インタビュー

作曲家・澤野弘之インタビュー、『プロメア』から「機神大戦ギガンティック・フォーミュラ」までたっぷり語ってもらいました


2019年5月24日(金)から絶賛公開中の映画『プロメア』の音楽を担当するのは澤野弘之さん。今石洋之監督とは「キルラキル」で組んだ経験があり、「機動戦士ガンダムUC」「機動戦士ガンダムNT」「進撃の巨人」「マルモのおきて」「医龍-Team Medical Dragon-」「プラチナデータ」と、ドラマ・アニメ・映画で幅広く活躍しています。今回、澤野さんに話を聞く機会があったので、最新担当作である『プロメア』のことだけではなく、澤野さんの音楽作りについてもいろいろなお話を伺ってきました。

映画『プロメア』公式サイト 5/24(金)全国ロードショー
https://promare-movie.com/

HIROYUKI SAWANO OFFICIAL WEBSITE/澤野弘之
http://www.sawanohiroyuki.com/

GIGAZINE(以下、G):
澤野さんが音楽を手がけた作品は、この『プロメア』のほかに、近いところだと「機動戦士ガンダムUC」「機動戦士ガンダムNT」といったものがあります。ダ・ヴィンチのインタビューで、機動戦士ガンダムUCのオファーがあったきっかけについて「『この人、オーケストラの曲書けるの?』となったときに、『機神大戦ギガンティック・フォーミュラ』っていうロボットアニメがあったんですけど、僕が作家活動の初期の頃にフルオーケストラで曲を書いてたんですね。その作品を監督に聴かせたら、『面白そうじゃないか』ってなって、オファーが来たみたいです」と発言されています。まさに、この「機神大戦ギガンティック・フォーミュラ」の「MAIN THEME」はとても印象的な曲で、サントラには複数アレンジが収録されています。バリエーションは、どのように生み出されたのですか?

澤野弘之さん(以下、澤野):
もともと、作品の音楽を作るためにもらっていたメニュー表の中に、メインテーマと、その崩しが必要だということが書かれていたんです。つまり、ピアノバージョンとか、弦楽器バージョンとか、スローとかですね。その想定をして作ったんですが、1回目の録音をしたとき「メインテーマはちょっと違うものが欲しい」という話になってメインテーマを作り直すことになり、その際にもまた別バージョンを録ったので、いくつかバージョンが存在しています。なので「メニューに従って生まれた」ということになります。他のケースだと、自分から「このテーマメロディを他の曲に使ってもいいですか?」と確認を取って、テーマを取り入れた別の曲を作っていくということもあります。


G:
澤野さんの音楽では、機動戦士ガンダムUCの「UNICORN」のように、一度曲が静かになり、一瞬の間を開けてドンと展開する、まるでジェットコースターが最高点でピタッと止まって加速していくかのような流れがとても印象的なのですが、ああいった曲調はどのように生み出されたのですか?

澤野:
ずっと同じテンションで行くより、サビ前にいったん落ちて一瞬の間を空けてからから爆発していく曲調を僕が好きだから……というのもありますが(笑)、おおもとはドラマの曲を担当していたとき、発注時に「曲が展開する時などに、間を作ってもらえると劇中で使う時に便利だ」と言われたことです。サビの前までを使いたいというケースがあったときに、曲がそのままサビまで繋がっていると切りにくいけれど、どこかしらに間があればそこで止められるから使いやすいと。最初はそれに合わせてやっていたことだったのですが、だんだんと自分の中でも「間はアクセントになるな」と感じるようになり、無意識的にもやるようになっていきました。

G:
音楽の発注において、機動戦士ガンダムNTでは監督から激しめのテクノのような曲を渡されたという話をしておられました。こういった、監督がイメージした曲があってそれを渡された場合、どのように作曲していくのですか?

澤野:
渡されたというか、ちらっと聞かせてもらって方向性を確認したという形ですね。もちろん、制作の方々は言葉で説明するのが難しいからこそサンプルを出すんですけれど、僕はその楽曲のイメージに縛られてしまうから、事前にいろいろ聞くのはあまり得意ではないんです。イメージにとらわれると、そこから離れにくくなってしまうので。メニュー表での制作だと、シーンや資料を見てどういった音が必要かなと考えて作っていきます。

G:
アニメでは、まだ全体の絵が完成する前に音楽を作ることになると思います。資料が多くあれば作りやすいというのはイメージできますが、資料が少ない状態で作る事例というのもあるのですか?

