映画「プロメア」を制作したTRIGGERの大塚雅彦社長にインタビュー、クリエイターがお互い刺激し合って高まった末に作品が完成する
「天元突破グレンラガン」「キルラキル」とアツい作品を生み出してきた今石洋之&中島かずきの高シンクロ率コンビによる、完全オリジナル新作アニメーション映画「プロメア」が2019年5月24日(金)から絶賛公開中です。予告編でも、今石&中島コンビらしい外連味あふれる台詞回し&映像が出ていますが、これだけのものを生み出す株式会社TRIGGER(トリガー)の社長である大塚雅彦さんとはどういった人物なのか、「プロメア」の実制作にも携わったということなので、作品のことも含めていろいろと話をうかがってきました。
映画『プロメア』公式サイト 5/24(金)全国ロードショー
https://promare-movie.com/
GIGAZINE(以下、G):
2019年2月に掲載した今石監督へのインタビューの中で「うちの社長の大塚にも絵コンテのまとめをしてもらったりしています」というお話が出たのですが、大塚さんは「プロメア」ではどういった役回りを担当しておられるのですか?
大塚雅彦さん(以下、大塚):
当初はあまり参加していなくて、脚本の打ち合わせには出ていたんですが「あとはよろしく~」と他作品に携わっていました。ところが、絵コンテがやや遅れているということでヘルプに入り、そこから引きずり込まれたという感じです。
G:
今石・中島コンビの映画としては「天元突破グレンラガン」、TRIGGERの手がけた映画としては「リトルウィッチアカデミア 魔法仕掛けのパレード」がありますが、「プロメア」で過去の作品と比べて異なる取り組み方をした部分というのはありますか?
大塚:
今石・中島コンビはこれまでに何作品も手がけていますが、映画の尺の長さが2時間ということで、そこに「らしさ」をいかに凝縮するか、脚本面というよりは監督の演出プランのところでいろいろと考えていたのではないかという印象です。
G:
今回の映画をこのスケジュールでやろうというのはどの段階で決まったのですか?
大塚:
企画自体は、今石・中島コンビの前作「キルラキル」が終わった時点で「次は劇場で」みたいなことを言っていたところから始まっています。ただ、作り方というのは予算規模によっても変わってくるので、お金を出していただけるところを探しつつ、どのぐらいの規模でやるかというのを考えていました。ただ、並行して他の監督のTVシリーズもやらなければというのが見えていたので、作画の分量を抑えるためにサンジゲンさんのCGで本編をやれないだろうかという所からスタートしました。でも最終的には作画の方が多くなりましたけど。
G:
「2時間」という長さはどのように決まったのですか?
大塚:
現場的には短い方が嬉しいですよね(笑) 2時間、3時間と尺が長くなるとそれだけ予算もスタッフのリソースも必要になりますから、それは厳しいです。ところが、劇団☆新感線の舞台は3時間とかあるので、その調子で作られると……。
G:
放っておいたらまずいな、と(笑)
大塚:
それに、今石作品ってアップテンポでTV1本見ても疲れるのに、それが2時間以上あるときついだろうというのも考えました。娯楽映画でもあるし、100分あれば満足できるだろう、2時間超はキツいよと、そういう点を共有しました。
G:
なるほど、体感的なところを考えてのことだったんですね。大塚さんは会社の社長でもあるので、その部分についてもお話をうかがいたいのですが、アニメ化までこぎつける企画と届かない企画というのがあると思います。「いける、いけない」というのは、どのように振り分けるのですか?
大塚:
僕の方では振り分けてはいなくて、基本的に監督がいけると思うかどうかだと思います。監督が「これならいける」と確信を持っているのであれば、こちらから口を出すことは基本ないです。ただ、監督が迷うとスタッフも迷うことになるので、監督が「いける」と掴んでいるかどうかを気にしています。
G:
掴んでいるかどうかは話をして探っていくのですか?それとも、本人がそのように言ってくるのですか?
