インタビュー

「今のTRIGGERだからこそ生み出せた」という映画「プロメア」について舛本和也プロデューサーにインタビュー


株式会社TRIGGERの大塚雅彦社長に続いては、映画『プロメア』でアニメーションプロデューサーを務める舛本和也さん。作品の大枠部分を守っているという立場から見て、「プロメア」はどのように作られたのか、そもそもアニメーションプロデューサーはどういった役割を果たしているのかなど、いろいろなお話を伺ってきました。

映画『プロメア』公式サイト 5/24(金)全国ロードショー
https://promare-movie.com/


GIGAZINE(以下、G):
舛本さんは「プロメア」には、どのようにして関わってこられたのでしょうか?

舛本和也さん(以下、舛本):
僕は、企画の最初からですね。2014年に「キルラキル」が終わってすぐに、という形です。


G:
最初は何から手を着けましたか?

舛本:
まずは打ち合わせです。今石監督がこういったことをやりたいとボールを投げ、そのボールを受けた中島さんがこれはどうかと投げ返す、企画会議に立ち会うところからでした。

G:
今石監督と中島さんの「らしさ」を出さなければということがあったと思いますが、その試行錯誤の中で、プロデューサーとして苦労したところはありますか?

舛本:
「プロデューサー」には、ビジネスを司るビジネスプロデューサーと、映像制作側のプロデューサーがいます。僕はずっと今石&中島組でクリエイティブを担当してきました。苦労というと、先ほどいった「最初のキャッチボール」が行われても、だいたいそれ通りにはならないというところです(笑)

G:
(笑) それは、なぜならないんですか?

舛本:
作品の「核」の部分は変わらないんですが、企画はそこにどんどん上書きされていって形が大きくなっていきます。中島さんは「シナリオを破かれる」と表現されてきましたが、まさにその通りで、最初に「これがいいよね」と思っていたものでも、キャッチボールをして、シナリオとして文字に起こしてみると「これは違う」となることがあるということですね。

クリエイティブの内容に関しては、若林がメインで立っています。今石&中島組が積み上げてきたものの「次」の形を作るべく、若林が第三者的視点、つまりお客さんの目線から意見を述べて、3人のタッグで盛り上げていくという感じです。

G:
その、お客さんの目線から意見を述べるというのは、どなたかのアイデアですか?

舛本:
自然と培われてそういう役割になったという印象です。アニメの企画は監督や原作、いろいろな視点から作られていますが、お客さんの目線がないと「監督の純粋な作品」になってしまうことが多いんです。そういった作品が、お客さんの側から見ていいものかどうかというのは別の話になってしまうので、若林がうまくバランスを取っているなと思います。

今回はチームにコヤマシゲトさんも加わっているのですが、このチームメンバーって、今石も中島さんもコヤマさんも若林も、それぞれに「プロデューサー的な目線」を持っていらっしゃるクリエイターだと僕は思っているんです。どこか自分を俯瞰で見られるし、時流も取り入れられる。「プロメア」を作っている間に「ズートピア」や「マッドマックス 怒りのデス・ロード」が話題になって、「今はこういうことがウケているんだ」と、作品を作っていく中で方向の調整もあったりしました。そういうことで、客観性や今の時流を常に持てるチームなんだなというのはありました。

G:
なるほど。その中で、舛本さんは果たす役割はどういった部分なのですか?

舛本:
僕はクリエイティブ担当のプロデューサーなんですが、クリエイティブの内容には一切口を出さないんですよ。僕が口を出すのは「予算」と「スケジュール」と「スタッフィング」で、それはものを作る上で最も重要な大枠なんです。こうするとお金がかかりすぎてしまうし、時間が間に合わないと公開できない……という部分を守っていくのが僕の役目です。


G:
「予算」「スケジュール」「スタッフィング」では、どれが一番重要なんでしょうか?

