「ファミリールパン」とは異なる新たなルパン「LUPIN THE ⅢRD」を生んだ浄園祐プロデューサーにインタビュー
2014年6月公開の「次元大介の墓標」、2017年2月公開の「血煙の石川五ェ門」に続き、2019年5月31日(金)から「LUPIN THE ⅢRD 峰不二子の嘘」が劇場公開されます。この「LUPIN THE ⅢRD」シリーズの系譜は、2012年に放送されたTVアニメ「LUPIN the Third-峰不二子という女-」にさかのぼります。
明るいコメディタッチでファミリー向け作品となった「ルパン三世」とは一転、原作のモンキー・パンチさんが描いていたようなハードボイルドな雰囲気をまとったシリーズはいかにして生み出されたのか。メインスタッフを集めた、まさに生みの親である浄園祐プロデューサーに話を伺ってきました。
『LUPIN THE ⅢRD 峰不二子の嘘』本PV 5月31日(金)より新宿バルト9ほか限定劇場公開│"LUPIN THE IIIRD: Fujiko's Lie" - YouTube
GIGAZINE(以下、G):
「峰不二子の嘘」は「次元大介の墓標」「血煙の石川五ェ門」に続く、「LUPIN THE ⅢRD(ルパン ザ サード)」シリーズの最新作です。TVスペシャルの「ルパン三世」シリーズとは異なる表記は、3作品より前に放送された「LUPIN the Third-峰不二子という女-」からですが、このシリーズはどういった経緯で生まれたのですか?
浄園祐プロデューサー(以下、浄園):
僕がテレコム・アニメーションフィルムの社長になったのが7年ぐらい前のことで、小池さんが監督を務める「LUPIN THE ⅢRD」シリーズはテレコムに来てから始めました。「ユーリ!!! on ICE」の山本沙代監督にやってもらった「峰不二子という女」のときは、まだトムス・エンタテインメントのプロデューサーでした。作品をやっているさなかにトムスの社長から、テレコムの社長をやるようにと言われたんです。
山本沙代監督はマッドハウスの制作進行出身なんですが、マッドハウスでは演出を目指している人は制作進行や設定制作をやりつつ演出としてデビューさせる会社の方針があったみたいで、山本監督も制作進行から演出デビューしているんです。「ルパン三世」シリーズでは初の女性監督なんですけれど、ノイタミナで「ミチコとハッチン」を見た時に「この人、女性監督としてはハードボイルドなものをやるなぁ、カッコいいなぁ」と頭に残っていたんです。ですから、新しいルパン三世シリーズを立ち上げるにあたり、山本沙代さんと小池健さんにどうにか関わってほしいとメインスタッフの青写真を描いておりました。沙代さんは小池さんの後輩ですし、マッドハウスで作品を共にしていることも拝見していたので「沙代さんを監督にすれば、十中八九、キャラクターデザインは小池さんにお願いしたいと言ってくれる!」という勝算が僕の中にありました。そして「REDLINE」が終わった直後だったので、小池さんには大きな案件が入っていなければ可能性はあると思っていました。まず沙代さんが監督を引き受けてくれることになって1つクリアしたところで、「キャラデザはどうしましょう?」って聞きました。心の中では「小池健!小池健!」と思いつつ(笑)
G:
「小池さんの名前を出してくれ!」と(笑)
浄園:
そうしたら、ものの3秒ぐらいで「小池健さんがいいと思います」と言ってくれたんです。僕は、今でもそのときの声を覚えていますよ。もう、心の中でガッツポーズです(笑) 僕は小池さんが手がけた「PARTY7」のアニメーションパートとかを見て「ああ、この人はルパンをかっこよく描ける人だ」と思って、小池さんのMADムービーとか見つつルパンを作っていたほどに好きでしたから。
G:
理想のスタッフを得られたと。
浄園:
もし沙代さんが監督を引き受けていなかったらここまで来られなかったので、すごく感謝しています。僕は小池さんを「マッドハウスの至宝」と勝手に呼んでいましたが(笑)、それほどの人ですから。当時は本当に小池さんがルパン三世を引き受けてくれるのか?ドキドキしていました。でも小池さんからは「やってみたい」というお返事をもらう事ができたんです。
G:
おおっ!
浄園:
最初はキャラクターを5点描いてもらいました。それがすごくかっこよくて、会社でも「いいんじゃないか?」ということで、無事企画が進められました。
G:
小池さんが最初に描いた5点というのはどういったものでしたか?