澤野:
アニメだとメニュー表が決まっていることが多いですけれど、以前やっていたドラマの場合は資料が脚本だけだったり、メニュー表自体がなくて「感動系3曲、緊迫した曲3曲、日常系3曲でお願いします」とかいうこともありました。僕自身は、ガチガチに書かれてしまうと音楽のイメージが固定されるので、それぐらいの条件の方が音楽的にいろいろなアプローチができて、作りやすかったりします。絵を見てしまうと、自分としても「こういうシーンなら、こういった曲じゃないとおかしい」と思ってしまうので。たとえば「カーチェイス」のシーンでも、絵を見たら「こういうカーチェイスにはこういう曲」とイメージが固定されてしまうけれど、絵がなければ、勝手にものすごいカーチェイスを想像してそれに合わせた激しい音楽を作ることができて、ミスマッチになるかもしれないけれど、当てはめたときに面白くなることもあるかなと。

G:
今回、『プロメア』ではどういった形でしたか?

澤野:
作品がこういったものであるというデザインや途中までの台本、キャラクター資料などをいただきました。最初に監督とお会いしたときは、まだ音響監督が音楽メニューを作る前で、ドラマの時ほどではないにせよかなりざっくりと「ガロにはテーマ曲いりますよね」みたいな話をして、時間のこともあったので、プロメアのメインテーマやガロとリオのテーマ、バトル曲など8曲ぐらいベーシックなところから取りかかりました。

G:
そのあとが本打ち合わせということですが、その段階になるとどういったことを決めるのですか?

澤野:
ある程度のベーシックなものが出来ていた状態だったので「この曲はここのシーンで使えるね」といったことを話して、そのほかに必要となる曲をリストにしてもらいました。たとえば、「作ってもらった曲のテンポを落としたものをここで使いたい」とか、そういうところですね。普通のTVシリーズだと先に「こういう曲が必要です」というメニューがあり「この曲を作らなければいけない」という状態なので、『プロメア』の進め方は少し特殊かもしれませんね。

G:
「SawanoHiroyuki[nZk]」の3rdアルバム発売にあたってDISK GARAGEのインタビューを受けた澤野さんから、定期的にライブをすることについて「次に曲を作る時のモチベーションになる」という話が出ています。制作においてモチベーションを維持する、あるいはモチベーションを高めるために、ライブ以外になにか心がけていることはありますか?

澤野:
「心がけている」というよりは自然なこととして、音楽を作るときにはモチベーションが大事です。「やだなー」と思っていてもつまらないし、カッコつけるわけじゃないですが、音楽は「音を楽しむ」ものでありたいですから、自分が楽しんでいないと作品に対する愛情も薄れてしまうので、そこは大事にしておきたいと思っています。とにかく、作るときは楽しくいようと。


澤野:
音楽を作っていないときは、僕は映画が好きなので、日頃から映画チャンネルで海外の映画などを見ています。そこで音を聞いて「自分の中に取り入れられないかな」「今度はこういうのをやってみようかな」と刺激を受けることが、音楽制作へと繋がっていると思います。

G:
2017年に発売された「澤野弘之アーティスト・ブック」には未発表音源9曲を収録したCDが付属していて、澤野さんから「学生時代に、ファンタジーの冒険譚を音楽で表現するサントラのようなCDを友人と作ったんです。その作品のタイトルは、『FANTASIA』。今回の付属CDの1〜7曲目は、そのCDのトラックをそのまま収録しています」とコメントが寄せられています。何歳ぐらいで曲を作ったのですか?

澤野:
これを作ったのは専門学校にいたころなので、19歳ぐらいだったと思います。当時自分が持っていた音源だけで作ったもので、今と比べるとかなり限られた環境なので、音源に失礼かもしれませんが、今の自分の音楽を聴いた人だと、「スーパーファミコンとかプレステ1かな?」みたいに感じるかもしれないです。

G:
でも、聞いたら「あっ、この頃から『澤野味』は確かにするんだ」と感じました。このCDをつけた理由として「クリエイターを目指している若い読者の方に、自分の音楽に自信を持ってもらいたいと思ったからなんです。実は、僕自身若いころ、この音源を音楽関係者に聴いてもらったことがあって、その時にあまりいい反応がもらえなかったんです」と書かれています。こうして作曲家になっているということは心が折れることなく続けられたということですが、そういう反応だったのに、どうやって持ちこたえることができたんですか?

