイラスト上に隠された物語などについて語っています。
The Hidden Stories And Inspiration Behind Pokemon Cards - GameSpot
https://www.gamespot.com/articles/the-hidden-stories-and-inspiration-behind-pokemon-/1100-6468906/
幼少期に遊んだゲームやおもちゃの中で1番思い出深いものを選ぶとなると、多くの人が頭を悩ませるはず。GameSpotのウィル・ポッターさんは、悩んだ結果「ポケモンカードゲーム」を選び、「最初のブースターパック、最高のホログラフィックカード、そしていつも後悔していたカード交換の記憶がよみがえる」と記しています。ポッターさんが幼少期にドはまりしたポケモンカードゲームは、シリーズ最初の作品である「ポケットモンスター 赤・緑」と同じ1996年にスタートしたため、記事作成時点で既に20年以上の歴史を持っています。過去20余年で複数の拡張パックが発売され、何千枚ものカードがリリースされており、中には650万円以上の価値があるポケモンカードも存在しておりコレクションとしてカードを収集する人もいるほどです。
そんなポケモンカードゲームを1999年から遊び続けてきたというポッターさんが、ポケモンカードゲームの公式イラストレーターとして美麗なイラストを提供し続けてきた有田満弘さんに対して、イラストのインスピレーションの源などをインタビューしています。
有田さんがこれまで担当してきたポケモンカードのイラストは600種類以上。そのため、ポケモンカードゲームで遊んだことがある人ならば「有田さんのイラストを見たことがある可能性は非常に高い」とのこと。初期のリザードンから最新のタッグカードに至るまで、有田さんのイラストはあらゆるシリーズで見られるとのこと。
ポケットモンスターはこれまで数々のシリーズが登場しており、最新作の「ポケットモンスター ソード・シールド」が2019年11月に登場予定となっています。シリーズ最新作が発表されて、最初に登場するのはゲームフリークの杉森建さんによる公式イラストです。対して、ポケモンカードゲームの制作を行うのはクリーチャーズであり、両社間でのコラボレーションはほとんどありません。しかし、有田さんは杉森さんを含むポケモン関連のアーティストとのコラボレーションを楽しんでみたいと語ったそうです。
【公式】ポケモンカードゲームCM(広瀬すず出演Sound of battle篇) - YouTube
さらに、有田さんにとってのインスピレーションの源について質問したところ、「現実世界を見ることは、実はとても良いことです。イラストはアーティストの世界観や創造性が必然的に反映されてしまうので、他人のイラストを見て自分自身の自由な考え方や思考を刺激することはあまりいいことではありません」という回答が返ってきたそうです。有田さんは同業者の作品からインスピレーションを受けるのではなく、全く異分野の現実世界のものからインスピレーションを受けるそうで、BBCのネイチャードキュメンタリーシリーズや、映画をたくさん観るようにしているとのこと。
その結果、有田さんの描くポケモンは現実世界を生きる生物のようなリアルさをはらんでいるのでは、とポッターさんは記しています。また、ポッターさんは有田さんがTwitter上でヨーロッパの博物館で多くのスケッチを描いていたことも挙げています。
Sketch at 1/4 @britishmuseum pic.twitter.com/jqMTAvrno8
— 有田 満弘 7/5 リミックスバウト (@MitsuhiroArita) 2019年7月22日
ポケットモンスターシリーズの最新作となる「ポケットモンスター ソード・シールド」は、イギリスをベースにした「ガラル地方」が舞台となります。そのため、有田さんのヨーロッパでのスケッチの数々が将来的に登場するであろうポケットモンスター ソード・シールドのポケモンカードに影響を与えるのではないかとポッターさんは考えたそう。これについて有田さんは、「欧州諸国の環境と建築に関する知識、特に建築の規模感から多くのインスピレーションを受けています」と語ってくれたそうです。今後リリースされる可能性のあるポケットモンスター ソード・シールド版のポケモンカードゲームの詳細については明かされなかったそうですが、「有田さんのヨーロッパ旅行が今後のポケモンカードゲームのイラストに何らかの影響を与えることは明らか」とポッターさんは記しています。