舛本:
これは企画のタイミングによって様々ですが、まずは「公開日」が決まっているのでスケジュールです。かといって、赤字でいいのかというとそれは別の話ですし、スタッフィングも、今石・中島さん・コヤマさんが作ろうとしている画面を再現しなければいけない。漫画であれば漫画家本人が描くことでなんとかなりますが、「プロメア」のような作品には300人から500人が参加していますから、その人たちができなければ意味がない。作品に合う人を探すのも仕事の1つです。だから、3つの要素は独立しつつも複雑に絡み合っていて、そのバランスを取っていくのが僕の仕事である、というわけです。

G:
その3要素は、最初にどれかが決まって順次決まるものですか?それとも、一部分ずつ補い合いながら決まっていくのですか?

舛本:
「プロメア」でいうと、どちらかといえば「補い合いながら」のほうですね。

G:
一般視聴者が見てわかりやすいのは「スタッフィング」の部分だと思います。今回、今石監督と脚本の中島かずきさん、さらにコヤマシゲトさんが加わったタッグでということですが、どのようにスタッフは決まっていくのでしょうか。

舛本:
その3人は最初からがっちりと固まっていました。それ以降は「表現としての再現性」ということで、イメージボードの方たちをアテンドしました。「プロメア」で最初にあったのは、今石やコヤマさんが目指す「色やデザインの表現」の部分で「海外のクリエイターにお願いしたい」ということでした。

G:
日本のクリエイターだとできる人がいなかったということでしょうか。

舛本:
これは「目指すものが新しいものだったから」です。僕も最初、口頭で説明を聞いたときは「うむむ……」と想像できなかったんです。そこで「たとえるとどういうものですか?」と聞くと海外の資料がばばっと出てきたので、それならばと、イメージボードを海外の方々にお願いすることになり、世界観作りを進めていきました。

G:
舛本さんはTwitterを積極的に使っていて、「質問箱」での質問に答えたりもしています。その中で以前「制作進行として身につけたほうがいいこと」について答えていた内容の「ある程度の体力と鈍感さ」というのは、どういったことですか?


舛本:
やっぱり体力は必要です。僕は下っ端から上がってきた人間なので、資本は体力なんです。そういったスタッフと付き合っていく中では、1日の作業時間では足りないと感じることもあるし、物事の調整にも時間はかかりますから。「鈍感さ」というのはいろいろな意味を込めていますが、僕らの仕事って「自分の時間」をどこで持つかなんです。ずっと仕事をするということが重荷になる人もいる。仕事は仕事、プライベートはプライベート、寝る時間は寝る時間とはっきり分けなければいけない人間にとっては苦痛な仕事なんです。

G:
ああー、なるほど。

舛本:
僕はどちらかというと鈍感な人間で、「自分の時間」が仕事とリンクしているんです。ものづくり自体は好きなんですが、自分では描けないので、そういう人たちの手助けをするのがモチベーションになっています。そうすると「8時間の仕事」は「8時間のプライベート」と同義になってくるんです。

G:
「上手に公私混同できている」というイメージですね。

舛本:
まさにその通りだと思います。もちろん、仕事である以上は体力を保つ必要があるので睡眠時間はしっかりと必要です。ちなみに、僕は「辛いことは寝たら忘れる」のが特技なんです(笑)

G:
そういう意味での「鈍感さ」も必要であるということですね(笑)

舛本:
仕事はすごく大変なことが9割で、残り1割が「快感」です。そういう意味でも、客観的に見ると辛い仕事なのだと思いますが、好きでやっていることなので……。「大変だね」と言われることもありますが、その大変さに気付かない鈍感さがないとやっていけないというのがエンタメ業界だと思います。


G:
プライベートと仕事を切り分ける「ライスワーク」的な人間ではなく、すべてのリソースをつぎ込める「ライフワーク」的な人間の方が向いているというイメージでしょうか。

舛本:
結果的に見ると、そういう人の方が多い業界だと思います。

G:
次も舛本さんの質問箱への回答からなのですが、制作進行からプロデューサーになるのにかかる年数について5年から10年と回答していて、舛本さん自身が11年かかったことを「遅い方」だと書かれています。早いと5年でなれるものなのですか?


