気候変動に動物たちは適応できているのか？

by Katja Just

兵庫県立大学の土居秀幸准教授を含む60人以上もの科学者が名を連ねた最近の論文により、動物は生態や習性を変化させることで気候変動に適応しつつあるものの、環境が変化していく速度には追いつけていないということが明らかになりました。

Adaptive responses of animals to climate change are most likely insufficient | Nature Communications
https://www.nature.com/articles/s41467-019-10924-4

Many Animals Can’t Adapt to Climate Change Fast Enough | WIRED
https://www.wired.com/story/many-animals-arent-adapting-fast-enough-to-survive-climate-change/

Birds Are Adapting to Climate Change, But Maybe Not Fast Enough | Sierra Club
https://www.sierraclub.org/sierra/birds-are-adapting-climate-change-maybe-not-fast-enough

植物の開花や渡り鳥の移動など、一部の動物は季節の変化に伴い体の構造や行動を変えることがあり、こうした特性は生物季節あるいはフェノロジーと呼ばれています。

ライプニッツ動物園野生生物調査研究所に勤めるViktoriia Radchuk氏らの研究グループは、既存の論文1万90件の要旨と、58本の出版物に掲載された71件の研究データをメタ解析し、特に生物季節に関する研究データが豊富な鳥類に重点を置いて、気候変動に対して動物がどのように適応しているかを定量的に評価しました。その後、気候の変化に適応している動物たちの寿命や生息数のデータとの関連を調べました。

by A_Different_Perspective

その結果、一部の鳥類は気温の変化、つまり地球温暖化に対して生物季節を変化させることで順応していました。具体的には、産卵や営巣の時期を前倒しするといった方法を取っていたとのこと。しかし、ウタスズメやウミガラス、ユーラシア地域のカササギなどは、こうした適応の速度が長期的に個体数を維持できるほど速くないため、将来的には種の存続が危ぶまれることも分かりました。

今回研究の対象となった17種の鳥類の大半は、比較的短命で世代交代が速い種で占められていました。世代交代が速いということは、それだけ有利な性質を次世代に継承させるサイクルも速く、環境の変化に適応しやすいということを意味しています。また、鳥類自体が陸生生物に比べて生息域やライフサイクルを柔軟に変化させやすい種であり、気候変動に強い生き物です。従って、陸生生物や繁殖が遅い生き物は、鳥類よりもさらに気候変動に弱いといえます。

by Yuri_B

また、研究グループは生物が気温の上昇に合わせて小型化するのではないかという仮説に基づき、鳥類の体長や尾の長さのデータを検証しました。この仮説は、体が小さいほど体積に対する表面積が増加し、効率的に熱を放散することが可能になるため、気温上昇への耐性が増すという考えに立脚しています。しかし、データからは特に体の大きさが変わっているという結果は得られませんでした。

カリフォルニア大学バークレー校の保全生態学教授で共著者のスティーブン・ベイシンガー氏は「今回の研究結果のポジティブな側面としては、一部の動物には気候の変動に対する柔軟性が備わっていることが判明したという点が挙げられます。このことは、気候変動に十分な早さで対応することができれば、生物は温暖化しつつある地域にも生息し続けられるということを示唆しています」と述べました。

一方で、同じく共著者のAlexandre Courtiol氏は「環境の変化にいち早く適応した鳥類でさえ、激化しつつある気候変動に追いつけていません」と指摘し、大半の動物たちは人間がもたらした地球温暖化に適応できないだろうとの見解を示しました。