浄園:
ルパン一味と銭形です。これは僕しか持っていなくて、世の中には出していません。もっとアップデートをかけていって今のものになりました。山本沙代監督が「今回の峰不二子という女は漫画にしたい」と言ったんです。「立体感を殺したい、その方がルパンは画面がかっこよくなる」と。2011年から2012年にかけて、背景がまるで写真かと思うようなリアルな作品が増えていましたが、その流れに逆行して、背景もデフォルメしたようなものにしました。そこも「漫画であるべき」だと。沙代さんの話を受けて、小池さんは自分なりにうまくパースを取りつつも、立体感を消していったんだと思います。でも、ディテールは徹底的に凝っていました。そこは、小池さんらしさだし、妥協がないです。
G:
ディテール、めちゃくちゃ細かいですもんね。
浄園:
「峰不二子という女」のときは、小池さん以外も、希望したスタッフに一発でOKをもらうことができました。人生のピークってあれだったなと思うぐらいです。
G:
一発でみんな決まるのは珍しいですか?
浄園:
ルパン以外にも自分で企画を立ち上げたり、会社から「これをやって欲しい」と企画を振られたりして、風呂に入りながら「あの人がいいな」といろいろ考えるんですが、やっぱり忙しいとかで断られるというのがほとんどです。僕が勝手にスターティングメンバーだと考えた人たちが一度会って「やります」と言ってくれたのは、本当に珍しいです。
ルパンでは継続的にTVスペシャルをやってきましたが、王道の「ファミリールパン」とは差別化したものを企画して「モンキー・パンチ先生のハードボイルドなところをもっと出したい」と考えていました。僕自身、子どものころに「ガンバの冒険」「ヤッターマン」「ルパン三世」というヘビーローテーションの中で育ってきた人間だから、もちろん赤ジャケットのルパンは好きだし、死ぬほど見てきました。でも「峰不二子という女」みたいなものをもっとやりたかったし、やれば、業界にいて絶対にルパン好きだけれど、これまでルパンをやっていない人が新たに参加してくれると思ったんです。それこそ、渡辺信一郎さんとか。
G:
「カウボーイビバップ」の。
浄園:
ビバップは「あの当時のルパンよりもルパンしてる」というか正直「かっこいい、やられた」と思いました。だったら、本家本元のルパンをやっている僕らもああいうのを作らないといけない。「機動戦士ガンダム」が幅広く展開しているように、ルパンだって、キャラクター単体で展開したっていいじゃないかと。
浄園:
実際、「峰不二子という女」では、渡辺信一郎さんには山本沙代監督のたっての希望で、音楽プロデュースをお願いする事ができました。菊地成孔さんを連れてきてくれ、かつルパン三世を好きだった渡辺さんが音楽という形で映像の感情やテンポを引っ張ってくれました。そういった意味で、すごいクリエーターが集合していたんです。
G:
おお……すごい……。
浄園:
小池さんには第1話で作画監督をやってもらって、最終話でもけっこう描いてもらったんですが、中盤はスケジュールの都合もあり、人海戦術でやることになりました。小池さんをはじめ脚本の岡田麿里さん、音楽面を渡辺信一郎さん、撮影はサンジゲンさんの力があったからこそ、世界観も含めて「新しいルパンが始まる」という雰囲気は出せたし爪痕も残せたと思うんですが、「小池健の力を出し切ったようなルパン三世をもう一度」という思いはありました。そんな中で僕がトムスからテレコムへ行くことになったので、改めて小池さん純度100%のものを、もっとかっこいいものをやろうということで新たな企画を進めることになりました。ルパン三世はトムスが映像化権を100%持っていますから、「やりたい」がちゃんと通じれば企画に対しては応援してくれます。
そうやって始まったのが新企画の「次元大介の墓標」でした。「峰不二子という女」のころ、まだテレコムは三鷹にあったんですが、中野のトムス本社の建物へ移ることになったので、新井薬師のスタジオにいた小池さんにもこのタイミングでテレコムに入ってもらいました。それで、1人1人の話をやっていくというつもりはあったものの順番は決まっていなくて、一方でシリーズ化が決まっていたわけでもないから一発目で結果を出す必要があり、まず数字を取れる次元からやる事だけは決めていました。「次元大介の墓標」は評判がよく、結果も残せて、小池監督とテレコムの親和性も高いということが分かりました。
G:
親和性というのは、どういった部分ですか?
