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第二次世界大戦中にナチス・ドイツとイギリスが繰り広げた「電波の戦争」とは?

by Gerard Eviston

第二次世界大戦中、ナチス・ドイツはイギリスに対する空爆を行い、多くの被害を与えました。ドイツの爆撃機は夜間空襲にもかかわらず的確にターゲットへ爆撃を成功させ、イギリスの人々を恐怖に陥れました。ドイツの爆撃機は「電波」を用いて夜間空襲を成功させており、「イギリスとの間で電波を巡る激しい攻防が繰り広げられていた」と、軍事分野の愛好家であるエリック・ブラウン氏がまとめています。

England Was Almost Destroyed By Radio Waves – Lessons from History – Medium
https://medium.com/lessons-from-history/england-was-almost-destroyed-by-radio-waves-df70830e8593

第二次世界大戦時、ドイツはイギリスに対して効果的な夜間空襲を成功させました。通常、夜間はターゲットが明かりを消してしまうため発見することが難しく、当時の技術では夜間の爆撃で成果を上げることは非常に難しいものでした。しかし、ドイツの空爆機は非常に高い精度で夜間爆撃を行ったとのこと。


当時のイギリスは空襲に備えて灯火管制を行っており、誘導爆弾も高度なGPSもなかったドイツ側にとって、夜間空襲は非常に難しいものでした。高度な索敵技術が存在しなかったのはイギリス空軍も同じで、夜間空襲の際には航空機の上部にあるAstrodomeという透明なドームから夜空の星を確認し、六分儀を使って目標の位置を確認していたそうです。

もちろん星座や六分儀を用いた夜間空襲の精度はそれほど高いものではありませんでしたが、ドイツ空軍は非常に正確な夜間空襲を成功させました。工業都市であったコヴェントリーはドイツ空軍による夜間空襲の標的となり、市の中心部が破壊されて多数の死者が出たそうです。ドイツ空軍が夜間空襲で高い精度を誇った理由は、「電波」を空襲の際に用いたためだとブラウン氏は述べています。


戦前からドイツの航空業界は安全システムを構築するために多額の資金を費やしていました。特に夜間であったり視界が悪かったりする際に、安全に滑走路へ着陸することはパイロットの安全を確保するために重要であり、ドイツでは「ローレンツビーム」という着陸ナビゲーションシステムが開発されたとのこと。

ローレンツシステムの仕組みは、地上から航空機に向けて2種類の電波を発信し続けるという単純なもの。滑走路の両端に設置したアンテナから滑走路へ向かって飛んでいる航空機に対し、地上から向かって左側に「ダッシュ」信号が聞こえる電波を、向かって右側に「ドット」信号が聞こえる電波を送信し続けます。

航空機のパイロットがラジオの周波数を決められた電波に合わせると、2つの電波が重なり合う狭い範囲でのみ、パイロットはドットとダッシュの両方を聞くことができます。パイロットがドット音しか聞くことができない場合、航空機は進行方向に向かって左に寄りすぎているため、進路を右側にズラしてドット音とダッシュ音の両方が聞こえる位置を探します。当然ですが、逆の場合も同様の方法で航空機の位置を探る事が可能。


このローレンツシステムを応用し、ドイツは標的の場所を正確に知ることができるのではないかと考えました。もちろん攻撃対象となる地点から飛行機に対して電波を送信し続けることは困難ですが、自分たちの領土からターゲットの上空まで一直線に電波を送信し続けることで、少なくとも攻撃対象の上空まではたどり着くことができます。

問題はどのタイミングで爆弾を投下するべきかという点ですが、ドイツはもう1つの信号を加えることでこの問題を解決しました。パイロットは1つ目の信号に従って飛び続け、もう1つの信号が重なり合った地点で爆弾を投下します。2つの信号がちょうど目標の上空で交差するように照射されている場合、パイロットは地上が暗くても的確なタイミングで爆弾を投下できるというわけ。

ドイツがKnickebeinと命名したこの方法は、ナチスが持っていたヨーロッパ各地の拠点から送信される電波によって、正確にイギリスの標的を指し示すことができました。


すぐにイギリス側も、電波を用いてドイツが正確な夜間空襲を可能にしているという事実に気づき、ドイツ側の電波に見せかけた偽の電波を流すことで爆撃機のパイロットを惑わせる妨害作戦を実施。この作戦は成功しましたが、ドイツ側はKnickenbeinを改良し、X-Gerätという新たな爆撃機誘導方法を考案しました。X-Gerätはコヴェントリーへの空襲にも使用された誘導方法です。

X-Gerätでは目標地点へと誘導する1つの電波と、交差する3つの電波が用いられます。3つの電波はそれぞれ「Rhine(ライン川)」「Oder(オーデル川)」「Elbe(エルベ川)」と川の名前にちなんだ名称で呼ばれ、Rhineは目標30km手前、Oderは目標の10km手前、Elbeは目標の5km手前を指し示していました。X-Gerätにおいて、目標地点は電波の重なる交差点ではなく、交差点の先に位置します。重要なのはOderとElbe間の距離(5km)とElbeから目標地点間の距離(5km)が等しいという点で、Oderを通過するとパイロットの持つ特殊な時計がゼロからスタートし、Elbeを通過すると時計の針が逆回りになります。Oder-Elbe間とElbe-目標地点間の距離が等しいため、針が再びゼロに戻った時に爆弾を投下すれば目標地点を正確に爆撃できるというわけ。このシステムは一部の爆撃機にしか搭載できなかったため、システム搭載機が目印となるフレア爆弾を投下し、後続の航空機がそれを見て爆弾を投下するという風に運用されたとのこと。


システム搭載機が墜落したことから、X-Gerätの仕組みもイギリス側によって解明されました。しかし、やはりドイツ軍はさらなる爆撃機誘導方法を考案してきたそうです。それがY-Gerätというもので、1つの電波のみを使って爆撃機を的確に誘導するシステムでした。

Y-Gerätでは地上から爆撃機に向かって電波を発し、爆撃機に搭載したトランスポンダがそれを地上の仲間へと反射します。この電波を受け取った地上の基地局は電波が戻ってくるまでの時間や向きを計算し、爆撃機がどこを飛んでいるのか、目的地までどのように飛べばたどり着くのかを算出。後は無線によってパイロットに指示を出し、目的地点まで誘導するという仕組みでした。

イギリスがY-Gerätを妨害するために使ったのは、なんと英国放送協会(BBC)がテレビ放送を行うためにアレクサンドラ・パレスに建設した電波塔でした。1939年から電波塔はテレビ放送を停止していましたが、幸運にもY-Gerätで使われる周波数帯とBBCが使う周波数帯が一致していたため、イギリスはアレクサンドラ・パレスからドイツへと偽の反射電波を送信して作戦を妨害しました。また、BBCのサウンドエンジニアがドイツのラジオ受信機で爆音を鳴らし、パイロットの鼓膜を負傷させることもできたとのこと。


やがてドイツはイギリスへの空爆を諦め、ソ連との戦いに航空機戦力を向けるようになりました。もしもイギリスがドイツ軍の空爆に対抗する手段を持っていなければ、戦況は変わっていたかもしれないとブラウン氏は述べています。

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in メモ, Posted by log1h_ik

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