大塚:
だいたい監督は断言しますね。言わないまでも、振る舞いで分かります。いけると思っているときは「口を出すな」オーラが出ているので、「ああ、言わなくてもいいや」と(笑)
G:
今回の「プロメア」はその点ではどうでしたか?
大塚:
もともと、そんなに心配はしていませんでした。実績があるし、コンビとしても何本もやっているから、そこに今更迷いを与えてはいけないなと。完成するかどうか、制作の方の心配はありましたが、この期間があれば大丈夫だろうと。……意外と土壇場になってから「やっぱり手伝って」と話があって「ウソぉ!?」とは思いましたけど(笑)
G:
(笑) 企画の話でいうと、「キズナイーバー」のころにPASH!に岡田麿里さんと大塚さんの対談が掲載されていて、岡田さんから「ジャンルの制限なくみんなで企画を出し合って。大塚さんの案は、『特攻隊』でしたよね?」と話が振られています。大塚さんが持っていたこの企画はどういったものだったのですか?
大塚:
もう、真面目に「特攻隊」のお話です。
G:
比喩とかではなく、戦争の時の特攻隊のお話ですか?
大塚:
そうです。僕が戦争映画とかが好きだったからというのはあります。まだ「永遠の0」の映画などが公開される前で、別の企画をしていたときに、そのネタなら特攻隊を題材にしてもいいんじゃないかと案を出しました。そのときの企画ではこの話は進展しなかったのですが、いつかはそういうものもやれたらいいなと思っています。
G:
社長業ではやらなければならないことも多々あると思いますが、健康管理も大切です。なにか、健康維持のために気をつけてやっていることはありますか?
大塚:
倒れたら終わると思っているので、倒れないようにしています。若いときとは違うので、どれぐらい体力が回復しないものなのか自分でもわからないところがあり、探りながらやっています。ただ、踏ん張らなければいけないところでは体調が少々優れなくても「これは気のせいだ」とやり過ごして、次の日に多めに休むとかしています。だから、神経は使っていますが、特別に何かをしているということはないです。もうちょっと若くて責任がないときなら「倒れたら倒れた時だ!」というのはありましたが、そんなわけにはいかないので、倒れない範疇で探りつつ、ですね。
G:
「踏ん張らなければいけないとき」というのはいろいろあると思います。「プロメア」だと、やはり後半ほどきつくなっているのでしょうか?
大塚:
後半になると、みんなきつくても「最後だ!」って頑張るんです。ところが、そこに至るまでにエンジンがかからない人というのもいるので、僕は最初からエンジン全開にして突っ走りました。そうすると、後半は倒れることになりますが、そのころにはみんな、言わずとも頑張りますから。みんなが頑張りきれない最初に頑張ろうと。だから今はわりと力尽きています(笑)
G:
仕事でいろいろな予定が詰まると思います。その管理はどのようにしていますか?
大塚:
予定は各所からバラバラに入ってくるので、全部スケジュール管理ソフトに入れてくれと言っています。そこに入っていないものは知らないよと。入れられないスケジュールは、そもそも入りようがないものだし、もしスケジュールが重なっているなら当事者で調整してくれと言っています。こちらで調整し始めると終わらないので。
G:
なるほど……その管理自体は、秘書みたいな方にやってもらっているのですか?
大塚:
もう、完全にソフトだけです。最初は一覧を見て「明日、こういう予定が入っています」と言ってくれる人がいましたが、その人も自分の仕事が忙しくなってきて言ってくれなくなり「……だよね」と。
G:
(笑) 大塚社長は「公私」、つまりプライベートと仕事は分けていますか?それとも、混ぜていますか?
大塚:
プライベートは「ない」ですね。ない……。
G:
若いころからずっと仕事?
大塚:
そうでないと終わらなかったという感じです。なので、倒れちゃまずいというところではガス抜きをしていますが、そのガス抜きがプライベートかというと、仕事のために調整しているようなところがありますから……。特に、この半年は「勝負だ!頑張らないでどうするんだ」と思ったので、ずっと仕事でした。
G:
それだけバリバリやっていると、周りの人から心配されたりしませんか?