澤野:
僕、こうやって仕事をするまでのアマチュア時代は本当にけちょんけちょんに言われることが多かったんですよ。モチベーションの話にも繋がりますが、そうやって言われたときに、「凹む」というのがあまり好きではなく、むしろ「なにくそ、いつか見ていろ!」という気持ちになります。「怒り」とまでいくかは分かりませんが、それがモチベーションに繋がっています。実は僕、アマチュア時代に作った曲をプロになってから作品のイメージに合えば使ってることもあるんですよ。そのCDに収録されている「FANTASIA」はさすがに古いのでないですけれど、ダメだと言われた曲でも「ダメじゃない」と言ってくれる人が出てくるはずだという気持ちが強くて、「そのためには音楽を続けなければ」と、モチベーションが沸いてくるんです。それは当時も今も一緒ですね。

G:
アーティストブックには、小室哲哉さんとの対談が収録されています。「多大な影響を受けた」と表現されていますが、ご自身では小室さんの音楽からどういった影響を受けていると感じていますか?


澤野:
小室さんだけではなく、他にもいろいろな影響を受けているし、聴いた音楽は自分のフィルターを通っているので、僕が作った曲が「小室さんっぽい」と思ってもらえるかはわかりませんけれど(笑)、もともと、音楽を始めたきっかけはCHAGE&ASKA(現表記:CHAGE and ASKA)のASKAさんでした。それで、歌の曲とかをやりたかったんですけれど、歌手としての才能はちょっとないなと自分で思って……そのころ、すでにTM NETWORKは解散していたんですが、小室さんを知ったんです。バンドというと歌っている人がメインというイメージで、TMNでも宇都宮さんの存在感は確かにあったんですが、小室さんの存在感が凄かったんです。曲を作って、演奏者として存在感を出すというところに惹かれて、「こういう道もあるんだ」と思いました。小室さんはドラマや映画の音楽も手がけられていて、それが、インストゥルメンタルの音楽に興味を持つきっかけにもなりました。だから、直接的に音に影響が出ているかはわかりませんが、自分が打ち込み、シンセの音を駆使するのは小室さんのデジタルの音楽を聴いていた影響があると思います。

G:
テレビのインタビューを受けておられたときだったと思いますが、作曲は鍵盤で行っているという話が出ていました。プロフィールでも「幼少のころにピアノを習い」と書かれていたのを見たことがあるのですが、ピアノを習い始めたきっかけは何だったのですか?

澤野:
ピアノを習い始めるのって、幼稚園とか小学校低学年とかが多いと思うんですが、僕は遅くて、小学校6年生ぐらいからでした。

G:
えっ、そうなんですね。

澤野:
そもそもは妹が小さいころからピアノを習っていて、音楽をしているのをうらやましく思っていたんです。今は違うかもしれませんが、僕らが子どものころ、男の子がピアノを習っているというのは「バカにされるんじゃないか」とちょっと恥ずかしいところがあって、自分からやりたいとは言い出せなかったんです。でもうらやましいから、妹のピアノを弾けもしないのに勝手にぴょんぴょん弾いていたら、母親が「興味あるならやれば?女の人みたいな手をしてるじゃない」と。「言われたから、やってもいいけど~」って(笑)

G:
(笑)

澤野:
「そう言ってくれるんだったら始めてもいいけどね」みたいな雰囲気で、ピアノを習い始めました(笑)

G:
作曲する人でピアノを習うのが6年生というのは、やはり遅い方ですか?

澤野:
遅いと思いますけどね。だから、ピアノ教室で同じ年頃の子たちは発表会でやるだろうすごい曲を練習していたと思うんですが、自分は「ド、ミ、ソ~」とかやっていたので、発表会に出たりはしませんでした。

G:
なるほど、そういう流れだったんですね。先ほどCHAGE&ASKAさんの名前が出ましたが、DISK GARADEの「初めて観に行ったライブは?」という特集で、澤野さんは自分でチケットを電話して取ったという横浜アリーナで行われたCHAGE&ASKAのライブを挙げていました。ライブに行くほどにまでハマった理由は、なにか覚えていますか?