舛本:
今の作品数や業界の状況だと5年あればなれるでしょう。ただし「肩書きだけなら」という話にはなります。制作進行、制作デスクを経た後、人がいない会社だと次はもうプロデューサーという形になってしまいますから。制作はプロデューサー、制作デスク、制作進行というピラミッド構造になっていて、クリエイティブのプロデューサーというのは、わかりやすくいうと作品の数しかいないんです。ところが、一段上がるごとにすごくふるいにかけられていって、ぐんぐん人数が減っていくんです。

G:
ああー、ピラミッド自体からこぼれ落ちてしまう。

舛本:
なので、プロデューサーになるまでの最短時間ということだと5年ぐらいという答えになるのですが、そもそもプロデューサーになれる人間というのは、かなり低い生存率の中で生き残った人であるということです。

G:
舛本さん自身は制作進行を6年、制作デスクを3年やっておられますが、その長さにはなにか理由があるのですか?

舛本:
これはシンプルにキャリアの問題で、最初の5年間いた会社はグロス請けという「下請けの下請け」だったので、そもそもデスクになることができなかったんです。一部のパーツだけを作る工場にずっといても、全体を作る工程はいつまでも回ってこないようなものですね。それはそれで僕にとってはプラスの経験があり否定はしないのですが、人より時間は長かったなと。そのあとGAINAXに入ったときデスクが空いていたので、たまたまデスクになれたという流れです。それはもう本当に運に恵まれてのことで……ずっと言っているんですが、僕はこの業界生活19年を運だけで生きてきた人間なので。

G:
(笑)

舛本:
僕は、プロデューサーまで行く人間は人徳と、どこかで運を持っていないとダメだと思っています。

G:
「人徳」は、具体的にはどのような要素ですか?

舛本:
人に頼られるとか、人から愛されるとか、そういうところです。スタッフィングという点では、僕が制作進行・制作デスクをやっていた時代に一緒に仕事をした方々が、僕のことを理解した上で集まってくれるというのが大前提です。これは監督も同じです。僕はProduction I.Gの石川さん、ボンズの南さん、P.A.Worksの堀川さん、などを目標にしていますが、みなさんそういう方々だなと思います。

G:
プロデューサーは納品作業を行うということなのですが、「プロメア」の場合だとどういった工程になるのですか?

舛本:
最終的な「納品」というのは、上映されるDCPという映像の完パケデータが劇場に届くことを指しますが、僕らクリエイティブの人間は、映像として完パケにすることを納品と呼んでいます。劇場でかかるDCPのマスターを作り、クライアントにOKをもらうという部分ですね。

G:
劇場版と地上波アニメでの納品の違いはどういった部分ですか?

舛本:
劇場は昔ならフィルム、今はDCPマスターが納品物ですが、テレビの場合はテープをテレビ局に納品するという違いがあります。また、量産性の部分でも、DCPは公開する劇場の館数分必要になってくるので、コピー自体に時間がかかります。数館単位なら1日作業なのですが、今回「プロメア」はありがたいことに200館規模での公開なのでどえらい時間が必要で……。

G:
ということは、締め切りもそれだけ前に設定されるということですね。

舛本:
そういうことです。なので「公開前日まで映像を作る」ということはできません。もちろん、テレビなら簡単というわけではなく、テレビでもクライアントのチェックはありますし、なにより映像表現についてはテレビの方が厳しいので、事前工程で大変な部分があります。

G:
プロデューサーとして必要な要素として「広い視野、広い知識、交渉力、英語、情熱、利他共栄の精神」を挙げておられますが、この場合の「広い知識」とはどういったものを想定しているのですか?


舛本:
これは文字数もあってかなりざっくりとした答え方になっていますが、知識は後からつくもので、そこに向けてまずは「好奇心」かなと思います。好奇心があってものを得ようとする。得たときはじめて知識が自分の中にストックされ、いつかどこかの場面で役立ってくる。即効性はなくて「そういえば」と思い出したときぽっと言葉に出るのが本当の知識だと思っていて、幅広い知識は幅広い好奇心から得られるものだと思います。たとえば僕らはアニメの仕事をしていますが、実写はどうやって作っているんだろうかとか、トリガーでは「SSSS.GRIDMAN」という作品を作りましたが、では特撮はどうやって作っているのだろうかとか。好奇心を持つ人というのは知識も膨大で、自分で出歩いていって「これはなんだろう?」「あれはなんだろう?」っていうような人がプロデューサーには多いという印象です。本を読むだけで得る知識とはちょっと違う部分があるかなと思います。

G:
舛本さんは「アニメを仕事に! トリガー流アニメ制作進行読本」という本を出しているほか、同人誌として「アニメーション制作における制作進行の座学本」という本も作っておられます。これは、制作進行のノウハウを他の人に授けるという部分があると思いますが、「授けよう」「教えよう」と思ったきっかけはなんだったんですか?