大塚:
そんなに親身になってくれる人はいないです。「大丈夫っすか?」とか、そういうレベルです。これは、みんなが若くて、年寄りのことが実感できていないからなので、「言ったところで通じないだろう」と諦めました。
G:
みんなが「大塚さんなら大丈夫だろう」と信頼しているから、とか……。
大塚:
いやー、違いますね。「みんな、50代になったら思い知るぞ」と思って見ています(笑)
G:
アニメーターの方が会社に加わることもあると思いますが、それは人事の部署での判断があったり、大塚社長が会ったりはするのですか?
大塚:
アニメーター、作品スタッフについては、ほとんど制作の判断です。やはり、対面して交渉したりすることになるのは制作なので「この人は会社の中でやって欲しい」と思ったとか、仕事のタイプとか、いろいろ含めての判断なので、そこには自分はあまり口を出していません。
G:
なるほど、作品ごとの制作さんの判断だと。TRIGGERの社長としては、普段はどういったことをしているのですか?
大塚:
僕はもともとが経営の畑の人間ではなく、演出だったので、会社を作って最初の5年は「会社をつぶさないこと」を目標としていました。なので「お金を取ってくる」「出ていくお金をできるだけ抑える」という2つでしたね。「こんなことやってたらお金がかかっちゃうでしょ!」と厳しく……やっていたのかな?(笑) そこは現場としても、守ってくれる部分と守ってくれない部分はあって、忙しくなってくると「わかっているけれど、それではできません」というところも出てくるので「でも、お金がなくなっちゃうから」と言いくるめたりして。この半年は「プロメア」に全力投球しないとまずいとなったのですが、ちょうどそのタイミングで副社長に宇佐が就任したので、そのあたりの仕事は任せて現場に専念し最優先で作業していました。
G:
社長としては客観的に作品を捉えることになると思います。「プロメア」の大変な部分はどのようなところでしょうか。
大塚:
ビジュアルだと思います。デザインの仕方にしても普通のアニメではしないようなことをしていて、完成した作品を見たとき、どこが作画か、どこがCGか、どこが美術かあまりわからないんじゃないかと思うんです。意識しないぐらい中身が面白ければもちろんそれでよいんですが、そのあたりの、「各部署を融合させて1つのルック、ビジュアルを作る」ということにかなり気を遣っているなと思います。それがあまりに大変なので、途中参加したときには「こんなことやるんだ!?」と面食らいました。
G:
「こんなの手間がかかりすぎるぞ」と?
大塚:
ですね。しかもシンプルなので、実際には手間がかかっているのに、お客さんには手がかかっているように見えない。大変なのに大変そうに見えないんで甲斐がない。
G:
実際には一番大変なことをしているのに。
大塚:
スタッフは「新しいことをやっている」というのがモチベーションになっているし、実際いいものが上がってきているので、それを今さら捨てるのももったいない。結局僕も「このまま頑張るしかねーな」と。
G:
そういった現場で、難しいかと思っていたらうまくいったという部分はどういったところでしょうか?
大塚:
これは、終わってみないと分からないですね(取材は4月実施)。今現在、見たことがないものができあがってきていて、まだ変化している途中なので、最終的にどうなるかはまだわからないんです。でも「こんなものが日本でも作れるんだ」というものにはなっていると思います。海外の作品に刺激を受けることがありますが、そういった作品に負けていないと思います。
G:
「プロメア」は最初から全世界展開も視野に入っていたのでしょうか。
大塚:
おかげさまで、海外のファンからも「TRIGGER」となんとなく認知されていて、イベントにも積極的に参加するようにしているので、みなさんの反応から「見られている」という意識はありました。だからといって海外向けに作っているというわけではなく、日本で頑張って作ったものを、海外の人も面白いと思ってもらえているのだと感じています。これが自分たちのやりたいことであり、それをみなさん認知してくれている、というところですね。
G:
「リトルウィッチアカデミア 魔法仕掛けのパレード」をクラウドファンディングで作るとなったときに、海外からも出資が多かったという点を指摘された吉成監督が「1作目を見て全世界で喜んでもらったので、変えることはないだろう」と話していました。
「リトルウィッチアカデミア」はアニメ現場っぽいと吉成曜監督&トリガー大塚社長が語る - GIGAZINE
大塚:
僕らは、もちろん「どういうお客さんが見ているか」ということは意識していますが、日本も海外も、割とアニメファンの気質は変わらないと思っています。作っている僕ら自身もアニメオタクなところがありますし、自分たち向けに作った作品が、同じようなものを好むお客さんに届くというのは、国内に限らず海外も同じだろうと思います。オタクが全世界で繋がっていくのは、楽しくもあります。
G:
「プロメア」はいまお話を伺っている時点では制作中ですが、手がけている作品が完成したときというのはまずどういった感想が出てくるものですか?