澤野:
なぜだったんでしょうね?小学校3~4年から、なんとなく当時のポップスを周りも聴き始めて、自分もヒットチャートを聴くようになったんです。ただ周りに合わせて聴いていた感じもあって。そんな中、初めて自分から「なんだこれは!?」と思って聴いたのがCHAGE&ASKAだったんです。振り返ってみると、それまでに触れる音楽というのは親が運転する車で聴いたりするものだったんですが、母親が井上陽水さんや安全地帯といった歌謡曲ベースのニューミュージックをよく聴いていたんです。ASKAさんも井上陽水さんをよく聴いていたということで、CHAGE&ASKAの音楽もそれに通じるものがあったのかもしれませんし、「好きなメロディ」として、より自分にフィットしたのかもしれないですね。ASKAさんの歌声とメロディは、それまでにない衝撃で「この人を追いかけたい」と思ったのは初めてでした。

G:
ということは、CHAGE&ASKAからの影響も……

澤野:
それはもちろんあって、無意識に出ている部分もあると思います。意識的なところでは、僕はnZkというボーカルプロジェクトの活動もしているのですが、そのアルバムの1曲を作るときに、過去に「CHAGE&ASKAのこういう曲を作りたいな」と思って作ったストック曲を改めて自分なりに再構築しました。気付く人は気付くみたいで、「あれってチャゲアスの○○だ」って反応があったりします。

G:
今も挙げてもらったように、サウンドトラックも、ボーカルプロジェクトも手がけていて、澤野さんが作ってきた曲は膨大な数に上ります。Wikipediaに「澤野弘之の作品一覧」という記事があるほどなのですが、2004年・2005年はそれぞれ4曲、3曲と数が少なく、2006年から一気に曲数が増えています。これは、掲載されている曲が少ないだけなのか、それとも活動が活発ではなかったからなのでしょうか。

澤野:
ああー、それは本格的にやる前だったからですね。僕は「来年(2020年)で15周年」という言い方をしているんですが、劇伴を始めたのが2005年の後半で、そこから15周年ということなんです。2004年とかだと、まだ前の事務所のさらに前の所属だったころです。当時の事務所で行われたコンペで通った曲が数曲入っているんですね。劇伴音楽をやってみたいとは思っていたんですが、事務所としては劇伴をするという動きではなくて。

G:
ということは、活動開始から約2年は、劇伴をやってみたいけれどできないという時間が続いたと思います。その時期は、どう乗り切ったのですか?

澤野:
不安ばっかりでしたが、本当に不安だったのはそもそも事務所に入るより前、プロの世界に入れるかどうかというところでした。親が音楽をやっていたわけではないから、何かのコネクションというのもなかったですし、どうやれば劇伴を作れるようになるのだろうかとか悩んだ時期はありました。コンペをしていた事務所にいたころは、少なくともその事務所が自分の音楽に何かしら興味を持ったということだったので、1人興味を持つ人がいるなら、ここから先10人ぐらいは興味を持ってくれて、そこから広がるかもと信じて、いつか自分が劇伴を担当したらどういう曲を作るかと考えてインストの曲を書きためていました。「機神大戦ギガンティック・フォーミュラ」の曲も含めて、その時期に作っていたストックを使ったものもあったりします。さすがに今となっては、その頃のストックはほぼなくなっちゃいましたけれど(笑)、当時、誰にも振り向かれないと言われていたような音楽が劇伴に使えたというのは、信じてやっていたことが間違っていなかったということだなと思っています。


G:
「CHAGE&ASKA」「小室哲哉」と並んで、澤野さんが影響を受けた音楽として挙げているのが「もののけ姫」です。そこから「サントラの世界もおもしろいかもしれない、と思うようになりました」とのことなのですが、そんなにも澤野さんに刺さったのはどういった部分ですか?

