人はAR上のアバターも人間だと感じてしまうという研究結果

ポケモンGOなどに活用されている拡張現実(AR)は現実の風景に仮想上の映像を重ね合わせて表示する技術です。人間はARで表示されたアバターに対して、人間を相手にする時と同じように振る舞ってしまうという研究結果が発表されました。

Social interaction in augmented reality
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0216290

Augmented reality affects people’s behavior in the real world | Stanford News
https://news.stanford.edu/2019/05/14/augmented-reality-affects-peoples-behavior-real-world/

Augmented reality changes how people interact and communicate, study finds | Ars Technica
https://arstechnica.com/science/2019/05/augmented-reality-changes-how-people-interact-and-communicate-study-finds/

スタンフォード大学でAR下における心理学を研究しているジェレミー・バイレンソン教授が率いる研究チームは、ARゴーグルを装着した被験者が仮想空間上に表示させた人間のアバターを見た際、振る舞いに変化が生じるかについて実験を行いました。最初に行われた実験は、クリスと名前のついたアバターに自己紹介を行った後、クリスに見守られながら、アナグラムを解くというものです。

この実験を60人の被験者を対象にして行ったところ、クリスに見守られながらアナグラムを解いた被験者は、解く速度は上昇する一方、正答率は下がることが判明しました。研究チームの発表によると、この結果は他人に「見られていないとき」と「見られているとき」ではパフォーマンスに変化が生じるという「観客効果」を示しており、人はアバターの視線でも「見られている」と感じているとのことです。

2つ目の実験は、「2つの椅子のうち1つに座る」というものです。ただし、被験者には、2つの椅子のうち1つに既にアバターが座っているように見えています。

椅子に座るように命じられた被験者の27人のうち全員が「アバターの座っていない椅子」を選択したとのこと。さらにアバターを非表示にしてから椅子に座るように命じたところ、27人中21人が「アバターが座っていた椅子」を避けたという結果が得られました。また、椅子に座る際の「動き」にも変化が見られました。椅子に座るために身体を180度回転させる際に、27人中25人の被験者が「アバターに背を向けないように回転した」そうです。

多くの人は、「他人に背を向けないようにする」という社会的なエチケットを、アバター相手にも守っていたということになります。

3つ目の実験は、ARゴーグルを装着した被験者と、装着していない被験者で会話をしてもらうというもの。

ただし、ARゴーグルを装着した被験者には、AR空間上のオブジェクトが会話相手の顔に重なって表情が見えなくなるようにして会話してもらいました。

この実験は102人の被験者を対象にして行われましたが、ARゴーグルを装着した被験者はしていない被験者に比べ、会話相手との社会的なつながりが少なかったと報告しました。これはAR上の表示が人間の感情や感覚に影響を与えるということを示唆しているとのことです。

バイレンソン教授によると、ビデオ会議はアイコンタクトやジェスチャーなどの非言語的なコミュニケーションにとって不十分である一方、ARならば人の存在を意識しながらコミュニケーションを取ることができるとのこと。「この種のARの研究が進めば、1時間の会議のために、世界を半周するような飛行機に乗る必要はなくなります」とバイレンソン教授は語っています。