浄園:
小池監督は「REDLINE」という大作を終えたばかりなので、体がロングスパンに慣れて来てるだろうと想像できました。「どうしよう、スケジュールは大丈夫だろうか」と思っていた部分もあるんです。ところが小池監督が結婚されて、お子さんが生まれたんです。すると、やるときにはとことん徹夜の「超ハイパークリエイター」だったあの小池健が「娘さんをお風呂に入れたいので、朝早く来て、18時ごろには帰ります」と。最初に聞いたときは「なんだって!?」ぐらいの驚きでした。ところが、「峰不二子という女」はトムス・エンタテインメントの新井薬師にあるスタジオでの制作で、フリーの集団だったから夜型アニメーターの人も多かったんですが、テレコム・アニメーションフィルムはみんな社員アニメーターだから、11時に来て、夜になると徹夜はせず帰るんです。テレコムみたいなアニメ会社はわりと珍しいんですが、その社風と小池監督がすごくマッチしたんです。
G:
なるほど、そこが。
浄園:
「次元大介の墓標」「血煙の石川五ェ門」「峰不二子の嘘」の3本のあいだに、あのマッドハウスの小池健がテレコムに根付いたなと。本作においては、制作や美術監督、原画の友永和秀、横堀久雄、佐久間千秋なども、毎日規則正しく会社に来ます。社員であれば勤怠管理として深夜残業、休日出勤などの時間外労働も厳しく指導しています。もちろんクリエイティブでありたいですから、粘る所は粘ります。でもその前にプリプロとなる事前準備や、打ち合わせ以外の日々のコミュニケーションを社内の同一フロアでできること、ささいなアラートをスピーディーに解決できる所もテレコムの良さであります。まじめに作品に向き合う人を無名有名問わず評価してくれる小池監督にとって、そんなテレコムは居心地がいいと思ってくれたんでしょうね。
G:
うまい具合にハマったんですね。
浄園:
ただ、慎重な方でもあって、テレコムには友永、横堀のように「A級」「S級」と表現できるようなアニメーターもいますが、ネームバリューではなく仕事ぶり、腕を見るんです。最初、入れてもらったのはトップクラスの3人だけでしたから(笑) ただ、1回やってうまかったら信頼してどんどん入れてくれて、しかも若い子たちをぐんぐん育ててくれます。人を引きつける何かがあるし、育てる力もある人だなと思います。でも……求められる内容は大変で絵コンテを見て頂けるとアニメーターは青ざめますね(笑)
G:
コンテが大変というと、出来がいいからでしょうか?
浄園:
そうです。完成度が高い。このまま撮影して流しても「面白い」って思えるようなモノなんです。東京ムービー作品でいえば、この対局が出﨑統さんのコンテといえます。ときには背景がなく、キャラクターが向いている方向もはっきりしないことがありますが、とにかく熱量がすごい。いろんなものが伝わってくるし、見ていて引き込まれるコンテであることは間違いない。出﨑さんというのは生粋の演出家であり「俺はこういうプランでドラマを見せたい。あとは、お前のカッコいい絵を載せてごらん」という感じ。「やりたい絵でアプローチしておいでよ」と、作画マンがいい意味で力量を問われつつ、かつ、やりたいことをやる幅が残されている。一方で、小池さんは自分自身がアニメーターだから、コンテの時点で完成されているという印象です。すべて描かれていて、いわば上司から「たたき台は作っておいたから」と渡された内容が完璧という感じです。
G:
こんなにも描き込むんですね。
浄園:
コンテだけではなく設定もそうなんですよ。靴の裏まで描くんです。ここにカメラが寄ることはないから見えないけれど、描くんです。うまいアニメーターさんに見せると「ここまではできない」と言われます。なにができないかというと「根気がすごい」と。普通は怠けるものだし映っていないからここまではやらなくてもいいのに。
G:
一瞬しか出ないようなところも細かく作られていますね。
浄園:
これを見せられると、もうぐうの音も出ません。
G:
「これぐらい描いて欲しい」というオファーだったわけではないんですね。
浄園:
僕からも小池監督に「なぜこんなにも描き込むんですか?」と聞いたことがあるんです。すると、アニメというのはいろんな人が描くものだから、自分が最高値のモノを作っておかないといけないという答えでした。監督さんの中には「自分は中くらいで、あとは作監さんたちに任せる。カッコいいの描いてよ」という人もいます。「俺のプラン通りに描け」という人もいます。小池さんは「ここまではやりました。あとはみなさん、頑張って」と送り出しているのかなと。
G:
アニメーターでもある監督が最高点を出してきているのだとすると、厳しいですね。
浄園:
すごくストイックだなという印象です。誰よりも練習しているイチローみたいな人。制作のピークを迎えたら髪の毛が伸びて痩せてきて、まるで剣豪が修行しているかのようです。それこそ、小池監督の姿を見たら制作がピークかどうかわかるほどです。でも、そうやって自らが先陣を切るから、「小池さんのためにやるしかない」となるんでしょうね。パワーがあっていいものを作る監督というのはみんなまわりに要求するものですが、小池さんは本人が修羅のごとくやっていて、曲げない。
G:
「曲げない」?