澤野:
当時、インストの曲自体はそれほど聴いていなかったんですが、たまたま友達の家に行ったとき、いつもは流行の曲を流しているのに、ふと友人が「耳をすませば」のサントラをかけたんです。インスト自体は好きだったことがあるけれど、普段は歌の曲を聴いていたから、とても新鮮に感じました。それで、「そういえば妹が『魔女の宅急便』のサントラを持っていたぞ」と思い出して家に帰って聴いてみたら、興味を持って聴いたからか、曲は知っていたけれど「聞こえ方」が違ったんです。

G:
おおー、なるほど。

澤野:
それが高2のことで、ちょうど「もののけ姫」が公開されていたんです。ジブリつながりだし、音楽をやっている人が同じならと観に行ってみたら、音楽がフィーチャーされるシーンもあったので、より感銘を受けて、映像音楽に強く興味を持つようになりました。

G:
同じインタビューでは、初めて買ったCDがゲーム自体はやったことがなかった「ドラゴンクエスト」のサントラだったという話が出てきます。なぜ買ったのかという理由を「ドラクエブームで、曲が街のいたるところで流れていたし、ドラクエ好きの友達がピアノで弾くのを聞いたりして、単純にいい曲だと思ったんじゃないかな」と答えておられますが、このように、作品自体はあまり知らないけれど、曲が気に入ったのでCDを買うというのはわりと多いのですか?

澤野:
今ではいろいろな作曲家に興味がありますから、「あの人が新たにこういう作品を担当した」とかわかったら、Amazonで新譜情報など調べて、映画を見るより前に「聴いてみよう」ということはしょっちゅうあります。子どものころの話だと、ドラクエってゲームをしていなくても知っているぐらいに曲が流れていたので、クラシックよりも入りやすいオーケストラのCDとして買っていたという側面があります。格ゲーのBGMに興味を持ってサントラを買ったり、ファイナルファンタジーをプレイしたら面白くて音楽が気になったので買うとかいうこともありました。

G:
澤野さんは、先ほど出た「もののけ姫」の久石譲さんに加えて、菅野よう子さんの名前も挙げておられます。菅野さんからの影響は、どういった部分でしょうか?

澤野:
久石さんに限らず坂本龍一さんとか国内で劇伴を手がけている方々や、海外だとハンス・ジマーとかも聴いたりしたんですが、オーケストラを作る人はその方面が多いし、テクノの人はデジタルサウンド方面が多いという「作曲家の傾向」ってあるじゃないですか。僕が菅野よう子さんを知ったのは「カウボーイビバップ」だったと思うんですけれど、ビッグバンドのジャズファンクみたいなことをやっていたので「なるほど、こういう人なんだ」と思っていたんです。すると「∀ガンダム」ではフルオーケストラをやっていて、「攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX」ではデジタルで……ここまで音楽のジャンルを幅広く取り込んでいる人は見たことがなかったです。一時的に他のジャンルを取り込むというのは他でも事例を聞くことがありますが、菅野さんはその道のプロみたいなクオリティで作っている。自分も、それまでは好きなオーケストラを突き詰めればいいかなと思っていましたが、菅野さんの影響で、20歳頃からいろいろなジャンルの音楽を取り入れるようになりました。あんなにも器用にはできませんけれど(笑)、それまで聴かなかった民族音楽とかジャズも聴くようになりました。

G:
いろんなジャンルの音楽を取り入れるようになったという話と繋がるところかもしれませんが、「進撃の巨人」にまつわるインタビューでサントラを作ることの醍醐味を質問された澤野さんは、「サントラって、ポップスみたいに『ヒットチャートを狙う』というわけではないじゃないですか。作品に沿った音楽を作るのはもちろんですけど、その前提から外れないかぎり、今自分がやりたいと思う音楽にトライできる」と答えています。この「今自分がやりたいと思う音楽」というのは、変化していますか?

澤野:
根本は変わっていないと思います。自分がこれまでに触れてきたのはASKAさんや小室さん、久石さん、坂本龍一さんと、みんなエンタテインメントの音楽というか、メロディがわかりやすくてポップな部分があり、一時代を築いた人たちです。「万人受け」という表現は言葉がよくないかもしれませんが、いろんな人の心を掴む音楽ですよね。自分も、基本的にはそういう、音楽的にもエンタテインメントだと感じてもらえるような、いろんな人たちが聞いて単純にかっこいい・面白いと思ってもらえるような曲を作りたいという思いがあります。ただ、音楽は時代によって流行のジャンルや使われる音色が変わっていって、海外のアーティストなんかを聴いたときに「自分もこういうことをやりたいな」というのが都度出てきたりするので、それを取り入れて追求していきたいなという気持ちはあります。

G:
『プロメア』の音楽でも、澤野さんが今やりたいことが反映された部分というのはありますか?