舛本:
僕はもともとアニメーターになりたかったんですが絵がうまくならず、制作進行というマネージメント側の仕事をすることになったんです。ところが業界に入った当時、マニュアルがなくて口伝だったんです。

G:
口伝!?

舛本:
「先輩を見て学べ」と。あとは、周りのクリエイターの方々に「そうじゃない、こうだ」と怒られつつ学んでいったという形でした。それ自体は間違っていたわけではないと思うのですが、はじめて僕の下に人がついたときに、教え方が分からなかったんです。言語化できなくて「俺はこうやったよ」としか言えなかったんです。でも、なにか基準が1つあれば、「そう、この通り」とか「これは違う」と言えるんです。「あの本にはこう書いてあるけれど、うちの会社ではこういうやり方だよ」と。だから、まずマニュアルを作ろうということになり、「アニメを仕事に!」という本を出させてもらいました。すでに何年か経っているので、ちょっと内容は古くなっていますが、「制作進行」という仕事を知ってもらういいきっかけになったと思います。それに、「SHIROBAKO」という素晴らしい作品も生まれました。

G:
確かに(笑)

舛本:
業界の偉業だと思います。あの作品があるおかげで、僕らの仕事がどういうものなのかある程度わかった上で入ってきてくれます。SHIROBAKOからも数年経っていて、やり方がちょっと変わってきていますが、SHIROBAKOや「アニメを仕事に!」があるおかげで「こう描かれていたけれど、今はこうだよ」とあれを基準にして教えられるので、役に立ってくれています。

G:
本を出して、反響を感じる出来事はありましたか?

舛本:
トリガーで制作進行になりたいとやってくる子のうち、9割が本を読んできてくれていることですね。

G:
9割!すごい。どのアニメーション会社でもプロデューサーはレベルの高いものを送り出したいはずだと思うのですが、実際に世の中に出てくる作品のクオリティは玉石混淆です。その点、TRIGGERでは「プロメア」をはじめとしたハイクオリティな作品を送り出していますが、プロデューサーとして、ここに気をつけなければクオリティは落ちてしまうのではないかと考える部分、ここを死守しなければいけないという部分はどういったところでしょうか。

舛本:
「プロメア」でいうと、企画当初なら今石や中島さん、コヤマさん、若林らによる「今はこれを作るべき」という視点の部分が大きかったと思います。そこから制作が進んだ今は、それに応えている現場のスタッフたちですね。TRIGGERができ8年弱という時間と、その中で育ってきた人たちの成長が「プロメア」を作っていると実感します。僕がどうこうというのはほとんどなくて、自分の技術をフルに使ってくれている人たち、そしてそれを支える制作たちが日々の仕事をこなしていることの集大成であると思います。


G:
ということは、TRIGGER結成したての時点では「プロメア」は作れなかったですか?

舛本:
できなかったと思います。「キルラキル」「SSSS.GRIDMAN」などこれまでにやってきた作品の積み重ねの上にある、今だからできている作品です。2019年劇場公開のアニメは新海誠さんの「天気の子」をはじめ多数ありますが、僕としては「プロメア」は他に類を見ない、マネできない作品であるという自信があります。TRIGGERが培ってきた作品の集大成であり、他では作れないだろうと思います。作りたいと思わないかもしれませんが(笑)

G:
なるほど(笑)、ありがとうございました。

大塚社長、舛本プロデューサーに続いては、クリエイティブディレクターとして作品企画の冒頭から携わった若林広海さんに話を伺いました。

・つづき
映画『プロメア』の立ち上げから全てを知る役職「いろいろ」なTRIGGER・若林広海さんインタビュー - GIGAZINE

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in インタビュー,   映画,   アニメ, Posted by logc_nt

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