有田さんは最近リリースされたポケモンカードゲームの拡張パック「タッグボルト」「ダブルブレイズ」「ミラクルツイン」で実装された、「ピカチュウ&ゼクロムGX」「レシラム&リザードンGX」「ミュウツー&ミュウGX」のイラストを担当しています。なお、イラストレーター側はあくまでもペアとなるポケモンを指定されるだけで、どのポケモンにタッグを組ませるかの発言権は持っていないとのこと。
有田さんは「最優先事項はクリーチャーズのゲームデザイナーからの要望で、彼らは実際のカードゲームの中でポケモンたちがどのように機能するかについて考えています」と説明。なお、有田さんは、株式会社ポケモンが各ポケモンの人気度合いなどから「どのポケモンにタッグを組ませるか」について何らかの影響を与えている可能性があると語っています。
これについてポッターさんは、「ヤドンとコダックのタッグチームは、実際のプレイで使えるかどうかは別として、私の考えとしてはこれまでで最高のポケモンカードです」と語り、こういったカードの組み合わせからも株式会社ポケモンからのタッグチームに関する意見は少なからず存在するのではと予測しています。
拡張パック「ミラクルツイン」の「ミュウツー&ミュウGX」について、有田さんは「このカードの裏には物語があります」と語りました。ポッターさんは、「鋭い目を持った人ならすでに気づいているかもしれませんが」と前置きし、有田さんがイラストを担当した拡張パック「ひかる伝説」のシークレットレアカード「ミュウツーGX」の続きとして、ミュウが実験室で囚われの身となっていたミュウツーを助けて「ミュウツー&ミュウGX」のイラストになったと推測できる、と指摘。なお、有田さんがイラストを担当したミュウツーのカードに隠された物語は、クリーチャーズに依頼されて盛り込んだものではなく、有田さんのインスピレーションによって生まれたものだそうです。
有田さんがポケモンカードのイラストに隠れたテーマや物語を盛り込んだのは、ミュウツーのカードが唯一の例ではありません。有田さんが15年以上前にイラストを担当した、「アクアポリス」セットに収録されていた「ブラッキー」のカードでは、ブラッキーは独特な見た目の時計塔の向かい側の建物の屋根の上にいるそうです。対して、スターターセット TAG TEAM GX「ブラッキー&ダークライGX」ではブラッキーとダークライが15年前のイラストにあった時計塔らしき場所にたたずんでいます。有田さんは「ファンはカードのイラストに隠された物語に夢中になり、独自の物語を頭の中で膨らませます。これがユーザー参加型のカードイラストをデザインする手法です」とコメント。
なお、タッグチームカードのイラストを作成する際に難しいのは、カード上に多くのテキスト情報が含まれれる点だそうです。有田さんは拡張パック「フルメタルウォール」で描いた「ルカリオ&メルメタルGX」を例に挙げて、「誰もがルカリオを知っており、ルカリオがどんな風に見えるか知っています。そのため、ルカリオの全体像を示す必要はありません。対して、メルメタルは巨大でカードの中に収めるのは難しいものの、新しいポケモンであるためできる限りみせる必要があると考えました。そうでなければ、『ここに描かれたポケモンは何?』となってしまっていたでしょう」と語り、ポケモンの認知度なども考慮してイラストの構図などを考えていることを明かしています。
有田さんの最新イラストに魅了されたというポッターさんですが、どうしても初期に登場したピカチュウのカードについて質問せずにはいられなかったそうです。最近のピカチュウはかなりスリムでスマートな見た目になっていますが、ポケットモンスターの発売当初は今よりも「ぽっちゃり」した見た目でした。
今のスマートなピカチュウと昔のぽっちゃりピカチュウのどちらが好みか聞かれた有田さんは、「私は丸いピカチュウが好きです」とコメント。ただし、デジタルで絵を描く際に、ピカチュウの完璧な丸みを再現するのは非常に難しいと説明し、逆に昔の「ソフトタッチな」ピカチュウを再現するのは簡単だと明かしてくれました。
また、有田さんの描くピカチュウが遊び心のある幸せそうなイラストが多いと感じたポッターさんが質問したところ、「ピカチュウに限ったことではありませんが、一般的にポケモンは暗かったりネガティブだったり、落ち込んでいたりしないように感じます。ポケモンは幸せで楽しいものです。それをカードで表現しています」という答えが返ってきたそうです。
ポッターさんは「新しい拡張パックがリリースされるたびに、各カードの2.5インチ×3.5インチ(約6.4cm×8.9cm)に愛情込めて描かれた芸術作品に、隠された物語がないか確かめてみてください」と語っています。
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