澤野:
あります。ちょうど『プロメア』の音楽に取りかかったときに聞いていたバンドサウンドを歌もので1曲入れてもいいなと「Inferno」というテーマの曲を作りました。自分発信以外でも、打ち合わせで今石監督から、80年代とかのオールディーズ的なアプローチの曲もあってもいいんじゃないかという話があり、そういった要素を取り入れた歌を作ったりしてみました。この数年の洋楽も、80年代の海外ポップスを感じる様なアレンジが流行っていたので、そうした部分からも影響を受けていますね。

G:
音楽を作っていて「時代性」を感じさせる、「古びたもの」にはしないようにするために心がけているところはなにかありますか?

澤野:
僕自身はそれほどにアンテナを張れているわけではないですが、なるべく普段から音楽を聴くということです。ハリウッドが絶対ではないものの、ハリウッドなど海外の音楽には「今のサウンド」が取り入れられていると思うので、劇伴の仕事をしている以上、どういうサウンドへのアプローチが今カッコいいのか、自分でも取り入れてみたり。歌では、洋楽ヒットチャートで自分が好きだと思ったもの、かっこいいと思ったものは、取り入れたいと自然に思いますね。単純に「まねする」ということではなく、その要素を自分の音楽の幅としてインプットしたいなと。そうやって作ったものをお客さんが聞いたとき、時代を感じる音になっていれば嬉しいです。

G:
ボーカルプロジェクトの[nZk]では、曲を作って、それに合うボーカリストを探したとのこと。「曲に合うボーカルを探す」というのは大前提としてよくわかるのですが、曲を作っている時点で歌声までイメージしていて、その声を探すという感じでしょうか。それとも、何か違う直感めいたものなのでしょうか。

澤野:
歌の曲を作るときは、トラックを作りながら、自分の下手くそな歌をメロディに当てはめていることがほとんどです(笑) でも、「こういう歌声だったらいいな」と、自分が好きな海外のアーティストの声を当てはめるようなイメージで作っていることはあります。ただ、必ずしもそのイメージ通りの声の人が現れるわけではないので、ボーカリストを選ぶときには、自分のイメージした声とは違っていても、楽曲の方向性を思いも寄らぬ方へ広げてくれたりする声の魅力が大事かなと思います。


G:
2015年にサウンドトラックのベストアルバム「BEST OF SOUNDTRACK【emU】」をリリースした際、リスアニ!WEBのインタビューで「ドラマ音楽をやっていて、ある程度たまったらいつかベスト・アルバムを出したいなって思っていて、そういうプレイリストを普段から作っていたんです」という話が出ています。プレイリストは、どういったソフトで作っているのですか?

澤野:
iTunesに自分の曲を取り込んでいます。劇伴作家さんで作品集とかベストアルバムを出す方がいたので、自分も作品ごとに曲を抜粋して、だいたいはメインテーマなんですけれど、いつかベストを出せたらいいなと思っていました。

G:
実際にベストアルバムを出せたわけですけれど、選定基準はどういったものだったのですか?

澤野:
やはり、作品のメインテーマが中心となりました。ものによっては、作品が違っても曲の方向性が似通っているなというものがあるので、そういうときには「これは別のアプローチをした曲で、自分にとっては思い入れが深いから」とセレクトしたものもあります。

G:
この「BEST OF SOUNDTRACK【emU】」には、「キルラキル」から「鬼龍G@キLL」が選ばれていて、「多少悩んだんですが、「服を着た豚どもーー!」の印象が強かったのでこの曲を収録しました(笑)」と収録理由がツイートされています。こうした「楽曲の印象」というのは、自分が作曲したときのイメージとずれることはありますか?