大塚:
「終わったあ!」です(笑)
G:
シンプルに(笑) この「終わった!」の時点で、「これはいける」という手応えはあるものですか?それとも、そういった感触みたいなものは後から沸いてくるものですか?
大塚:
終わった時点で「やりたいことはやりきった」という達成感があるのは事実です。でも、作品はお客さんに届いてはじめて完成するものだとも思うので、最終的にどう受け止められたのかという点が気になります。それが好評であれば僕らも「やったー!!」と思うし、届かなければ「そうか……」とガッカリもします。ズレというのはどうしてもあるもので、こだわりがマニアックすぎると届くお客さんが絞られてしまうため、どこまで広げるかです。ソフトにしすぎると後に「遠慮しちゃった」という気持ち悪さが残るので、バランスが難しいんです。それは、いつまで経ってもぱっと把握できるものではないし、一方で「ここは届いているんだ」という意外な反応があって面白かったりもします。
G:
「プロメア」は、この取材時点だと作業はどれぐらい終わっているのでしょうか?
大塚:
パートが分かれているので一概には言えませんが、自分の担当しているパートでは「まあ、これで終わるよね」というところまで来ています。……他のパートはもうちょっとヤバいかもしれないけれど(笑) でも、とにかく最後まであがくことになると思います。どこまでこだわりを貫けるかというところに入っていると思うので。
G:
先ほど大塚さんから「変化している途中なので、最終的にどうなるかはまだわからない」というお話がありました。まだBGMもきっちり入っていないラッシュフィルムを拝見する機会があったのですが、その時点でもうとんでもないもので、圧もすごかったのですが、あれをクリンナップしたものが完成形というわけではないのですか?
大塚:
冒頭を見たら「おお……」ってなると思うんです。「これが最初でいいの?」って。ところが、クライマックスを見てからだと「なるほど、あれは掴みだったんだ」と振り返ることになります。後半は本当にすごいことになります。そこがまだ、変化するかなと。
G:
さらに映像が仕上げられていくと。
大塚:
そこまでいく前に力尽きてしまうかもしれませんが(笑)、役者さんの演技も含めて凄まじく、アフレコを見に行ったとき、クライマックスはまるで劇団☆新感線の舞台を見ているかのようで「これ、お金払います」って思ってしまうぐらいでした。そうすると、その音声を聞いたアニメーターたちが「これに負けないものを!」と刺激され、さらに他の部署も刺激を受けて……と、本当に「これで終わり」というまではどんどん上がっていくので、「まだわからない」ということですね。
G:
なるほど。その刺激し合いの末にどういった作品が生まれたのか、ぜひ映画館で見てもらいたいですね。本日はありがとうございました。
なお、話の中ではまるで「一部パートで手伝いをした」ぐらいのノリなのですが、スタッフロールを確認すると大塚さんの名前は4カ所ほどに登場し、副監督としてもクレジットされているので、いろんなところで作品を支えたことがうかがえます。
TRIGGERが一丸となって送り出した「プロメア」、ぜひ映画館でその熱気を受け止めてください。
・つづき
「今のTRIGGERだからこそ生み出せた」という映画「プロメア」について舛本和也プロデューサーにインタビュー - GIGAZINE
・追記
「プロメア」公開後、改めて大塚社長へインタビューを実施しました。いかに大変なことを続けているかがわかる内容となっているので、ぜひこちらも読んでみてください。
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