浄園:
初志貫徹です。コンテで作ったプランに対して後出しはあまりなくて、ただ、そのプランを最後までやる。「これぐらいだったら、まあいいか」というのはなくて、おそらく自分の中ですでにできあがっているフィルムに近づけていっているのではないでしょうか。監督によっては、できあがりがどうなるかわからなくて楽しみという人もいます。だからこそ、自分が好きな人にキャラクターデザインや総作画監督をやってもらって「おおー、やっぱりいいモノになってる」と。小池さんは自分に対して自分自身が一番厳しいなと。
G:
小池監督というと毎回アクションがすごいですよね。今回もド迫力のカーチェイスがあって。
浄園:
実は、分量で言うと今回は少ない方なんです。不二子だから、ボディとボディの戦いを避けたいなと思って。五ェ門はそういうのができるキャラだから思う存分やったし、次元は銃を持っているからアクションも含めて派手にかっこよくと考えました。一方、不二子は銃を使うしバイクにも乗るけれど、女性キャラクターなりの見せ方が必要だろうと。あまりバチバチやり過ぎても絵にならないんではないか、不二子の戦いに爽快感を求めちゃいけないんじゃないかと僕は思っていて……そこは小池さんがとても美しくやってくれました。音楽はジェイムス下地さんがいいのをつけてくれて。
G:
音楽、すごく合ってましたね。
浄園:
もっとアップな曲をつけようと思えばつけられるけれど、あえてビンカムに感情が入るような音楽にしているのは不二子ならではですね。あのビンカムとの戦闘シーンは小池さんのご指名で、女性アニメーター2名が描いています。戦いながらも可憐で美しい。あれが肉弾戦になってしまうとどんどん滑稽になってしまうんじゃないかと思うんです。そもそも「女対男」なので、見た目にあまりカッコいいものにならない。スーパーヒーローもので目からビームを出したりできればいいんですが、そういう作品ではないですから。ビンカムを、ヤエル奥崎やホークのように「モンスターすぎる」存在にしなかったのは、不二子と戦うなら心の通わない殺戮マシンではなく、どこか不二子の魅力にとりつかれて欲しかったからです。
G:
そのあたりは監督と話しつつ決まっていったところですか?
浄園:
そうですね、シナリオ作りの中で、ああしてこうして、ここは押さえてと。小池監督は本作ではコンテを1人で描いているし演出も作監もやっています。今のアニメではあまりないスタイルですね。
G:
ドリームチームを集めて制作できたシリーズということで、こうして3作目公開まで来ての手応えを教えてください。
浄園:
まず、第三弾まで長い年月をかけて僕を含めチームを引っ張ってくれる小池監督には感謝しかありません。そして毎度、出来上がった時の達成感がたまらなく嬉しい。早くお客さんに見てほしいという感情がこみ上げてきます。今回は沢城みゆきさん演じる不二子の普段では見られない一面や演技も沢山見らえます。これまでのファンも、新規のファンにとっても峰不二子という魅力に改めて気づいてもらえる、そんな作品に仕上がりました。「次元大介の墓標」が完成した時は、モンキー・パンチ先生もトムスでの試写にわざわざ足を運んでいただき、「これはルパンの歴史に残る、面白い」と喜んでいただきました。この小池監督のシリーズはモンキー先生がすごく応援してくださっていたので、そのおかげで今があるなと思います。
G:
なるほど。ありがとうございました。
さらに引き続いて、「LUPIN THE ⅢRD」シリーズを引っ張る中心人物・小池健監督とはどんな人物なのか、そして作品作りにどのように取り組んでいるのか、いろいろと話を伺ってきました。
・つづき
「LUPIN THE ⅢRD 峰不二子の嘘」小池健監督インタビュー、不二子の魅力「知性・美貌・フィジカルの高さ」を引き出した作品作り - GIGAZINE
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