澤野:
メニュー表で作った曲の場合、そのオーダーにあったところで使われることがほとんどなので「イメージ違い」というのはないです。オーダー外のシーンで「ここでも使いたい」と使ってもらっているケースもありますが、どういう楽曲か理解してもらっていれば「それでこの曲を持ってきたんだ」というのは見ていて伝わってくるので違和感はないです。メニュー表がなくてもその点は同じで、監督がこういう意図で楽曲を使ったのだとわかれば、自分のイメージと違っても「なるほど」と納得できますし、「そういうイメージもあるんだな」と発見することもあります。

G:
ぐるっと回ってまた『プロメア』ですが、サントラには21曲が収録されます。本編未使用曲もあったりするのでしょうか?

澤野:
『プロメア』はベーシックなものを作った後に必要な曲を足すという作り方だったので、すべての楽曲がフルサイズで使われているわけではないにせよ、基本的には全部使われていると思います。

プロメア オリジナルサウンドトラック 試聴用ダイジェストPV - YouTube


G:
このサントラのマスタリング最終確認が3月にあったということなのですが、サントラの「マスタリング最終確認」とはどういった作業内容なのですか?


澤野:
工程としてレコーディングの後にミックスという完成させる作業があり、そのあと、CD収録用に音のバランス調整をするのがマスタリング作業と呼ばれるものです。一般的には、マスタリングエンジニアさんという専門の方がいて、その方にお願いするのですが、歌ものとかいろいろあるサントラのバランスは、ミックスを担当したエンジニアさんにそのままやってもらった方がいいんじゃないかと思って、最近は、まずはミックス担当のエンジニアさんにマスタリングをやってもらっています。最終確認というのは、本当にプレスするための取り込み作業に向けた、最後の曲間のチェックなどのことですね。

G:
「機動戦士ガンダムUC」の音楽制作について、「十分な制作期間を確保し、1曲1曲力を入れて作る事が出来、僕の音楽人生の中で本当に大切な作品となりました」と答えておられますが、十分な制作期間があると、どこに時間をかけることができるようになるのですか?

澤野:
「時間」といっても、「クオリティを上げるために十数時間かければいい」ということではないです。僕は劇伴の仕事をし始めたころ、1クールに2、3作品担当したことがあります。当時は劇伴の仕事がしたかったから、テンションで乗り切れたんですね。でも、劇伴の仕事を続けていく中で「流れ作業」みたいな感覚にはなりたくなかったんです。ノルマを達成するような音楽制作というのは、自分のしたい音楽から離れていく気がして。お金はもちろん必要ですけれど、好きであるためには音楽を楽しまないと。でも、劇伴って多いときは1作品で40曲から50曲あるので、どうしても時間との戦いという部分が出てきます。そんな中で、たとえば「今日は2曲作らないといけない」となると、1曲目ができたあと「もうちょっと詰めたかったな」と思っても前に進まなければいけません。心残りができてしまうんです。でも「1日1曲」ということなら精神的に余裕を持って取り組めますし、モチベーションも維持して楽しく作業ができる、ということなんです。

G:
なるほど。本日は長い時間、ありがとうございました。

今石洋之&中島かずきが生み出した熱い映像を、澤野さんの音楽が耳からも熱くしてくれる映画『プロメア』は2019年5月24日(金)から絶賛公開中です。

映画『プロメア』劇中歌メドレーPV - YouTube

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
「求めている快楽」が近くシンクロ率の高い今石洋之監督&中島かずきさんにオリジナル新作劇場アニメ「プロメア」についてインタビュー - GIGAZINE

TRIGGER制作のオリジナル劇場アニメ「プロメア」本編冒頭アクションシーンがYouTube解禁、「マトイテッカー」堂々見参 - GIGAZINE

ガンダムNTの音づくりをヨナ役の榎木淳弥さんがイケボでじっくり解説してくれるAnimeJapan 2019の「Production Works Gallery」 - GIGAZINE

ヤマトらしさとは「もがき」と語る「宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち」作曲家・宮川彬良さんインタビュー - GIGAZINE

作曲家・梶浦由記さんが作品との関わり方や作曲方法について語る - GIGAZINE

タイトーサウンドチーム「ZUNTATA」を彩った8人が語る25周年記念インタビュー - GIGAZINE

in インタビュー,   動画,   映画,   アニメ, Posted by logc_nt

You can read the machine translated English article here.